第百二十の話 後輩達の作戦
久しぶりの後輩sどえーす。
〜絵里視点〜
「!?お、お久しぶりです!」
「……いきなり何言ってんの?てか誰に言ってんの?」
「……れ、練習だよ。荒木先輩に挨拶するのに。」
「…そんな練習、いる?」
「いる。」
…それと、多分私達忘れてる人が多数いると思うから。
「………………まぁそんなどうでもいいことは置いといて。」
…どうでもいいって…明ちゃん。
「ほら、やるんでしょ今日こそ。」
「……う、うん。」
さっきのコント(?)から一転、真剣な顔付きになる私達。
そう、今日こそは…………
「今度こそ成功してよ?チャンスは一度きりしかないと思って。」
「わ、わかってる…。」
今日こそ、荒木先輩とお昼を一緒に食べるため、先回りして今は食堂にある柱の影に隠れてます。隠れる必要あるのかな?
………………………………………。
「…ねぇ明ちゃん、ホントに授業抜け出してきてよかったの?」
「大丈夫!問題ナッシングゥ〜!」
某女性芸人のモノマネをしながらにこやかに言う明ちゃん。それが何故か不安を煽る。
……えと、はいさっき言った通り、私達は授業抜け出して食堂まで来てます。俗に言うサボりというものです。遅刻や欠席はすでに経験済みだけど、サボりは初めてです。なものなので、食堂にはほとんど人がいません。他にサボっている人がチラホラいるみたいだけど、数人ほどしかいないのです。
……ホントはサボることに抵抗を感じてたんだけど……
『そんな奥手じゃ、先輩に近づけないわよ!!』
……明ちゃんにそう言われると体が勝手に動き出したんです。そういうことにしてくださいお願いします。
「…で、でもいくらなんでも早すぎな気がするんだけど。」
授業終了まで、後三十分はある。つまり授業半分を抜け出してきたわけで。
「だーいじょうぶだって。」
「…ホントに?」
「バケツ頭の上に乗せられるだけで済むはずだから。」
「それ絶対いや!!」
ただでさえ両手でも重いのに!!
「いいでしょ別に。それが荒木先輩に対する気持ちの重みって思えば。」
う、うまいこと言ってるけど…。
「まぁ、今度ばっかりは泥水入れられそうだけど。」
「………………。」
「ご、ごめん冗談、冗談だから…頼むからそんな恨みがましい目で睨まないで。」
冗談言っていいことと悪いことがあるんだよ明ちゃん?
「…あ。」
「?」
何かに気が付いたように声を上げた明ちゃんの視線の先を追ってみる。
「……!!」
いた……荒木先輩……
…と…誰?あのメガネかけた男の人とすごく美人な女の人は?この学校の人じゃないよね?
…何か談笑してるようだけど、全然聞こえないし…。
あ、先輩と女の人がお互いに拳突き出した。それドラマでよく見るけど、男の人同士が友情の証としてしますよね?…別段、気にしてないようですけど二人とも。
それと男の人、何だか凄く疲れてるように見える…。
「じゃあなぁ。次は家に遊びにきな。」
男の人と女の人が席を立って先輩に手を振りながら食堂から出て行った。男の人、半ば強引に女の人に腕組まれてましたけど…。
「絵里、今がチャンスよ!」
「!で、でも…。」
た、確かにあの二人が出て行ってから、今荒木先輩は一人…いつの間にかラーメンを注文していて、すでに食べ始めていた。
「ほらぁ、早くしないと!ご飯なら私が注文しといてあげるから今すぐ隣へGO!」
「!?と、隣!?」
ハードル高いよ〜……。
……って先輩食べるの速っ!?もう二桁超えた!?ってさっき注文したばっかりなのに!?
「…ほ、ほらレッツゴー。」
「明ちゃん、さっきより覇気無くなってない?」
いきなりあの食欲とスピード見せつけられたらビックリするよね…。
「…よぉし!」
【パン!】
気合を入れるつもりで、両頬を叩く。
……………………………………。
「…い、痛い…。」
「自滅ってアンタ…。」
強く叩きすぎた…。
「ほら気合入ったでしょ?さっさと行く!」
「え、ちょ」
【ドン】
後ろから押されて、柱の影から飛び出してしまった私。
「?」
「あ…。」
同時に、ピッタシ先輩と目が合った。
……ごめんなさい、私の目が異常じゃなければさっきより空の丼鉢が増えてる気がするんですけど?
「よぉ、久しぶりじゃねえか。」
!!へ、返事しないと!
「あ、え、その、お、おひしさりぶ!!!」
(何言ってんの!!??)←明ちゃん、小声ツッコミ
…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…ぱ、パニックになってわけわかんないことを……。
「ほぉ、いいなその挨拶。採用。」
……は?
「ってなわけで、もっかい。おひしさりぶ。」
「…………は、はぁ…。」
…何だかよくわかんないけど会話成立した。
「で?俺に何か用か?」
「!は、はい!!」
(しっかりやんなさいよ〜絵里?)
小声で呼びかける明ちゃんの声が聞こえてくる。頑張れー私。
「え、えっとその…。」
「おう。」
うぅ、き、緊張する……
…………………
……よし!!
「…お、お昼ご一緒しても…?」
「いいぞ。」
や、やった!意外にアッサリ!
「ほれ、どこでもいいからさっさと座れば?」
「は、はい!失礼します…!」
手足を同時に出しながら行進。おかげでイスとかテーブルに足をぶつけてしまいました。すごく痛い…。
「…何に緊張してんだオメェ?」
「べ、べべ別ににゃんでもないです!!」
あ、噛んだ。
「し、失礼します!」
「さっき言った。」
先輩の隣の席へ、いざ着席!
【ガッ!】
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「……………バカ?」
(バカ絵里いいいいいい!!!!!)
うっかりイスの肘置きにお尻をぶつけてしまいました。同時にバカよばわりされました…二人に。
…うぅ。
「……こ、今度こそ失礼します。」
「はいはい。」
悶絶から復活して、今度はちゃんと席に座った。
よ、よし……!
「………。」
「………。」
【ズルズルズルズル】←ラーメン啜る音
「………。」
「………。」
【ズルズルズルズル】←ラーメン啜る音
「………。」
「………。」
【ズルズルズルズル】←しつこいようですがラーメン啜る音
「………。」
「………。」
【ズルズルズルズル】←どうしようもなくラーメン啜る音
………か、会話が……無い…!
ど、どうしよう…………打ち合わせしてなかった…!
「………。」
「……え、え〜と……。」
話題…話題話題話題……話題はぁぁぁ………。
…よ、よし…ベタだけど、好きな物を聞こう。
「…せ、先輩?」
「あ?」
「えと、先輩の好きなものは…」
そこでふと気が付いた。
……………空の丼鉢が長いテーブルの遥か向こうまで続いていることに。
「……。」
「……?」
「…ラーメン…ですよね?」
「もちのろんだ。」
微妙に古いネタ出してきた!?
…というよりこれ、何杯目なんですか?三桁どころか四桁いってるんじゃ…それとラーメンの材料の量が心配なんだけどなぁ…。
「あ、おかわり。」
「まだするんですか!?」
「あいよお待ちどうさん。」
「って速い!?」
食堂のおばちゃん、ラーメン作るの速すぎます…こういうの慣れてる手つきでした。
もしかして作り置きしてるんですか?そうなんですか?麺のびてません?後材料ホント大丈夫?
【ズズズズズズ】←再びラーメンを(以下略)
「………。」
……あ、やばい……また会話尽きちゃった…。
……………………
…よ、よし、なら今度は趣味を!
「あ、あの「そういやさぁ。」!?は、はははははははい!!」
話そうとしたら先輩が話し出したんでドモってしまいました…。
「今本来なら授業中だよな?」
「は、はい。」
「…お前サボり?」
「………はい。」
………………。
「…先輩こそサボってるんじゃないですか?」
「当たり前だ。」
そ、そんなあっけらかんと…私抵抗あるのに…。
「いや、腹減って腹減って授業なんざクソくらえってな感じで勝手に抜け出してきた。」
「…はぁ。」
…我が道を行く…っていう奴ですか?
「そういうオメェもあれか?腹減って授業抜け出してきたのか?」
「え!?え、えっと……。」
………………………
『あなたに会いに来ました!』
…………………なんて言えない…。
「…はい、そうなんです…。」
「そうか、お前も俺と同類ってわけだ。」
……先輩の筋金入りの鈍感さは本物ですね。
「そういやお前らんとこの担任ってさ、辻山さんだっけ?」
「あ、はい。よくわかりましたね?」
「うんにゃ適当に言ったら当たった。」
適当に言って一発で当たる先輩は正直すごいと思います。
「あの人、古臭い上に人望薄いよな?」
「…そうですね。」
…バケツ持たせて廊下に立たされたり、頭ごなしに怒鳴ったりするから、影では『旧式ハゲチャビンスキー』という仇名で呼ばれている辻山先生……“旧式”いらないと思う。
「でも意外といい人だぜあの人?」
「え、そうなんですか?」
「おう、ラーメン奢ってもらった。」
「へ〜……またどうしてですか?」
そういう交流でもあるのかな?
「ああ。
あの人、夜の繁華街で若い姉ちゃんが描かれたキンキラ光る看板の店に入ってくの見てさぁ。」
………………は?
「で、それ目撃した俺にラーメン奢ってもらったってわけよ。」
…………………………
口止め料…ってことですか…。
「…それで、先輩はどうして繁華街なんかに…。」
「辻山さん尾行してたらいつの間にか入っちまった。」
「何で尾行!?」
「趣味の弱味調査。」
「タチ悪いですよ!?それと周りをよく見てください!補導されかねませんよ!?」
「うん、された。」
「時すでに遅し!?」
「でも何故かすぐ釈放された。」
「な、何でですか?」
「さぁ?俺見た瞬間顔真っ青にしてたけど。」
「…………。」
先輩……警察の人にまで恐れられてますね、違う意味で……。
「てなわけで、お前もいざって時はこのネタ使えば?」
「………はぁ。」
多分、私より柱の影でほくそ笑んでる明ちゃんが使いそうですよそれ…。
「【ズズズ…】ところでお前、メシどうした?」
「あ、忘れてた。」
…そういえば、明ちゃんが注文しとくって言ってたけど…。
「あいお待たせしました。」
「え?あの……ど、どうも。」
いきなり横から食堂のおばちゃんが私の目の前にお盆を置いた。
…多分、これが明ちゃんが頼んだ物なのかな?
「ほぉ、きつねうどんか。」
「…えぇ、はい。」
……でも何でうどん?
【〜〜♪〜〜♪〜〜♪】
「?あ、すいません。」
「おお。」
ケータイから音楽が鳴ったので先輩に背中を向ける私。この音楽はメールの着信音ね。
え〜っと……?
『ごめん、ホントは共通の話題作りの為にラーメン頼むつもりだったんだけど売り切れてたからラーメンに近いうどんにした。m(_ _)m』
…………………………
チラリと柱を見てみると、こっちに向かって謝罪のポーズ(合掌)してる明ちゃんの姿が目に入った。
ここまでしてくれた明ちゃんにはホントに感謝するけど……ラーメンとうどんって…近いのかなぁ?
「おい、早く食わないと伸びるぞ麺。」
「は、はい。」
……ま、まぁいいかってことで、割り箸を割ってうどんを食べることにした。
【ズズズズズズ…】
「……はぁ…おいし。」
やっぱりこの学校の料理っておいしいなぁ……。
「隙ありだ!!」
【パシィ!】
「え?………!ああ!油揚げ!!」
一瞬、先輩が動いたかと思うと、次の瞬間には油揚げが消えていた。
…ってそれ楽しみにとっといたのに!!
「ふはははは、油断していたお前が悪い。」
「うわーん!先輩の鬼いいいいい!!!」
「褒め言葉として受け取ろう。」
「うええええええええん!!」
高笑いしながら油揚げを頬張る先輩をポカポカ叩きながらふと考えた。
……先輩とまともにお話できたの、これが初めてなんじゃないかな?
「ごっつぁんです。」
「うああああああん!結局食べられた〜!」
……ま、いいかな♪
〜で、三十分後……〜
【キンコロ〜ンカンコロ〜ン♪】←チャイム
「リュウちゃあああああああああああああん!!!!」
「アッパーカット。」
【バギィ!!】
「ああああ!!龍二、何女の子と一緒にご飯食べてるのよ!?」
「それとあたし達身代わりにするな!!おかげで制裁受けたぞ!?」
「カグラさんのチョーク痛かったよーーーー!!!」
「うぅぅ……タンコブできそうです……。」
『……グスン。』
「ちょっとリュウジ!エル忘れられたって言って泣いてるんだけど!?」
「つーかお前ら行動早すぎだっつーの。」
「つか俺を引きずっていくなグェェェェェェェェェ首じまるじまる(締まる締まる)!!!???」
…………チャイム(?)が鳴ると同時にいつも先輩と一緒にいる方々が食堂になだれ込んできました…………
……うん、大体こうなることはわかってた。アハハハハハ(涙)……はぁ。
どうもコロコロです。小説を読んで楽しんでくれたのなら幸いです。つかいますかね?
えと、伊藤勇作さんの作品『僕の彼女は極道さん』から特別出演した方々がいましたが、どこにいるか気付いた人〜?
…すんませんでした。
さて、重大発表です。第七十の話からず〜っと続いている人気投票ですが…
百三十の話で締め切ります。そして結果発表します。
んですがぁ……未だに忙しく、更新不定期になりがちなため、何日に締め切り、とかそういうのはまだ決まってません。なもんで、期日はまた後日という形でご了承願います。
それでは、若輩者が人気投票なんて生意気な!キー!!という方も是非投票お願いしまーす!
……俺もまだまだ未熟だな。と思う今日この頃…勉強しないと(小説の)。