第百十四の話 闇の存在2
早く投稿しよう、投稿しようとしてはや一週間…すいませんでした。
え〜まだホラーは続きますけど、今回はギャグも入ってますんではい…。
〜ライター視点〜
「…あ、あなた…。」
「ぬ?…お主もしや、生徒会長か?」
香苗の言葉に、訝しげな顔で質問を返す巫女服の少女。左手には金色の錫杖が握られている。
顔は丸みを帯びた小顔、髪は肩まで切りそろえたショートで、雪の如く白い。ついでに肌も真っ白だった。ただ目だけは漆黒の黒。
「え、えと…誰だ?」
「あ、この人は隣のクラスの人で、名前は…」
「日暮 亜沙子じゃ。」
久美の質問に香苗が答えようとしたところで、少女もとい日暮 亜沙子が遮るかのように答えた。
「隣って…いたかそんな人?」
「今はそれよりその娘じゃろう。」
恭田の問いを無視するかのように日暮が花鈴を指差した。
「そ、そうです!カリンさんは!?」
「安心せい。さっきも言うたが死んではおらん。気絶してるだけじゃ。」
それを聞いた途端、空気は一気に和らいだ。
「よ…よかった…。」
アルスは思わずその場でへたり込み、安堵のため息をついた。
ただ、一人は首をかしげた。
「…?あれ?でもどうしてわかったんだ?脈は測ってないのに…。」
雅が疑問を口にする。事実、日暮は花鈴から少し離れた距離にいた。当然ながら、脈は離れて測れるものではない。
「簡単なことじゃ。その娘からはまだ生気が出ておるからな。生きてるというのは明確じゃ。」
しかし、日暮は何の臆面もなく言った。
「…は?」
「じゃから、その娘から生気が出てるから生きとるのは明確じゃと言ったんじゃ。」
…………。
「…ちょと待て。生気とかそんなの、アンタ見えるのか?」
「見えてるから言っておるんじゃ。それとも何か?見えてないとでも言おうか?」
「いや、あえて言いなおす必要はないんだけど…。」
古臭い口調からか、雅は気後れしてしまった。
「…日暮さん…あなたは一体…。」
香苗が花鈴の額に持ってきていた冷えた水入りペットボトルをあてがいながら言った。
それに対し、日暮は苦笑した。
「むぅ…面倒事が増えるからあまりバラしたくはなかったんじゃが…状況が状況じゃからのぉ。」
そして一泊置き…
「ワシは陰陽師じゃ。」
『……………。』
案の定、全員沈黙した。
「…ほれ見ぃ。明らか疑っとるじゃろ。」
「え、いや、疑ってるというか何というか…。」
「じゃ何じゃその目は?」
「あいや、その…。」
まんまと日暮のペースに乗せられた雅はますます恐縮していった。
「…あの、クミちゃん?“オンミョウジ”てなぁに?」
「あぁ…この世界で昔、占いをしたり霊を払ったりするのを職業としていた人達…って言えばいいか?まぁそういう人達のことだ。」
「まぁそんなものじゃな。一々説明するのも大変なんじゃよ。」
クルルに袖を引かれながら質問され、曖昧な感じで答える久美。若干苦笑しながら日暮は言った。
「…いわゆる…スティルのような人達…?」
「私は占ったりはしませんが…。」
陰陽師を魔道士と同じようなものと捉えるリリアンとスティル。似てるようで違う。
「まぁ、それはともかくじゃな…お主ら。」
「…え?ボクですか?」
「私?」
突然指差されて戸惑うアルスとクルル。
「…何故貴様ら怨霊どもを切れた。その剣、ただの剣ではないな?」
「「!!」」
言われ、ギクリ、という擬音が出てもおかしくないくらい動揺する二人。
「そもそも、貴様らから得体の知れない気のような物が発せられてるんじゃが?」
「「……。」」
また言われ、目を泳がせる二人…そりゃ勇者と魔王なのだからそういうのが発せられてもおかしくはない。
…いや、別に言ってもいい。いいんだけど、言ったら言ったでどう説明すればいいのかわからないのである。“自分達は勇者と魔王です”……明らか非現実なことである。
つか、幽霊とか陰陽師とかいる時点ですでに非現実である。
「…い、いや、その…何のことでしょう?」
アルス、案の定誤魔化す。
「…とゆーより…
何じゃお主の頭におるのは。」
『………。』
頭にいる=フィフィ……これは誰も言い返せませんでした。
「…え〜……と…。」
アルスが何か言い返そうとした。
「…まぁそんなことどうでもよいわ。」
聞いてきた本人にアッサリと言われてガクリとこけたアルス達でした。
「ど、どうでもいいって……
【ゴト】
!?」
音がし、言いかけていた言葉を飲み込んでアルスは周囲を見回す。
今の音は結構近くだった為、動けない花鈴を守るかのように囲んで一行は構えた。その視線は、音が聞こえてきた暗闇へと向けられている。
「ほれ、どうでもよいじゃろ?」
軽口を叩きながらも真剣な表情で懐から一枚の細長い紙を取り出す日暮。
「…アルス。」
「何?」
アルスの髪の中からヒョッコリと顔を出して囁くフィフィ。
「今回の、さっきとは何か違うよ?」
「…何が違うんですか?」
“違う”という意味をわかっていながらあえて確認のため聞くアルス。
「これ…負の力がすごいよ?」
「…つまりさっきの見えない敵より強いってことですね?」
「ん…そゆこと。」
「来なくていいのに…。」
タラリと冷や汗を垂らしながら言うアルスとあくまで冷静を保つフィフィ、そして泣き言を言うクルル。
「…チッ、しつこい連中じゃ。」
日暮で小声で悪態をついた。
瞬間、
『ア゛ア゛ア゛ァァァァァ……。』
暗闇から、明らか人間のものとは思えない低い呻き声が轟く。
「……。」
「アルス、しっかり!」
「…う、うん。」
声を聞いた瞬間、背筋が凍りつく感覚に見舞われるアルス。それはアルスのみならず、全員同じだった。
ただ一人を除いて。
「来おったか。」
日暮は紙を眼前に掲げるかのように構えた。
【ズズ…ズズ…】
やがて、何かを引きずるかのような音が近づいてきて…
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァ…………。』
“それ”は現れた。
見た目は人間そのもの…の上半身。腰から下、つまり下半身はなく、まるで引きちぎられたかのような断面から出てる物は骨と赤い肉、そしてドス黒い血。
体の肌は灰色、顔は恐怖におののいたかのような表情で、舌、眼球がなく、その奥に見えるのは漆黒の闇。頭には髪すら生えておらず、見えるのは人間の面影を残す細い血管のみ。
それが三匹、腕を使って這ってくるかのように血の跡を残しながらアルス達に近づいてきた。
「な、何だ…こいつら…。」
「き、気持ち悪い…。」
雅とクルルがかろうじて声を上げる。その顔は目の前にいる怪物のおぞましさに恐怖し、引き攣っている。
「まったく…執念深さだけは一級もんじゃな。」
全員が恐怖する中、一人迷惑そうにため息を吐く日暮。その間にも怪物は這い蹲りながらアルス達に接近してくる。
「…アルス。」
「わ、わかってる……。」
フィフィの言葉に力強く返事をするアルスだが、体は恐怖で震え、若干腰が引けていた。
「…お主、さっきの威勢はどこ行ったのじゃ?」
「………。」
日暮に呆れられ、若干顔を赤くするアルス。
「やれやれ…見た目で判断するのは愚か者じゃぞ?」
そして一歩前へ出て…
「…むん。」
【ピッ】
手に持っていた紙を怪物目掛けて投げつけ、そして両手を前へ突き出して指を重ねる。
「臨!兵!闘!者!皆!陣!列!在!前!!」
【ゴゥ!】
日暮が九字の印を結び、やがて紙から風が渦巻き怪物達を包み込む。
『ギギイイイイイイイィィィィィィィィィィ………!!!!!』
渦巻く風の中から、この世の物とは思えないおぞましい叫び声が聞こえ、それは風が少しずつ止んでゆくごとに小さくなっていった。
完全に風が止むと、そこには先程と同じ静寂が辺りを包んだ。
怪物は完全に消失したが、床には引きずったようにドス黒い血の跡が残されていた。
「す、すっげぇ…。」
今の光景を見て、呆然と呟く恭田。
「…ふぅ。結局は単なるザコか。」
手を叩いて埃を落とすかのような仕草をする日暮。その表情はかなり余裕があった。
「…い、今の…何?」
「…魔法?いや、ちょっと違う…。」
未知の力の前にただただ愕然とするしかないアルス達。
「日暮さん…あなた一体…。」
「じゃからさっき言ったであろう?陰陽師じゃと。」
驚きが抜け切らない香苗の言葉に、振り返って答える日暮。
「…まぁホントは説明したって信じてもらえんからの。今まで陰キャラを演じて素性を隠してきたんじゃが…。」
「…はぁ。」
苦笑しながら頭をかく日暮に対し、曖昧に返事するしかない香苗。
「して?お主らこれからどうするんじゃ?もうこの校舎からは出られんぞ?」
「……え?あ、うん……………………へ!?」
突然質問され、現実世界へと戻ってきた香苗は答えようとした時、素っ頓狂な声を上げた。
「で…出れないって…。」
「うむ、出れん。」
もう一度言う日暮に、一同はまた違った意味で硬直した。
「…な、何で…?」
雅が呆然と呟く。
「ほれ、さっき柱時計の音が鳴ったじゃろ?」
「あ、ああ…。」
「あの瞬間、この校舎の周囲に結界が張られたのじゃ。それもワシ一人でも解けないくらいの強力な奴。」
あまりにも最悪な展開に一同は一瞬にして真っ白になった(イメージです)。
「まぁワシは用事がある限り帰るつもりなど毛頭なかったからの。」
「…?用事…?」
真っ白な状態から少し脳が回復したリリアンが小首を傾げる。
「ああ。この校舎に結界張った張本人にな。」
「え?人がいるんですか?」
「正確には“元”人間じゃ。」
“元”という言葉に疑問符を浮かべる一同。
「…それはまぁ、後で話すとして。それよりさっきの質問なんじゃが、お主らはこの閉鎖空間の中どうするんじゃ?朝には自然に結界が解けるから夜が明けるのを待つか?」
「…あ!そうだヒグラシさん!」
アルスがパっと思いついたという風に顔を上げた。
「?何じゃ?」
「あの、ボクら以外の人に途中で会いませんでした?」
「人…?」
「えと、ボサボサの黒髪をしていて、“へっどふぉん”を首にかけてる男の人なんだけど…。」
クルルがアルスに代わって身振り手振りで必死になって特徴を言う。
が、
「…すまん、ワシがここで最初に会った人間はお主らが初めてじゃ。」
「…そう…ですか。」
「………。」
返ってきた答えに、ガックリと肩を落とすアルスとクルル。
「ふ、二人とも…。」
『………。』
何て声をかけたらいいのかわからず、沈黙する一同。
「……二人とも、落ち込んでる場合じゃない…。」
「そうよ、よほどのことがない限りあいつは大丈夫だって!ね?」
「「………。」」
どうにかかける言葉を見つけたリリアンとフィフィは二人を励ます。
それに対し、小さく頷くアルスとクルルだった。
「………まぁ、役に立てなくて悪かったのぉ。」
「…いえ、気にしないでください…。」
申し訳無さそうに頭をかく日暮。それに対して、アルスは落胆の色を隠せなかった。
「…ふむ……ともかく、お主らもまだ用事があるようじゃな。」
「用事というより…人探しだけど。」
日暮の言葉を訂正するかのように久美が言った。
「………しょうがないのぉ。お主ら何だか頼りないしヘタレもいるようじゃし………。」
「いや本人達の目の前で堂々と失礼なこと言うなよアンタ。第一へタレって誰のことだコラ。」
「お?スマンスマン。」
雅のツッコミにまったく悪びれもしていない様子で謝る日暮。
「ま、ともかくお主ら、ワシについてこい。どの道人数は多いに越したことないしの。」
「え、いいの?」
「まぁここで会ったのも何かの縁と思えばよいからな……ホレ、さっさと行くぞ。」
「あ…はい。」
「…おい、だからヘタレって誰なんだ………………………………………もういい。」
さっさと話を進める日暮に何を言っても無駄だと判断した雅は肩を落とした。龍二の親友としてやっていってるだけはある。
〜一階 廊下〜
「ほぉ…そんなことが…。」
「はい…。」
「リュウくん…。」
軋む床を日暮を加えた一行が歩く中、アルスは日暮に今までの事情を説明した。日暮が歩くたびに手にしている錫杖から涼やかな音が鳴る。
「…ふむ…ちと危ないかもしれんのぉ…。」
「え?」
「あ、いや何でもない。それよりじゃ。」
そう言って、日暮はアルスの髪を指差した。
「さっき聞きそびれてしもうたが、お主の頭の中におる奴何者じゃ?」
「!!!」
アルスの髪の中に隠れているのは、当然フィフィである。
「隠れたって無駄じゃぞ?さき程喋ってたからのぉ。」
「………。」
息を殺してアルスの髪の中で縮こまっていたフィフィは、一瞬ビクリと震えた。
「あ、あのヒグラシさん。フィフィは、その…。」
何だかまた面倒ごとが増える気配がし、アルスは言い訳を頭の中で考えめぐらせる。
が…
「…まぁ別にどうだっていいんじゃがな。」
「…い、いいんですか…。」
「陰陽師をやっておると嫌でもこういう類には巡り合うのでの。もう慣れたのじゃ。」
「は、はぁ…。」
言い訳しようとした瞬間にそんなことを言われたものだから、アルスは拍子抜けして曖昧な返事を返すしかできなかった。
「…しかし、お主ら普通の人間とはちと違うのぉ。さすがに怨霊どもを切ったのには驚いたぞ。」
「え?え、ええまぁ…フィフィのおかげで…。」
「ま、まぁね。」
もっとも、アルスとクルルの剣は普通の剣とは違って魔力が宿っているために怨霊を切り伏せれたのだが、この際どう説明したらいいかわからないため、フィフィのおかげでということにしておいたアルスであった。
「…服装に関しては何にも言わないんだ…。」
「シッ!魔王様そこは触れてはいけません!」
「説明するの大変ですから。」
ボソリと呟いたクルルに注意をするカルマとケルマ。確かに剣で切れたというのは疑問に思うだろうけど、アルスとクルルの鎧姿に何の反応も示さない日暮はある意味大物か。
「…にしてもさっきはすごかったな…。」
「まさかマジで陰陽師見れるとは思わなかったぜ。」
「………。」
「…リリアン、私を見ないでください…。」
「まぁ魔道士と陰陽師って似てるようで違うからね。」
アルス達より少し後ろで話す雅達。未だに目を覚まさない花鈴は、雅が背負っている。
「…それよりも、さっきの怪物何だったんだろうな?」
「い、言うな…あれはいくらなんでも気持ち悪かったぞ…。」
「う、うん…。」
恭田の率直な疑問に顔をしかめる久美と香苗。
「…それはじきにわかるじゃろう。」
「え?」
疑問に答えるかのように呟いた日暮だが、久美はうまく聞き取れなかった。
「…ところでさっきから妙に静かなんですけど…。」
「…確かにそうだけど、返って不気味だな…。」
「安心せよ。ワシが結界を張っておるからザコが寄ってこんだけじゃ。」
「そ、そうか…さすが陰陽師。」
平然と言ってのけた日暮に苦笑する雅。
「…ねぇねぇ、私達どこに向かって歩いてるの?」
クルルが日暮の隣まで来て聞いた。
「あぁ……邪気が最も集まっておるところじゃ。」
「?邪気?」
「………つまり、怨霊どもを束ねておる奴じゃよ。」
「…え、それって…。」
アルスが何か言いかける直前、日暮は立ち止まった。
「…ここからじゃな。」
『………。』
一行もある部屋の前で立ち止まり、見上げた。
扉の横にあるボロボロの札に書いてあったのは…『職員室』。
一見すると、何の変哲もない横へスライドして開けるドア。しかし、隙間から冷気とも熱気とも取れない、不気味な感覚に見舞われる氣が漏れているのが霊能力がない雅達にもわかった。
「…ここに…。」
「…お主らはここで待て。ワシが先に行って見てこよう。」
日暮はアルス達から一歩先へ出て、ドアへと手をかける。
「……(何て凄まじい邪気じゃ…今回は大物じゃな)。」
ふとそう思いつつ、頬から汗をポタリと落とす日暮。
そして…
【ガラリ】
…扉を開けた。
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
そこは、昔の名残が残されている古い木の机が多く並べられている広い部屋だった…教職員が昔、ここで仕事をしたり、談笑したり、生徒を呼び出して説教をしていたであろうこの部屋は、もはや不気味さを残しているだけであった。
「……。」
「……。」
…しかし、日暮が入ってみても何も起こらず、ただただ静寂が広がるのみ。
「…妙じゃな…確かにここであっとるはずじゃが…。」
もう一度、グルリと周囲を見回す。しかし、敵の親玉らしき人物はどこにもいない。
「…隠れておるのか?……………………………
………!!??」
一瞬、日暮の背筋に悪寒が走り、振り返った。
「!!!いかん!お主ら伏せろ!!」
「え!?」
『滅っ!!!!』
「渇っ!!」
アルス達の背後から声がし、同時に日暮が二本の指を眼前に突き立てて叫ぶ。
【ドォン!!】
「どぉわああ!?」
「きゃあ!?」
「いでぇ!?」
突然小爆発が起き、アルス達は前方へ、つまり職員室の中へと突っ込んでいった。
「いっつつつつ……な、何だ何だ!?」
「お主ら無事か!?」
「な、何とか…。」
煙が立ち込め、辺りが見えない中、日暮の呼びかけに答えるアルス。
やがて煙が晴れていき、周囲が確認できるようになった。
『ククククク……。』
そして職員室の入り口の前に立ち塞がっていた人物がいた。
「……え……。」
その人物を見て、呆然とアルスは呟いた。
「か……カナエ…さん?」
続きます〜…余談ですが、最初『日暮』にしようか『日影』にしようか迷ったんですが、『日暮』にしました。
因みに俺、陰陽道に詳しくありません。