第百二十六の話 散歩でマンボ!
〜龍二視点〜
「は!せい!」
【ドッ!ゴス!】
「リュウくーん!!」
「あぁ?何だ?」
【ドッ!ドッ!ドッ!】
「遊ぼー!」
「あーちょっと待ってな〜。」
【ズゴ!ボスボス!】
「む〜今じゃなきゃやだ!」
「無理だっつーの。あともうちょい。」
【バキバキバキバキ!グシャァ!】
「……あ、あのリュウジさん?」
「あ?何だよアルス?」
「…さっきから何殴ってるんですか?」
「サンドバッグだが何か?」
庭の木の枝に吊るした揺れるサンドバッグを止める。今日は何か気分的にボクサーの真似事をしてみたかったから、ちょうどもらったサンドバッグを有効に活用していたのだ。
「……サンドバッグ?」
「んだよお前らサンドバッグも知らねえのかよ?いいか?こいつはな」
「いえ知ってます。」
「どーん!」
「ぴぎゃあ!?」
「アルスー!!」
俺のありがたき説明を遮り、あまつさえ知っていると断言したムカつき小娘の頬をビンタならず回し蹴りを食らわして庭の端まで吹き飛ばしたら塀が壊れた。へー。
「あ、アンタいくらなんでもあれは容赦なさ過ぎ」
「あぁん?」
「サーセンでした!」
反論してきたフィフィを軽く威圧、フィフィたまらず土下座。コンマ一秒もかかってない素早さだった。さすが。
「……い、いだいです……。」
「クルル、これ当ててやれ。」
「あ、うん。」
いろんなところがボロボロのアルスを取りに行っていたクルルに氷水の入った袋を差し出す。何故持ってるかと?あれだあれ。コメディーは不可能なことさえも無視すんだよ。
「ふぅ……ま、いいか。」
とりあえずボロボロになったサンドバッグを地面に降ろす。
「俺今から散歩行くけど、暇なら一緒に行くか?」
「行くー!!」
クルル即答。えらい早いなオイ。
「私もー。」
「……ボクも行きますけど……。」
『当然、今回は私も行くぞ。』
満場一致で全員で散歩しに行くに決定〜。
「うし、じゃ準備すっか。」
「……あの、リュウジさんその前に…。」
んあ?
「……そのサンドバッグなんですけど、血が滲み出てません?」
「気のせいだろ?」
「それにサンドバッグにはあるまじき打撃音が…。」
「それも気のせい。」
「後何か袋の端から金髪みたいなのが…。」
「そういうサンドバッグだからな。」
「……何か袋の穴から手が出て地面に血で『タスケテ』って書いてありますけど…。」
「気ニシナーイ。」
これはとある友人から借りた死神みたいな奴で、名前はあえて言わない。殴っていいと言ったから遠慮なく気分転換の道具にしてやったが、もうダメだなこれは。後で捨てるか。
「じゃ行くぞー。」
「イエーイ♪」
「オッケー。」
『承知した。』
「え!?ちょ、サンド……これホントに放置!?」
イエス。
〜自宅前〜
さて、自宅前に出たとこでっと…。
「リュウくーん。どこ行くの?」
「適当にブラブラ。」
「え…何の理由もなしにですか?」
「アホォ。何の理由も無しにブラブラするから散歩なんだろうが。途中で何か新しい発見があっかもしんねぇだろ?」
「な、なるほど…。」
『妙に説得力があるな…。』
散歩愛好者をなめんな。
「よぉし、じゃどこらへんブラブラしに行くか言ってみろ。」
「…じゃボク公園へ」
「却下。」
「早っ!?とゆーか何でですか!?」
「今日は別のルートへ行きたい気分だ。」
「……それじゃぁ、」
「うし、商店街行くぞ。」
「「「『聞いた意味ない!!??』」」」
こいつら日に日にチームワーク(主にツッコミ)上がってってるな。
因みにサンドバッグは庭に放置してきた。
**********************
さて、商店街に到着したところで……早すぎやしねぇか?とかいうツッコミはなーしよ。
「あ、見て見てリュウくん!可愛いクマさん!」
おー、テディベアが並んどるな。確かに可愛い。
「あ、これも可愛い〜!」
ほほぉ、ぬいぐるみショップに立ち並ぶぬいぐるみ達か。イヌやらネコやら、よりどりみどり。
「きゃー!これもかーわいー!」
おー、相変わらず立派な髭してんなぁカー○ル・サ○ダース。アホクルルめ。
「わぁ!このお人形さんなんて生きてるみたーい!」
「うー?」
「あの、生きてるみたいって私の息子なんですけど…。」
すいませんねぇ身も知らない赤ん坊連れの奥さん。
まぁいい。適当にクルルはポイしておいた。
「あ、待ってよリュウく〜ん!」
待たん。
「?アルス?何してんだ?」
「……。」
何かの店の前で見上げながらじ〜っと何かを真剣に見つめているアルス。何なんだ?
………………ほぉ?
「ツバメの巣か。」
「ツバメ…ですか?」
そうか、こいつらの世界にはツバメがいないのか。
「…可愛いです…。」
まぁ、確かに可愛いな。雛がピーチクパーチク鳴きながら母親からメシもらってるのを見てるのは何か和む。
「…あ。」
おっと、母親飛び出してったか……子供らの為にも頑張れよー。
「……ツバメって可愛い……。」
「………。」
キラーン★←(よからぬ考え思いついた時の音)
「…アルス?」
「?はい?」
「ツバメ
脊椎動物門 鳥綱 スズメ目 ツバメ科に属する鳥の一種。
北極と南極を除いたほぼ世界中に分布し、約八十種が知られている。日本ではツバメ、コシアカツバメ、シュウドウツバメ、リュウキュウツバメ、イワツバメの五種が知られている。ツバメの長さは10〜12センチ、背中は大体黒青色、腹面は白色、頚部は褐色である。白い翼と流線形の体は長距離の飛行に適している。尾は二つに分かれ、長い。害虫を捕食とする益鳥。餌は飛んでいる昆虫を飛行しながら捉える。
はいここまでで質問は?」
「………え?」
長い説明についてこれなかったのか、目が点になっておりま。
「何?もっかい説明して欲しいか?ツバメは、」
「いえ、そうじゃないんですけど………害虫?」
「ん。」
「………昆虫?」
「イエス。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……ツバメって可愛いと同時にすごいんですね……。」
「だろ?」
はいアルスの中からツバメのイメージがガラリと変わりましたー。
「……と、ところでツバメが食べる虫ってどういうのなんですか?」
「ああ、例えば〜……。」
「きゃーーー!助けてーーー!!」
「あれ。」
「あ、あれか〜……………ってフィフィーーーーー!!!???」
そしてさっきのお母さんツバメは虫(?)を捕らえて戻ってきた。
「私は虫じゃないわよおおおおおおおおおおお!!」
「じゃ無視。」
「無視もしないでってきゃあああああああああああああ!!食われる食われるる殺されるううううううううう!!!」
「フィフィ落ち着いて!魔法撃とうとしないで!!」
こらこら、何の罪もないツバメの家族を殺しちゃいけんよ?
「ちょ、ホント、マジで助けて!助けてって!いた!あいた!つっつくなあああああ!!」
……やべ、見てておもしろい。
「り、リュウジさん見てないで助けてくださいよ!」
「お前がやれば?」
「……つ、ツバメさんを傷つけることなんてできません!」
“さん”を付けるな。
「……しゃーねぇな。」
それじゃあ……
「………。」
「………?」
「………。」
「………。」
「………。」
「………!?」
「【コクリ】」
「………!」
はい返却してもらいました。
「……へ?」
「た…助かったにゃ〜…。」
「ドンマイフィフィ。」
しかもいい感じにボロクソン。
「……あの、リュウジさん何したんですか?」
「ほえ?見てわからんかったか?」
「はい。」
即答だった。
「何だよわかんなかったのかよ。
ツバメの親にフィフィ返してくれるよう頼んだだけだ。」
「その頼むっていうのがわかんないんですけど!?」
「鳥語喋ったからに決まってんだろーが。」
「あっさり自白!?とゆーより喋れるんですか!?」
「おう。」
『因みに私もだ。』
「アンタも!?」
つーか何か知らんけど俺とエルって動物と会話できんだぞ?知ってたろ?珠で実証済み。
因みに、さっきの三点リーダだらけのセリフんとこ、あれが俺とツバメの会話。分かりやすいように補足しといた。どんな会話したかはご想像に。
「もういいか?行くぞ。」
「「……はい。」」
何かイマイチ納得してない表情だけど気ニシナーイ。
「……今度ボクも動物語習おうかなぁ……。」
「無理だと思うけどなぁ…。」
後ろでブツクサ言ってるのも気ニシナーイ。
「…ところで魔王は?」
「あ、そういや…。」
さっきほったらかしにしといたっけなぁ………
ふむ。
「多分こっちだ。」
「た、多分って…。」
俺の勘がそう言っている。
「え〜〜〜……………あ、いたいた。」
そう離れてないところにあるスーパーの前で、人だかりができていた。さっきから何か賑やかだなぁと思ってたらこれか。
「む〜!見―えーなーいー!!」
で、その最後尾んとこで必死にピョンピョン飛び跳ねているバカがいた。
「おいクルル。」
「あ!リュウくん!」
こっちに気がつき、人だかりから離れて駆け寄ってきた。
「何してんだお前?」
「何か人が一杯集まってるから、何してるのかな〜って思って。」
「……でも見れてないんですね?」
「だって皆身長高すぎるんだもん!」
お前がチビなだけなんだもん。
「…あの、それより人だかりが全員女性っていうのはどういうことなんでしょう?」
「んあ?」
………確かにアルスの言うように、人だかりは主に女性で構成されている。ドラマのロケとかで大物俳優がこの商店街に来たんかね?何かキャーキャー言ってるし。
「……気になるな。」
「でしょ?」
ふむ、だがこの人だかりの中掻き分けつつ全身するのは苦労するぞ。完全密集してるしな。
「ふぅむ……………
お?」
ふと目に留まった物があった。電柱だ。
「…おし、ちょいと待ってろ。」
アルス達をその場に残し、電柱に向かって軽くジャンプ。
「ほいっと。」
よし、いっちゃん上に着いたぞ。あ?電柱くらい軽くジャンプするくらいで頂上いけるだろ?
どれどれ、人だかりができる程のもんだからどれほどの大物だ?
『すいませんいい加減離れてくれませんか?』
『帰れないんですけど!?』
『も〜少しくらいいいでしょ〜?』
『お姉さん達といいことしようよ〜♪』
『うわぁ!?ちょ、カルマ助けて!この人達目がホント恐いって!?』
『大丈夫だ。いざって時にはお前を身代わりに』
『何恐ろしいこと言ってんの!?』
『も〜可愛いわね〜♪食べちゃいたい♪』
『いや食べるのは勘弁してくださいマジで!?』
………………………………………。
『…リュウジ、確かあれは…。』
「ロウ兄弟だな。」
あいつら何してんだか…あ、ケルマさり気なくケツ触られてビビってる。カルマうまいことかわしてる。
…ま、どうやら困ってるみたいだし、しゃーねぇ。
「とう。」
電柱から飛び降り…
「『龍閃弾』!!」
【ドコオオオオオオン!!】
『きゃああああああああああああああ!!??』
急降下龍閃弾を人だかりの一部めがけて食らわしたった。あ、大丈夫大丈夫。超超最大限にリミッターかけといたから死にはしないだろう。
多分食らった奴らは全員病院行きだけど。
「とっ。」
【スタン】
地面に突き刺さった拳を抜いて少し跳躍、華麗に着地した。あ、やべ。スーパーの入り口ボロボロな上に地面にでっけぇクレーター作っちまった……まぁいい。責任は適当に他の誰かに擦り付けちまうか。
「よぉお前ら。」
「!り、リュウジ!」
「……。」
あっれー?ケルマはわかるが、カルマが何か冷たい視線送ってきてんな〜。せっかく助けてやったのに。
「…リュウジ、やりすぎじゃないですか?」
「え、そう?」
「皆ボロボロじゃないですか…。」
「気ニシナーイ。」
「そうだぞカルマ!せっかく助かったんだから!」
「うんお前黙れケルマ。」
「えぇ!?」
毒舌レベルアップしてんなカルマの奴。
「……この人達どうするんですか。」
「そのうち復活すっだろ?」
「……ならいいか。」
「いいの!?」
いんだよケルマ。
「ありぇ?カルマにケルマじゃん。」
「!?ま、魔王様!?」
クルルの声で若干カルマの口撃で沈んでいたケルマ復活、クルルに駆け寄ってった。
「魔王さまあああああああああああ!!!」
「『岩よ、押しつぶせ』。」
【ズドン!】
いきなりクルルにとびついたケルマをカルマは上空に召喚した人の頭程度の大きさの岩で押しつぶした。
「魔王様、お久しぶりです。」
「やほーカルマ!」
そして何事も無かったかのように話を進めるカルマとクルル。ま確かに俺も内心いつものことだからなぁって思ってっからどうでもいい。
「……………………………死ぬ。」
「ちょ!?ケルマ頭から血出てますよ!?」
「いんじゃないの別に?」
「いやよくないでしょフィフィ!?」
唯一心配してんのはアルスだけだった。
「つーかお前ら何してたんだ?」
「…僕だって正直何でこうなったのかわからないですよ。」
さよか。
「……ただいつも通りにカナエさんからお使いを頼まれて、それで今日はいつものスーパーが休みだったからこちらのスーパーに来たんですけど…。」
あ、ごめん先読めた。
「……一人が声かけると二人、三人と増えていって最終的にはあれだけの集団に……。」
ドンマーイ。
「ホント、何でこうなっちゃったんだろーね?」
「……ケルマ、お前いつの間に復活してたんだ?」
「しちゃ悪いか!!」
「悪い通り越して最悪最低だ。むしろ死んでて欲しかった。」
「ねぇカルマ。僕達双子だよね?同じ血を分かち合った兄弟だよね?」
「最近お前と血縁関係になったことを心の底から後悔し始めてきたんだけど。」
「リュウジ〜〜〜〜〜!!!」
「何故に俺に泣きつくよ?」
多分カルマがこんな素晴らしい性格になるのはケルマに対してだけなんじゃなかろか?
「まぁ、二人とも顔綺麗だから取り囲まれるのも無理ないよね〜。」
「……それ言わないでください魔王様……気にしてるんですから。」
「え?顔綺麗なのっていいじゃないですか。」
「顔綺麗だからこういうことが起きるんだよ。」
「……………。」
アルス、反論できず。
「……まぁ、その、頑張ってください。」
「……ありがとう。」
よかったなロウ兄弟。慰めてくれる奴がいて。
「と、ところで魔王様達も買い物ですか?」
「うぅん、リュウくんとお散歩♪」
「そーゆーこった。」
……あ、何かケルマ瞳が一瞬キラーンて光った。
「……カルマ、僕ちょっと用事が。」
「どうせ魔王様と一緒に散歩したいんだろ。」
「ギクッ。」
今時口でギクって言う奴も珍しい。
「……そ、そんなわきゃねぇだ。」
「どこの方言だ。いいからさっさと帰るぞ。お使いの途中だろうが。」
「ま、待って!せめてもう少し魔王様のお顔を!」
「キモイ。」
「え、それ純粋に傷つくって待ってってばああああああ!!」
「では皆さん、僕らはこれにて。魔王様、またいつか。」
「ああ、またな。」
「バイバーイ!」
暴れるケルマの襟を掴んで引きずりながら去っていったカルマなのでした。
あ、やべ。俺あいつらおもろいから好きだわ。
「……両極端な双子ですね。」
「そうね…。」
にしても、まぁだケルマの奴叫んでるよ結構向こうまで行ったのに。
「……そんじゃ、そろそろお昼だしラーメン食って帰ろうか。」
「わーい♪」
「はぁ、お腹すきました。」
「私も〜。」
『食えん。』
さー周囲に散らばってる女性群は無視してラーメンラーメン♪
……いつかクルル連れて香苗ん家行ってみっか(ロウ兄弟のコント見に)。
〜で。〜
「………何スかこれ。」
後日、恭田の家に商店街の通路とスーパーの損害賠償三百万の請求書が届いたそうな。
サブタイのマンボ!と本編は関係ありません。←それ前書きで言えよ!?