第百十三の話 闇の存在1
サブタイ、変わりましたが長編に変わりないです。
〜ライター視点〜
『…………。』
全員、外の雷の音などほとんどどうでもよかった。
ただ、クルルから聞いた言葉…龍二がこの場にいない、という事に動揺を通り越して硬直してしまったのだった。
「…え?」
最初に沈黙を破ったのはアルス。その顔に覇気はなく、いまだに信じていないようであった。
「り…リュウジ…さんが…。」
「いない…ですって?」
花鈴が言葉を紡ぐかのように言う。
「………。」
「………。」
「……!そ、そうだケータイ!」
【カチャ】
花鈴がポケットからケータイを取り出し、アドレス帳から龍二の電話番号を探り当てて通話ボタンを押した。
『………こちらは、留守番電話サービスセンターです。おかけになった電話は、電波の届かない場所にいらっしゃるか、電源が入って』
「………。」
「…どうなんだ?花鈴?」
雅の問いに、静かにケータイを下ろして首を振る花鈴。
「……。」
「……。」
「嘘…だろ、オイ?」
誰も動こうとしなかった。いや、動けなかった。
龍二が消えた、というショックが大きいせいでもあるが、同時に恐怖が全員の体を蝕んでいた。
「…ぼ…ボク、リュウジさん探してきます!!」
「私も!」
ついに耐え切れなくなったアルスとクルルは、不安と恐怖に駆られながらその場から足を一歩踏み出す。
が…
【ガシ】
「二人とも、ダメ…。」
「!?リリアン!?」
リリアンがアルスとクルルの肩を掴んで動きを止めた。
「今…動いたら…あなた達まで行方がわからなくなる…。」
「そうですよ、今は下手に動かない方がいい。」
「で、でも!」
スティルも冷静を保とうとしているのが丸分かりな声色でアルス達を論す。
「「魔王様、堪えて!」」
「いやああああ!!」
駆け出そうと暴れだしたクルルを、ロウ兄弟が押さえつける。
「アルスクルル、今は落ち着けって。」
「あなた達まで消えちゃうわよ!?」
雅達も二人を止めるよう説得をするが、アルス達は暴れるのをやめようとはしなかった。
「放してください!リュウジさんが!リュウジさんが!!」
「皆行かないなら私とアルスだけでも行くーーー!!」
「だからはぐれたらどうすることもできないんですってば!」
「落ち着く…。」
「いやああああああああ!!」
「お前らいい加減にしろ!!」
突然、雅がアルスの言葉を遮るかのように大声で叫んだ。
「今バラバラに行動しちまったら元も子もないだろ!?そんなことしたらいつか全員消えちまう!!」
「で…でも…。」
悲痛な表情でアルス達に怒鳴りつける雅。普段は見られない雅の顔を見て、全員押し黙った。
「………俺達だって………ホントはお前ら同様、駆け出したい気持ちで一杯なんだよ……。」
一息つき、静かに話す雅。
そうの拳は、握りすぎて真っ白になっていた。
「…マサ……さん…。」
「…………。」
やがて俯いて黙りこくる雅。アルスとクルルは暴れるのをやめて、雅を見つめていた。
「…アルス。」
ようやく聞ける状態になったのを見計らってか、リリアンが真剣な口調で呼びかけた。
「あなたは…元の世界では皆をまとめていたリーダーだったはず…そのリーダーが冷静を欠いては…見つけたい人一人でさえ見つけられない…。」
「……。」
「だから…今は落ち着いて…それから皆で探しに行こう…。」
「「……。」」
…沈黙が、この場に流れた。
「………ごめんなさい…取り乱してしまいました…。」
「…ごめんね…。」
小さい、ホント小さい声で謝罪をする二人…クルルも、ロウ兄弟が離れても暴れようとしなかった。
その間にも、外からは雨が降りしきる音が聞こえてくる。
「…………とりあえずどうする?」
しばらくの沈黙の後、花鈴が問いかける。すでに顔色は悪く、息も微妙に荒い。体の奥底からくる恐怖からか、それとも龍二の身を案じるあまり緊張しているのか、どちらとも言えない。
「…この雨だ、外に出るのは危険過ぎる。」
「それに龍二を放ってはおけないし…。」
雅と香苗が言うが、この校舎は前回述べた通り広くて大きい。どこをどう探せばいいのかさっぱりわからないのである。
「…でも二手に分かれるのも危険だと思うわ。人数を減らすのはリスクが大きくなる。」
「そうだな…大人数だと効率悪いけど、少人数で行動するより心強いはずだ。」
どうにか一同は冷静さを取り戻してきたのか、これからの方針を固めていった。
「…ともかく、中を調べてみるか…。」
「そ…そう、ね…。」
全員、表情には恐怖の色が浮かんでいるのが明らかだった。ただ、動かなければどうにもならない…一同の思いは一緒だった。
〜一階 廊下〜
【ギシ…ギシ…】
「…やっぱり床が軋むな…。」
「抜けないでしょうね…これ?」
「抜けないことを祈るばかりだ。」
慎重に歩きながら話す雅と花鈴と久美。一歩歩くごとに床がへこむかのような妙な感触に見舞われるこの廊下は、遥か向こうにある暗闇まで伸びている。床にところどころ穴が開いていたり、湿気で腐っている部分がある限り、足元が抜けないという保証はない。
「…さっきと何だか微妙に雰囲気が違う気がするんだけど…。」
「か、カナエさん…そういうことは言わない方がいいですよ。」
余計不安を煽りそうな香苗の言葉に、スティルがおずおずと申し立てる。
「……。」
「……。」
「…アルス、大丈夫?」
「魔王様…。」
「…あ、ごめん。大丈夫だから。」
「うん…ありがとケルマ。」
さっきから落ち着きがなく、焦りの表情を出しているアルスとクルル。フィフィとケルマが声をかけるが、二人とも声が若干上ずっている。
二人が何を考えてるのか、容易に想像できた。
「リュウちゃん…大丈夫だよね?」
「大丈夫に決まっている。何せ龍二だからな。」
心配そうに呟く香苗に、力強く断言する久美。しかし表情は若干暗い。
「…ところで花鈴。外との連絡はついたのか?」
「ダメ、全然。圏外じゃないのに、出る気配もなし。」
パタン、とケータイを閉じて首を振る花鈴。先程からずっと連絡を取ろうとしてるが、進展は全くなしだった。
「おかしいな…さっきまでは通じてたはずなのに。」
「どうなってんだよ〜…。」
「もぉ!泣きそうな声出さないでよバカ恭田!」
「わ、わりぃ…。」
花鈴に言われ、縮こまる恭田だった。
「…おかしいのはデンワだけじゃないわよ。」
「フィフィ…?」
フィフィがアルスのポケットから飛び出し、アルスの肩にとまる。
「…皆に言ってなかったけど、さっきから何か変なのよ。」
「変…?」
フィフィの言葉に全員が立ち止まった。
「変って…何が?」
「さっき、時計の音が鳴り響いたでしょ?」
「?うん。」
「その後から、何だか妙なのよ。周辺から…何ていうのかな……得体の知れない力みたいなのが流れてるの。」
「得体の知れない…力?」
アルスが首をかしげた。
「クルルとカルマとケルマも何か感じない?」
「…確かに、先程から感じたことのない冷気みたいなものを察知できますが…。」
「うん、私も。」
「僕もです。」
「…ねぇフィフィ、どういうことなの?」
じょじょに嫌な予感が一同に過ぎる。
「…つまりね…」
【ガタン!】
『!!??』
フィフィが何か言いかけた瞬間、何かが落ちる音がした。
「また!?」
「…いや、また誰かのイタズラじゃ…」
「!?皆黙って。」
フィフィが何かに気付いたようだった。
「?フィフィ?どうしたの?」
「シッ!」
アルスの問いかけにフィフィは静かにするよう合図を送る。
「…………。」
静寂する廊下……全員、その場から動かない。
「…これは…。」
ようやくフィフィが口を開いた。
「な、何?」
「………。」
再び黙り込むと、フィフィは前方の暗闇をじっと見据えた。
「…皆、武器構えて。」
「…え?」
「何か…来る。」
「な…何かって
『ォォォォ……』
!?」
アルスが言いかけた途端、前方の暗闇から何かの呻き声らしき音が聞こえてきて全員硬直した。
「…敵?」
「少なくともリュウジではありませんね…。」
リリアンは斧を構え、スティルは杖を前方に突き出した。
「な、何…?」
「何だよ今の…。」
「皆、下がっててください!」
非戦闘員、つまり雅達は、カルマに従って後ろに下がる。
「魔王様!」
「う…うん。」
【ブゥン】
クルルも怯えながら黒剣を異次元から引き抜き、構えた。
「アルス、構えて。」
「は、はい!」
フィフィに言われ、自らを鼓舞しようと力強く返事しながらアルスは剣を構える。
やがてまた静寂が訪れ、何が起こるのか皆固唾を呑んで見守った。ただ感じるのは背筋を走る悪寒のみ。
―――……………
…遥か向こうから、僅かながら何か聞こえてきた。
―――………ハハ………
やがて声が聞こえてきた。まだハッキリ聞こえてきたわけではないが、こちらに接近しているのは明白だろう。
「…な、何の声だ…?」
「わからない…。」
恭田と雅が疑問を言うが、全員正体が全くわからないため誰も答えなかった。
「…来る。」
フィフィは真剣な表情でアルスの肩から前方を見据えた。
―――アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
―――キャハハハハハハハハハハハハハハハハ!
―――ヒハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
―――ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!
―――キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!
…やがて声はすぐ近くから聞こえるようになった…が、
姿は全く見えない。狂気的な笑い声だけが辺りを支配した。
「な、何だぁ!?」
「!?アルス!近寄ってくる!」
皆が笑い声にうろたえる中、フィフィは肩からアルスの髪を引っ張る。
「「………。」」
「ちょ、アルス!?硬直してる場合じゃないから!!」
「「魔王様!?」」
得体の知れない存在に恐怖し、顔面蒼白にさせて体を震わしているアルスとクルルに必死にうったえるフィフィ達。
―――アハハハハ!アソボウ!アソボウ!
笑い声から子供の声へと変わった。言っていることは無邪気な物だったが、声色からして邪気を感じられた。
「アルスしっかりして!固まってちゃダメ!」
フィフィがアルスの頬を叩く。
「…ぅ…。」
―――キャハハハハハハハハ!
「〜〜〜!あぁもう!!いつまでも幽霊にびびってんじゃないわよ!!リュウジ助けたいんでしょアンタ達!!?」
「「……!」」
痺れを切らしたフィフィの言葉にビクリと体を震わせて反応するアルスとクルル。
―――キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!
笑い声がさっきよりも近くから聞こえてきた。
「!?アルス!目の前!」
「う…うわああああああああああああああああ!!!!」
まるで絶叫のような声を上げてアルスは前方の何もない筈の空間に剣を振り下ろした。
【ザン!】
―――アアアアアアアァァァァァァ!!!
…同時に何かが切れる音と耳が痛くなるような甲高い叫び声が聞こえてきた。
「…え?き、切れた?」
「何で説明は後後!さっさとここ駆け抜けるわよ!」
キョトンとしている雅達を叱咤するフィフィ。
―――ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!
「!アルス今度は右上!」
「やああああああ!!」
斜め前方を切り上げる。やはり切れた音がした。
「今度は背後!」
「せいやぁ!!」
肩越しから剣を突き出すと、何かが突き刺さる音が聞こえた。
「!クルル!そっち行ったわ!」
「え…!?」
突然フィフィに振られてうろたえるクルル。剣を構えるもどう対処していいかわからない様子だった。
―――アソボウ!アソボウ!
「い……いやああああああああああああああ!!!」
【ズバン!】
泣き叫びながらも剣で薙ぎ払い、霊を撃退するクルル。
「魔王様、ナイスです!」
「はぁ、はぁ、はぁ…。」
ケルマが賞賛するも、いつもなら得意げに笑うクルルだが、今では恐怖からか顔を青くして肩で息をしていた。返事ができる状態ではない。
「確か…あと一体のはず。」
フィフィが周囲を見回し、敵を探す。アルス達も警戒しながら構えた。
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「………。」
「…あれ?」
「…?フィフィ?」
突然、フィフィが素っ頓狂な声を上げた。
「…どこにも…いない…。」
キョロキョロと周囲を見回すフィフィ。
「いない?…どうして…。」
「…でも絶対どこかにいる…さっきから悪寒が収まらない…。」
リリアンが斧を構えたまま目だけを動かして周囲を探る。
緊迫した空気が辺りを包んだ。
「!?いやあああああああああああ!!??」
「か、花鈴!?」
「!?」
突如、アルス達の背後から花鈴の悲鳴と雅の声が聞こえてきた。
―――アハハハハハハハハハハ!!
「あ、が……!!」
雅達がいる場所で、花鈴が足を宙に浮かせながら暴れていた。顔は上を向いていて、まるで誰かに首を掴まれているかのよう。
否、事実掴まれていた。
「か、カリンちゃん!?」
「カリンさん!!」
「しまった、あいつ足元から!」
各自、剣を手に雅達の所へ駆け寄るアルス達。
―――アハハハハハ!
―――アソボウアソボウ!
―――イッショニアソボウ!
「!?また!」
フィフィが足元から出現した霊を確認した。
―――カエサナイヨカエサナイヨ
―――キミタチモボクラノナカマ
―――ズーットイッショ
―――イッショイッショイッショイッショイッショイッショイッショイッショ
「ってますます増えてる…。」
壁から、天井から、さらに霊が現れて戸惑うフィフィ。アルス達はそれらを視認できないが、フィフィの慌てようから相当まずいと判断し、足を止めざるをえなかった。
「この!花鈴から離れろ!」
「花鈴ちゃん!!」
「あぁ…が………。」
その間にも花鈴の顔色はますます青くなっている。雅達も必死になって花鈴を救おうとするが、相手は見えない敵。どうすればよいかわからなかった。
「スティル!カルマケルマ!魔法!」
「そ、それが…魔法を使おうにも魔法が出ないんです!」
「「ボクらもダメです!」」
「そんな!?」
「アルス余所見しちゃダメ!前方の敵を切りまくってって!!」
何とかして活路を開かなければ、花鈴の身が持たない。その場合、最悪は…。
「…あ………。」
「!?花鈴!?しっかりしろ!」
宙に浮いた花鈴はやがて大人しくなっていき、目を見開いて口をパクパクさせるだけだった。
「花鈴ちゃん!!」
「………。」
やがて、花鈴の腕が力なく垂れ下がった。
「!?カリンさん!!!」
「カリイイイイイイイイン!!!」
「そこの者ども!退け!!!」
突如聞こえてきた声と共に、アルス達の背後から白い紙のような物が飛んできた。
【キィン!】
―――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!
「うぁ!?」
「な、何!?」
紙から発せられた光に目が眩み、一同は腕で目を遮った。
「………。」
やがて光は止み、恐る恐る腕を降ろすと、再び辺りを静寂が包んでいた。
「!か、花鈴!」
「花鈴ちゃん!」
「カリンさん!」
状況を理解する前に、先程宙に浮いていた花鈴がぐったりと横たわっているのを見て、雅達は駆け寄った。
「花鈴!しっかりしろ!」
「花鈴ちゃん!」
久美が花鈴を抱き起こし、揺らす。香苗も耳元で悲痛な表情で叫ぶ。
「………。」
それでも花鈴は生気がない顔で目を開かず、ぐったりとしていた。
「おい…嘘だろ?」
「カリンさん…。」
「………。」
…最悪の事を予想してしまい、雅は顔面蒼白になり、アルスは思わず涙声になった。
動かない花鈴を囲み、重い空気が一行を包んだ…。
「…いや、その者はまだ死んでおらんぞ?」
『!?』
一行の背後から、先程の声が聞こえてきて全員振り返る。
「…あ、あなた…。」
香苗がボソリと呟いた。
そこにいたのは、巫女服で身を包んだ少女だった。
正直恐くないかも…次回、新キャラ登場。龍二はまだ出てきません。