第百二十一の話 荒木家
〜龍二視点〜
【キンコーンカーンコンーキーンコンカコーン】
『わかりずら!?』
「おーし今日はここまでなー。」
ややこしいチャイムにクラスの心が一致団結した証、ハモりツッコミと共に神楽さんの授業はフィニッシュ。ついでに今日の全ての授業がフィニッシュ。つまり家帰れるわーい帰ってラーメン食おー。
「リュウちゃん帰ろ〜!」
「生徒会どうしたってわかりきってるけどとりあえず死ね。」
【バゴォ!】
はいいつもの如くバカ生徒会長が駆け寄ってきたんで俺はイスに座ったまま蹴り上げ放った。キリモミ回転しながら机をなぎ倒しながら吹き飛ぶその瞬間はまさに愉快。
「うわぁ、リュウくん相変わらず容赦ない…。」
「か、カナエさん…。」
「……まぁ慣れたけどね。」
アルスらが荷物を整理しながら囁きあうのが丸聞こえ。
あ、ついでに一緒に吹き飛ばした机やらイスやらをそそくさと元の位置に戻してる他のクラスメイトの方々、ご苦労さん。
「おい龍二、帰るぞ。」
「あいあいさー。」
間の抜けた返事だなんて言うな。
【ガラ】
「龍二〜?」
「?」
教室の後ろのドアが開きそこから中に入ってきたのは名も無き男子生徒A。
「…いや俺お前と同じクラスなんだけど…。」
「すまん、忘れた。」
「し、しどい…。」
泣くな。そして心読むな。
「で?何か用か?今から帰るとこなんだから用件は手短にな。」
ついでに『早く帰らせろよこの野郎』という意味を込めた眼力を送っておく。
「…………………あ、あなた様、にご、ご用はあるという、方が、いらせられ、ます…。」
たどたどしい喋り方をする男子生徒A。(冷や)汗ダックダクだ。暑いよねぇ最近、汗かきたくなるよなぁわかるわかる。
…つか誰だ?俺にご用?
「失礼するぞ。」
っと、少し思案に耽っていたらその訪問者が教室に入ってきた。
…………って、おお。
「あ!ヒグラシさん!!」
「旧校舎で会った今時見れないバアサン口調のコスプレ女。」
「それは罵倒してると取ってよいか?」
入ってきたのは、いつぞや巫女服を着て全身マッチ棒にフルボッコされてた髪が白いお隣のクラスの女子だった。あ、でも今は普通にジーパンと真っ黒いTシャツっつーラフな格好で。口調の割に現代風だなぁ。
……………………………。
「…すまん、名前なんだっけ?」
「…いやさっきクルルが言ったであろう?」
「俺のセリフと被ったもん。」
「……………。」
うん、クルルの声とビッタシ被ったね。タイミングいいのか悪いのか。
「お久しぶりですヒグラシさん。」
「ヒグラシ〜!久しぶりね。」
「お主らも元気そうじゃな。」
まぁアルス達は随分と仲良くなられて。
「…?あれ?そういや何でお前最近学校来てなかったんだ?」
「そういや全然姿見てなかったわね。隣だってのに。」
うむぅ、花鈴達もどうやら仲がよい様子。これが世に言う835(ハミゴ)なるものか。意外な疎外感。
…つかあれ?日暮?ん〜?……どっかで聞いたような〜…?
…ま、いいべ。
「うむ……ちとな。」
「?」
…何とも歯切れの悪い奴だ。
「…それよっかよぉ、オメェさん俺に何か用でもあったんじゃね?」
「ああ、そうじゃったな。」
ほほぉ、訪ねてきておいて用件を忘れるたぁいい度胸だこの野郎。
「………。」
「………。」
「………。」
「………?おい、早く話せよ?」
「…う、うむ……。」
…何なんだこいつ?急に訪ねてきたと思ったら言いにくそうに…。
「…………!も、もしや愛の告はk」
「「「黙れ影薄!!!!」」」
【ズドバキィ!!】
「ぐげふぅ!!」
あ、恭田が香苗と久美と花鈴に蹴り飛ばされて教室の窓の外に吹っ飛んだ。つかここ三階だけど気ニシナーイ。
「……あ、愛の告白などではないわ!!」
ツッコミ遅いぞ。すでにボケかました影薄は奈落の底へと真っ逆さまだぞ。
「ええい、話が進まん…。」
「お前がさっさと用件言わねぇからだろが。」
「……すまぬ。」
うむ、よかよか。
「ほらさっさと言え。いい加減にしねぇと手足をもぎ取る。」
「リアルにエグ!?」
言っておくけどマジでもぎ取るぞ?周囲見回せば俺達以外の生徒皆先帰っちゃって人っ子一人いねぇし、さっさと帰りてぇんだよ俺もよぉ。
つってもここまで待たせておいてしょーもねぇ理由だったらどの道もぎ取られる運命なんだけどね〜っと。
「…今お主、ものっそ黒いこと考えておっただろう。」
「いんや、ものっそ赤いこと考えてた。」
「どんなんだオイ。」
雅が横からツッコミ。読んで字の如しですが何か?そりゃ手足もぎ取られて血ぃ出ねぇわけなかろうがウフフフフフフフ♪
「……おい日暮、早く用件言ってくれ。今こいつスッゲェ悪いこと考えてる。」
「…そうじゃな。」
おぉっと、つい想像しちまった。
「で?用件は?」
「うむ……
すまぬが、今から屋上へ来てくれんか?」
………………………。
「…へ?今から?」
「そうじゃ。」
「…何で?ここで言えばいんじゃね?」
「ここで言えんから屋上へ来いと言っておる。」
「……明日じゃダメか?」
「今すぐじゃ。確認したいことがあってな。」
屋上でか。屋上で確認ってか。
『……………。』
「?おいどうしたお前ら?」
『!?べ、別に?』
何故だろう、女子どもがものっそ疑わしい目を向けてきた。
…ま、そんなこたぁどうでもいいべ。
「そか。じゃ屋上行くか。」
「おお。」
『やれやれ…帰れると思った矢先にこれか。』
腰からエルがぼやく。でもどこかしら嬉しそうなのは気のせいではないと思う。久しぶりに喋れたからか。
「じゃわりぃけど先帰っといてくんね?」
『は〜い♪』
「………。」
女子達、不自然なくらいいい返事。雅、返事返さず人差し指を眉間に押し当てて俯いた。
……まぁそんなこと気ニシナーイ。
〜屋上〜
『ア゛ー …ア゛ー…』
…屋上に出ると、空はすっかり朱色に染まっていた。遠くを見てみれば沈みかかった夕日をバックに優雅に飛ぶ数羽のカラス。こんな時間に屋上なんて来ねぇから結構新鮮な光景だな。
まぁそれはいいとして…っと。
「で?何なんだ確認したいことって。」
「ああ…。」
わざわざ屋上まで連れ出してまで確認したいことがあるっていうのはよくわかんねぇけど、こいつにとったら結構重大な話なんだろうかね?
で、呼び出した張本人は俺に背を向けて、テクテクと貯水タンクまで歩み寄る。そして、タンクの下の隙間の前でしゃがみ込んだ。
「…よっと。」
【シャン】
………?
「何で錫杖?」
「………。」
立ち上がった時に手に持っていたのは、夕日の光を反射して輝く金色の錫杖。一回地面をつくと涼やかな音が鳴るあれだ。
…つーか、おーい聞こえてんの〜?何で錫杖なんて隠してたんだ〜?って言おうとした。
『!?リュウジ!!』
【キィン!!】
エルが呼ぶと同時にバック転して後退した。
で、俺がいた位置には刀を抜刀した状態で立っている日暮がいた。
「…何のまねだ?」
「………。」
あくまで取り乱さず、かつ警戒しながら問う。案の定、相手は無言。
【チャキ】
「…荒木龍二。」
ふと、俺の名を呟きながら刀を構える。
「ワシと…勝負せい。」
「…………。」
俺はこの時、心の中で『何素っ頓狂なこと抜かしてんべこのバカチンがぁ』と悪態をついた。
「…お前さ、こういうの急な展開っていうんだぞ?知ってるか?」
「知っておるわ。この展開についてこれない奴は捨て置けばよい。」
わお、残酷な発言だなある意味。
「…つぅか、なーんでまた勝負なんざ?」
「なぁに、試すだけじゃ………お主をな。」
いやだぁら何を何で試すのかわかんねっつってんの。
「四の五の言うでないわ……ゆくぞ!!」
一瞬、日暮の姿が消え、
俺の至近距離に現れた。
「おぉっと。」
【シュ】
咄嗟に足払いをするが、一足飛びで避けられた。うむぅ、なかなか速いなぁ。
「はぁ!」
「んん。」
その後、次から次へと俺に襲い掛かる剣戟。俺はそれを紙一重で避け続ける。そして最後に足元からの切り上げをサイドステップでかわし、軽くジャンプして屋上のフェンスの上に飛び乗った。
「へぇ、結構やるじゃんアンタ。」
「……何故刀を抜かん?」
一度鞘に刀を納め、こっちを鋭い目で見上げながら構える。
っとと、この構えは……あぁ、やっぱね。こりゃ確実だわ。
「…アンタあれか。『飛燕抜刀流』の使い手か。」
「!?」
おお、驚いてんなぁ。
そりゃそうか。古代から伝わる日暮流陰陽道直属の流派で、その名前は表沙汰にはされずに世間でその名を知ってる奴は一握りだけだかんな。その太刀筋は流れるように飛ぶ飛燕の如く華麗に、んでもって常人では絶対目に捉えることはかなわずとか何とか?
あ、ほんでもって縮地法はかぁなぁりぃの速さだって聞いたな。まるでワープしたかのようなんだと。さっき実証されたけど。
「…お主…知っておったのか?」
「一応、情報王とも呼ばれてたからな。アンタのその構え方、そんじゃそこらの流派にある居合いの構えと違って足の開き具合が大きすぎるのと、腰が他と違って若干高いからもしや〜って思って。あ、そんでお前さんの苗字、日暮だっけ?それも合わせてピーンときたってわけよ。」
「…………なるほど、抜かなかったのは観察するため、か…ククッ。」
?何がおもしろいのか、口の端を若干吊り上げて微笑を浮かべる日暮。何でやねん。
「…やはり、お主は荒木家の…」
「は?」
「…何でもないわ。
では!流派もわかったところで本気でゆくぞ!!」
【ヒュン】
目にも留まらぬ抜刀で、刀を横薙ぎにする日暮。
【……キィィィィ】
「おっとっと。」
いきなり俺の乗っているフェンスが斜めにずり落ちていったんで、ヒョイと屋上の床に着地。
ん〜……まぁ、久しぶりにチャンバラすんのも悪くねぇわな。
「うし、行くぞエル。」
『任せろ!』
【シュイン】
腰の鞘からエルを引き抜き、切っ先を日暮に向けた。
まぁ、俺も居合い得意なんだけどね。でも相手が居合いでこっちも居合いってのはち〜とやりにくいんだよねぇ。
ともかく、それは置いといてぇ。
「とぉ。」
『覚悟ぉ!!』
一気に間合いを詰めてエルで薙ぎ払うが、日暮はそれを杖を立てて受け止める。そっから続けざまに連続で切りつけるが、全部見切ってやがるのか避けたり受け流したりでダメージゼロ。さっすが。
「むん!」
「おっと。」
【キィン!】
ちょっとした隙をつかれ、居合いを放つ日暮。エルを逆さまにして受け、そのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。
「く…!」
「む〜…。」
競り合ってる部分から火花が飛び散り、俺達は顔を至近距離に寄せたまま硬直した。
ただまぁ、俺は手加減してるからいいけど、こいつも結構な力だな。顔必死だけど。
「…お主…余裕そうだ、なぁ…。」
「まぁな。」
「………しかしのぉ………。」
すると何故か不敵に笑い、
「油断大敵、という言葉があるんじゃ!!」
【ガッ!!】
「!!!!!!!!!!????????????」
卑怯にも、日暮が男の勲章たる股間を思いっきり蹴り上げた。まぁ至近距離だからな、しゃーないわな。当然悶絶した。
「ぬああああああああああああああ!!足が!足があああ!!!」
蹴った本人が。
「バカだなぁ、油断大敵だぞ?」
「……な、何故じゃぁぁぁぁぁ……お主ホントに男かぁぁぁぁぁ…!?」
「当たり前だバァロォが。」
鍛え方が違うんだっつーの。甘く見るな。
あぁ、ついでに言っておくけどさ、龍鉄風使ってねぇぞ?マジで。
「チィ……やはり、フェアに勝負するしかないのぉ。」
「それさ、最後の最後に使えよな普通。」
いや最後の最後に使ってても結果見えてたか。
「…ならば、これを使うしかないの。」
ちょっと負傷した足を無理矢理立たせ(まだ若干痺れてる)、腰だめに構える日暮。
「…『弧月飛剣』。」
【ヒィン】
その構えの状態から、神速の切り上げを放つ。
あ、何か嫌な予感
【スパァン】
「およよ?」
俺の横のコンクリの床が、綺麗に割れた。うん、地割れとかああいうギザギザした感じの割れ方じゃなく、まるでチーズ切った感じみたいに。咄嗟に避けて正解だったな。
「ねるへそ、カマイタチってわけだ。」
「…初歩の技じゃ。これでもワシは免許皆伝じゃぞ?」
うん知ってた。
「…じゃこっちも。」
【キン】
エルを収め、同じく腰だめに構える。あっちがそういうのなら、こっちだって。
「とぉ!」
【シュン!】
そして横へと薙ぎ払う。
「ふん!このような技など!」
青い衝撃波を紙一重で避ける日暮。まぁ、これなら単なる氣斬撃だわな。
ところがどっこい。
【ヒュン!】
「な!?」
立場逆転、今度はこっちから一瞬で間合いを詰める。
で、
【キィン!!】
「ぐぅ!!」
居合い切りを放つ。
「くはぁ!」
至近距離の斬撃を無理矢理受け止めたせいか、思いっきり吹っ飛んでコンクリの壁にぶち当たる日暮。うぅん、気分爽快。
「く!……何じゃ、今のは…。」
「んあ?…あ〜……………『幻・龍閃斬』とでも言おうか。」
偽の攻撃を放って相手の目を誤魔化して一気に間合いを詰めて切りつける技。従弟から教えてもらった。
「さ、てと……じゃ早く帰りたいし、とっとと終わらすぞ。」
ま、遊びはこれまで…てことで。
【ヒュ】
「!?」
立ち上がろうと膝をつく日暮に一瞬で接近し、右手で拳を作る。
「これがホントの…『翔龍拳』!!」
【ドォン!】
「ぐぅ!!」
天空に向けて拳を繰り出し、同時に青い氣でできた龍を飛ばす。いや、あの某ゲームの技そのまんま使うのもあれだしな。
で、結構高く吹き飛ばされる日暮。でもそれで終わりじゃない。
「よっと。」
俺も飛び上がり、ちょうど吹っ飛ばされてる日暮と同じ高さにつく。
「『龍牙』……」
【ガッ!!】
「…『月輪脚』!!」
【ドゴォン!!】
右足から流れるような蹴り上げから体を回転させて遠心力を利用した踵落としに繋げる。
「!!!」
当然、もろに食らった日暮はコンクリの床に叩きつけられた。
うわ、ちょっと血吐いた…さすがにこの技はキツすぎたかな?
「く……ぁ……。」
【スタッ】
「大丈夫〜?」
着地し、一応安否を確認。
「………だ、大丈夫なわけが……なかろう……。」
「さいか。」
の割には結構元気そうだけど?手加減したから大事には至らないだろうけど。
「…ま、いいか。とりあえず、俺の王手な。」
「……ちっ。」
舌打ちしつつ、ゆっくりと起き上がる日暮。痛そう。
ま、とりあえずこの勝負、俺の勝ちだな。はっはっは。
「…やはり、お主には敵わんわ…。」
「…………。」
さぁて…軍配が俺に上がったってところで、と。
「…なぁ、聞いてもいいか?」
「……何じゃ?」
「何で試した?」
「………。」
“何を”じゃなくて“何で”なのかを聞く……まぁ大体見当はつくしな。俺自身、わかってることだし。
「……。」
「今回は沈黙無しだ。」
こっちはちょっとイラってきてんだよ。
「………
お主、あの日の夜のこと覚えておるか?」
「?」
あの日?……あぁ。
「肝試しか。」
「まぁそうじゃ…その時戦った紅左衛門が最期に言い放った言葉。」
おぉ、あの全身マッチ棒のこと?
「…“荒木家の”………この言葉を聞いた時、ワシはピンときた。」
………。
「その後すぐに家に帰り、三日三晩、学校へ行かずに資料を漁っておった。」
………。
「…資料を漁っておるうちに、しだいにワシが知りたいことは明確になってきた。
“荒木家”…人知れず生き永らえた呪われし家系、とな。」
…………。
「じゃが、荒木という名がつく家系ならこの世にはごまんとある。それで今回、確認のために勝負を挑んだわけじゃが……。」
……………。
「…荒木…お主ならば知っておるだろう?その家系の秘密を……伝説を。」
………………。
……ふぅ。
「お主は……荒木家の「なぁ。」……?」
「もういいじゃん?その話はさ。」
「………。」
そ。こいつの言ってることは間違いない。
ま、確かにある意味呪われてるっつーか…何というんかねぇ?
「も、もういいって…。」
「なぁに、とっくの昔にそういうのは覚悟できてるっての。」
まぁ、最初のうちはいろいろ悩んだけど。
「……お主、わかっておるのか?その力。」
「ん?」
「お主のその力と、お主自身の力…その二つがあれば、宇宙の一つや二つ、やろうと思えば赤子の手を捻るかのように簡単に滅ぼせれるのだぞ?」
スケールでかいねぇ。
「…そのような力を持って、まともに生きていけるとでも」
「だからさぁ。」
若干必死になっている日暮の言葉を遮り、もう一度言う。
「俺はもう、この体で生きていくって覚悟決めたんだよ…昔な。」
“あいつ”のお陰で、な…………とまでは言わない。
「………その力、今すぐ消せるとしたら?消して、まっとうな人間として生きていけるとしても、お主はその力を手放す気はないと?」
「おうよ。生まれた時からの体、手放す気は無え。」
“あいつ”が認めてくれた体だし。
「…………。」
ジーーーーっと俺を睨みつける日暮。それに対し、俺は視線を外さずに見つめ返した。
一分、いや一時間?…まぁそんな錯覚が起きるくらい、互いに見つめていた。
「………………ふん、ならいいじゃろう。」
【キン】
最初に視線を外して刀を鞘に収めたのは日暮。ある意味我慢大会。
「お主がその気なら、もうワシはとやかく言わん。好きにせい。」
【バッ】
突然、飛び上がったと思うとフェンスの上に立つ日暮。
っておぉ、見上げる形になったから気付いたけど、もう日が沈みかけてんじゃん。星もところどころ出てるし。
「…じゃが一つ忠告しておいてやろう。
その力は、決して使いどころを間違えるでないぞ?そうなったら、世界崩壊どころの騒ぎでないからな。」
…ふーん。
「…まぁ、お主ならば大丈夫じゃろうが…。」
「あ?何か言ったか?」
「…何でもないわい。」
小声で何か呟いた気がしたけど、何だったんだ?
「…ま、いいか。ご忠告サンキューな。」
「…ふん。」
そっぽむく日暮。素直じゃねえの。感謝ぐらい普通に受け取れよ。
「で?この結界、いつ解けるよ?」
「ほほぉ…結界の存在に気付いておったとはな。」
「まぁな。勘だけど。」
何となく感じただけだけどさ。まぁおかげで結界から外まで音漏れてないし、誰も入ってこれないし。用意周到だなぁ日暮は。
「安心せい。もうじき解かれるじゃろう。そうなればお主も帰れる。」
「さいで。」
「…では、また会おうぞ。」
「まぁ、クラス隣だしな。」
「じゃからムードを壊すなと言うに………ではな。」
呆れた表情のまま、フェンスから向こうへと飛び降りる日暮。
ここ屋上なんだが……っと、おお。屋根から屋根へ飛び乗ってんぞあいつ。運動神経もなかなかのもんだな。
「やれやれ、いきなりのことでビックリしたぜ。」
『…そんな素振り、まったく見せてなかったがな貴様。』
【キィン】
エルが腰の鞘に収まると同時にツッコミを入れた。
『…ところで…リュウジ。』
「何だ?」
『…貴様の………。』
…………。
『…いや、やはりいい。すまないな。』
「…変な奴。」
ま、大方『力って何のこと?』とでも聞きたかったんだろうがな。聞いてもいいのに、遠慮しやがって。
…まぁ、説明すんのもメンドイし、いいか。
「さて、そろそろ結界が解けるはずだが…。」
【ガチャン!】
『なあああああああああああ!!??』
【ドテテテ!】
……………………。
「…何してんアンタら?」
屋上の出入り口から何か出てきた。無論、いつものメンバーだけど。
「え、あ、いや、その、えっと?」
「あ、あはは〜…り、リュウちゃんと日暮さん、何の話してんのかな〜って?」
「まぁ、聞こえなかったし何故か扉壊れてたのか開かなかったし、ねぇ?」
『あははははははは♪』
「……何で俺まで……。」
………まったく。
「…あれ?ヒグラシさんは?」
「もう帰ったぞ。」
「へ?出て来なかったよ?」
「気ニシナーイ。」
「いや気になるって!?」
…………この力の使い方を間違えるな、ねぇ?
ま、使う機会はおそらく無いだろうが…
「さってと、帰るか。」
「ねぇちょっと!?日暮と何の話してたのよアンタ!?」
「気になるぞ龍二!」
「一生気にしとけ。」
「リュウくんのおケチー!!」
少なくとも、こいつらに被害が及ぶようなことはしねぇさ……絶対にな。
若干シリアスです。伏線だらけです。
まぁ、龍二の力はこの小説の最終話近くで明らかに…ってまだまだ最終話にはなりませんけど。
そんじゃまた〜♪