第百十の話 レッツゴー渋谷!での出会い4
渋谷編、ラストです。
〜アルス視点〜
……………。
すごい…。
「いやぁいつ見てもでかいな109は。」
「そりゃ渋谷のシンボルの一つみたいな物だからね。」
現在地、マルキューの正面。マルキューという建物の外見は大きな円柱型で、全体が日の光で輝いてます。上の方には、『SHIBUYA109』って書かれてます。読めません。
入り口からは、中に入る人や外に出る人で混雑してる。そのほとんどの人が女性なのはビックリでした。
『ねぇ見てよ、あの人達…。』
『ちょ、あの茶髪と金髪の子、チョーかっこよすぎなんですけど〜?』
『いや、それよりあの銀髪の子達、双子!?』
『やっだ〜可愛い〜!』
『食べた〜い!』
『あの帽子かぶってる子とかもやばくない!?』
『あ、確かにやば〜い!かわい〜!』
………はぁ。歩いてる時でもず〜っとボクら見て囁き合ってる声が聞こえてくるんですけど…五人目の人の言葉聞いたとたん、ロウ兄弟震え上がっちゃってるし…。
…というよりボク女なんですけど…はぁ。
「…ここどうして女性が多いんですか?」
「ああ、109はレディースの服が主だからよ。」
気分を変えたくて疑問を口にしたら、カナエさんが答えてくれた。
「レディース?」
「女性物の服ってこと。」
「一応メンズのもあるけどね。」
…あ、メンズは男性物の服ってことですね。
「ま、俺服なんざ興味の欠片もないし。」
「え、そうなんですか?」
リュウジさんって意外と服とか気を遣うタイプかと思ってたのに。
「大体俺は、手近にあった服を着る。一々選ぶ必要もねぇし。」
「うっわぁ夢のない男。」
「うっわぁ頭パーな女。」
「表出ろ。」
「表どこ?」
あぁぁリュウジさん、またミワさんと険悪な雰囲気に…。
「お、落ち着けって美羽。」
「リュウちゃん、喧嘩はダメ!」
「…ちぇ。わかったわよ。」
「ほいほーい。」
テンスケさんとカナエさんに注意されて、不服そうに口を尖らせるミワさんと特に何とも思ってないかのように呑気に返事をするリュウジさん…冷静って言うのか何て言うのか…。
「…こいつ、いつか殺す…!」
……一瞬、ミワさんの背後からゆらりと炎が揺れた気がした。
「……頼むから…やめてくれ。」
…それを止めるのはテンスケさんですよね…苦労お察しします。
「じゃさっさと行くぞ。」
『おー。』
リュウジさんの掛け声で、皆ゾロゾロと入り口へ向かって歩き始めました。
それにしても…大丈夫なんでしょうかこのメンバーで…。
「多分…大丈夫かも…。」
「かなぁ?…………………………あの、リリアン?」
「?」
「何でボクが考えてたことわかったの?」
「……。」
「……。」
「…気ニシナーイ。」
「誤魔化さない!」
だんだんリリアンがリュウジさんみたいになってく気がするよ…。
「アルス…さっさと行く。」
「あ、うん。」
…“さっさと”って言われると何故かちょっと傷つく『ガラスハート』のボクでした…
………ごめんなさい、言ってみたかっただけなんです。
〜109内部〜
「うわぁ…中もすごい人だなぁ…。」
リュウジさん達を追って入り口から中の広場に入ると、街中同様、人の数がすごかった。やっぱり女の人が多くて、男の人も少なからずいたけど、ほとんど女の人と一緒になってた。恋人同士かな?
「アルスー、こっちだこっち。」
「あ、はい。」
クミさんが皆と一緒に広場にある変わった形をした柱の下で手を振ってたので、ボクもそこへ行く。
「またお前はぐれたりしたらどうなっても知らんぞ。」
「…す、すいません。」
さすがにまた迷ったりしたらかっこ悪いですし…。
『おいおい、あそこの子達、マジ可愛くない?』
『うわやっべ、金髪の子とか俺ストライクなんだけど!?』
『女の子全員可愛くねぇか?』
『お、お前誰か一人声かけてこいよ。』
『そ、そんな度胸ねぇって俺に。』
………
少数の男の人は女の人と一緒に行動してるわけじゃないみたいで…やっぱりカナエさん達って美人だからなぁ…スタイルもいいし。
…ボク、生まれ変わったらもっと女の子っぽい顔になりたい…。
「え〜、で?どこ行くよ。」
「んじゃまずは二階行こっか。私欲しい服あるから。」
「じゃ俺ら男性陣は適当にその辺ブラブラしとk」
「アンタ達も来んのよ。」
テンスケさんの言葉を遮ったミワさん。
「は?何で俺らまで?」
「荷物持ちに決まってるでしょ?」
「…マジで勘弁してくれねぇか?こないだなんてお前買う量多すぎて俺ヤバイことになりかけたs」
「来いや。」
「…………はい。」
…ミワさんとテンスケさんの上下関係を改めて認識しました。
「…改めて思ったけど、何で俺らここに来たんだろうな。」
「マサさん、それはツッコんだらいけないと思われますよ?」
ここ、女性物のが多いからマサさんとスティルには抵抗があるようです。
「おお!あの人きれいだなあ!」
「マジか!?」
……キョウタさんとタクマさんは抵抗無いみたいですね。離れた場所にいる女性を見てはしゃいでます。
「拓馬くん?」
「!?……すいましぇん…。」
拓馬さんも京子さんには弱いみたいです。っていうより恐いです京子さんの笑顔が何故か…。
「キャー!あれ可愛いこれ可愛いぃぃぃぃぃ!!」
「ま、魔王様!こんなとこではしゃがれては迷子になってしまいますよ!?」
「ケルマ、紐持ってこい。そしてどっか括りつけろ。」
さっきまでダウンしてた魔王は、今じゃすっかり元通り。いろんなお店の前に並ぶ商品を見てはしゃぎ回ってます…って今一瞬カルマの隠れた性格がチラリと見えた気がしましたけど…。
「喫茶店はどこだ。」
「アンタまた食うの!?」
「リュウちゃん…勘弁してあげて。」
「………グスン。」
「久美…しっかりして。」
…因みにさっきの喫茶店で食べまくったフルーツパフェは…ジャンケンで負けたクミさんが払うことになりました。
あの量の金額はすごかったようで、払った後の財布を見てクミさんは若干暗いオーラを漂わせてました…。
「と、とにかく二階行きましょうよ、ね?」
何となくまとまりが無くなってきたような気がしてきたんで、とりあえず促してみました。
「ああ、そだな。さっさと買うもん買うか。」
一番に動いたのは、リュウジさんでした。何となく“とっとと別の場所行きたい”感みたいな物が漂ってるみたいなのはボクの気のせい…ですよね?
えと…二階へはどうやら、こないだデパートの時に乗ったことがある“えすかれーたー”で行くみたいです(第五十六の話)。
そういえば、その時って魔王がはしゃぎ過ぎた為に思いっきり怒られた後注意されたんですよね。
…止めに入ったボクまでも……クスン。
「?アルスどうした。」
「…何でも…ないです…。」
回想に耽りながら静かに涙を流していたボクの顔を覗き込んできたリュウジさん。ボクってよく皆から遅れとっちゃうんだよなぁ…反省しよっと。
「ん、じゃともかく上へレッツラ・ゴー。」
そう言ってリュウジさんは“えすかれーたー”の前で高く跳躍してそのまま二階へ。
…って…
『エスカレーターの存在意義は!!??』
…見事に皆のツッコミが重なった…。
〜二階〜
二階へ来ましたけど、並んでるお店が違うだけで構造的には一階と変わりませんね。人は多いですけど。
「あ、ねぇあれあれ!」
「?」
カナエさんがある店を指差した。店の前に服が入ったワゴンと服を着た変な人形が並んでる。店の中が丸見え状態になってるけど、電気が数個しか点いてなかった。けれど全然暗い印象とか、そんなのは全くない。
でも服が…何というか…胸にでっかいドクロをあしらったシャツとか、背中にさっぱりわからない文字が書かれたジャケットとかがあって、センスがわかりません…。
「ふぅん、パンク系か。」
「?ぱんく系って何ですか?」
「自転車や車のタイヤが」
「そのパンクちゃうわ。」
リュウジさんの説明にマサさんがツッコミ入れた。
う〜ん…まぁ、ああいう服をパンク系って言うのかな?そういうことかも。
「私、パンクファッションっていうの前々から興味あったんだ〜♪」
カナエさんがああいう服着るっていうのはあんまり想像できないですよ?
「じゃテンスケ、私らもあの店行こうか。」
「あれ?お前パンク系なんて着るっけ?」
「近頃流行ってるでしょ?前々から着てみたいな〜って思ってたのよ。」
「あ、ミワさんなら何だか違和感なく似合う気がしますね。」
ふとボクは思ったことを口にした。ミワさんがああいう服を着てる姿が想像できるんです。
「え、そう?」
「そうだな、お前の場合ドクロのTシャツがお似合いじゃね?」
…………………
…またリュウジさん、ケンカ売る…。
「…それどういう意味よ?」
「そのまんまの意味でござーい。」
「テメェ殺めたろかコラァ!!」
怒ったミワさんはどこから出したのか釘バット(!?)を振り回しだした。そんなミワさんをリュウジさんは近くにあった服を着た人形で殴った。ミワさんはいい感じで吹っ飛んでいきました。
…こんなこと言うボクってだんだんリュウジさん化していってるってことなのかな?
「み、美羽ぁぁぁぁ!…………ざまーみろ♪」
悲痛な表情でミワさんが飛んでいった方向へと手を伸ばしたテンスケさんですが、今一瞬本音がチラリ。
…テンスケさん、今までどれだけひどい目に合ってきたんですか。
「ね〜リュウくん、私も服欲しい〜!」
「あぁ?こないだ買ってやったばっかだろ?」
「ぶ〜、あれはあれ、これはこれだよ〜。」
「ダメダメ。今金持ってないから。」
「え〜!?」
「え〜じゃありません。」
リュウジさんの袖を引っ張ってねだる魔王。その間にボクは吹き飛んで壁に激突したミワさんを助け起こしてます。
…おねだりって…ボクだってそんなことしたことないんですけど…。
…え!?あ、いや、その、べ、別におねだりしたいってわけじゃないんですよ?我慢してるんですよボクは。自分で言うのもなんですけど、魔王に比べるとボクの方が精神的に大人ですし。
「…アルス、精神年齢まだ子供…第一誰に言い訳してるの…?」
「一々思考読まないでくれます!?」
「…気ニシナーイ。」
り、リリアン…恐ろしい人…!
「また今度買ってやるから我慢しな。」
「むすぅ…ハーイ。」
口で“むすぅ”ってアナタ…。
「?あれ?カナエさん達は?」
「服…品定め中…」
…いつの間に…。
「久美達…服に関しては行動が速い…。」
「そ、そうですか…。」
丁寧に説明してくれたリリアン…もう思考の話は置いておこうかな。
「…それじゃ、私も…。」
「あ、うん。」
リリアンは服を選んでるクミさん達のところへ歩いて行った。
…ボクはまぁ、ここでリュウジさんと一緒に待っておこうかな。
「いやぁ、にしても女の買い物て長いな〜。」
「だなぁ。」
「?キョウタさんとタクマさんは行かないんですか?」
ふと隣を見ればキョウタさんとタクマさんが壁にもたれながら買い物をしているカナエさん達を見てた。
「いや、だってさぁ。俺が行ったってどうすることもできねぇし。」
「俺は問答無用で全員に荷物持たされるし。」
「そ、そうですか…。」
不憫です、キョウタさんが…。
「…あれ?天介は?」
「さっき目覚めたミワさんに連れられてどこか行きましたけど…。」
…そういえばミワさん、何だか怒ってたような…テンスケさん、怯えてたような…。
「…もしかしてミワさん、さっきテンスケさんが呟いたの聞いてたのかな…。」
「え?」
「いえ、なんでもないです…。」
『ざまーみろ』と小声で呟いたテンスケさん…気絶する寸前にそれを耳にしたミワさん…。
…テンスケさん、呟くタイミングが悪かったみたいですね。
「ぶぅ…服欲しいのに〜…。」
「見てくりゃいいじゃん。」
「買えないのに見たら余計欲しくなるもん。」
「はいはい、そうですかい。」
頬を膨らませながら座り込む魔王の頭をポムポムと軽く叩くリュウジさん。
「魔王様、僕が買って差し上げます!」
「お前230円しか持ってないだろケルマ。引っ込んでろ。」
カルマ…意外と毒舌なんだね…。
「?マサ、どこへ…?」
「アクセサリーショップだ。姉さんに土産買ってかないと。」
ボクらから離れて少し向こうにある少し派手なお店へと向かっていったマサさん。お姉さん思いなんですね。
『いらっしゃいませ〜どうぞ〜ご覧くださ〜い☆』
『柳原○奈子かアンタ。』
…店員さんにまでツッコミ入れるんですねマサさん…。
「龍二〜!」
「あ?」
お店からカリンさんの声が聞こえてきた。
「何だ〜?」
「香苗ちゃんが呼んでるよ〜。」
「?」
訝しげな表情のままお店へと歩いていくリュウジさん。ボクも後を追った。
「香苗ちゃん、龍二来たわよ。」
カリンさんが試着室に向かって言った。カナエさん、試着室の中みたいですね。
「?何の用だ香苗。」
「フフフ〜ン♪」
いえ、中で笑ってるだけじゃわかんないですってカナエさん…。
「それでは、お披露目ターイム!!」
………
は?
【シャ!】
「じゃーん!」
効果音付きで試着室のカーテンを開けたカナエさん………
うわ……。
「フフ〜ン、どう?リュウちゃん♪」
…………
すごい、似合う…。
裾の細い鎖がジャラジャラ付いた黒いジャケットの下に胸に大きなドクロがプリントされた深緑色のTシャツ…それと腰とお尻に二つずつポケットが付いてて、腰にも細い鎖が左右に二本繋がれてるサファリ模様の膝丈まである短パン…
短パンからは細長くて白い足がスラリと伸びてて、女のボクでも思わず目が入ってしまうくらい。Tシャツからは…えと…その…………悔しいですけどボクより遥かに大きい…胸…がピッチリと強調されてます。
…ここまで着こなせる人って…ある意味すごいです。
「………。」
…それと、一番気になったのはリュウジさんの反応…これ見てどんな反応するんだろう…?
「…あん、いんじゃね?」
………………………………………………………………。
「ホント!?」
「おうよ。」
「どの辺がいい!?」
「あ〜……………腰の鎖らへん?」
リュウジさんそれカナエさん自身を誉めてないですよ?
「よぉしこれに決めた!!」
え、いいんですかカナエさん!?
「…服の良さってさっぱりわからん」
「リュウジさん、しー!!」
小声で呟いたリュウジさんにボクは思わず口の前で一指し指立ててしまいました。
幸いカナエさんには聞こえてなかったみたいで、ウキウキしながら脱ぎ終えた服をレジに持っていきました。
……服かぁ……。
「…あの、リュウジさん?」
「あ?」
どうしよ…魔王みたいに言ってみようかな…。
あ、でもお世話になってる身なんだし、いくらなんでもおねだりは…でも服……………
うぅ…。
「…何だ?」
「…やっぱ何でもないです。」
「ん、そ。」
…はぁ…。
「…何だお前も服欲しいのか?」
「!?え!?そ、そんなわけが…。」
「図星だろが。」
「………。」
…やっぱりリュウジさんに隠し事ってできないんですね…。
「安心しろ。今度買ってやる。」
「あ……ありがとうございます。」
「いいってこと。」
頭をポンポンと軽く叩くリュウジさん。
…照れるけど………何かいいです…///////
「ところでお前らはお披露目会みたいなもんしないのか?」
「か、帰って見せてやるわよ。それまで我慢しなさい。」
「興味ないわ、ハッ。」
「今鼻で笑ったでしょ!?」
「見てなかったか?じゃもっかいハッ。」
「うああああああああムカつくううううううううう!!!」
地団駄踏むカリンさん。そもそもリュウジさんてそういうの興味無さそうですもんね。
「じゃカナエ買ったら行くか。」
「え、もう行くのか?」
「時間。」
腕時計をクミさんに見せるリュウジさん。
「…え、もう五時半!?」
「時間が経つのは早いな。」
……多分、さっきの喫茶店での騒動とボクがはぐれた時に時間を大幅に削ったせいだと思います……
あ、何だか罪悪感が…。
「まぁお前ら買うもん買ったよな?」
「へへへ、買いまくったわよ♪」
よく見たら、皆それぞれ手に紙袋を持ってた。
…皆さん、ちょっと多すぎません?それ持つの男性陣の人達ですよね?
「言っとくが、俺は女が買った物は男が全部持つっていうベタな展開はクソメンドっちーから自分で買ったもんは自分で持って帰れよ。」
「え〜!?普通そこは持ってやるっていうのが紳士でしょ〜?」
「誰が紳士だバァカ何故にテメェらなんぞの荷物を俺がわざわざ持たにゃならんのだ脳味噌えぐり出して溶かすぞワレコラ。」
『ご、ごめんなさい……。』
早口で毒を吐いたリュウジさんに一斉に頭を下げた女性陣の方々…正直、リュウジさんならそういうことやりかねない…。
「ゴメン、お待たせ〜♪」
「おぉ、じゃ行くか。」
カナエさんが来たのを合図に、ボクらは店を出た。
「おお、終わったのか?」
「拓馬くん、持ってくれない?」
「京子のためなら喜んで〜♪」
「これ全部持ってくれない?影薄雑草太郎。」
「前よりレベル上がってんじゃねえか!?そしてやっぱり持つんかい!?」
…タクマさんは喜んでるからいいけど、キョウタさんは明らか理不尽な気がします。
「おいクルル、帰るぞ。」
「え〜!?もうちょっといたいのに〜!」
「遅くなったらお前の好きな番組終わるぞ?」
「え!?そ、それはやだ!」
「魔王様、何なら僕が!」
「何をどうしろってんだバカケルマ。頭で考えてからものを言えバカケルマ。」
……カルマぁ……。
「マサ、帰りますよ。」
「おお、買うもん買ったしな。」
戻ってきたマサさんが見せたのは、ピンク色の小さな紙袋…可愛い…。
「さ、てと…ってあれ?そういや天介と美羽は?」
「あぁ…あそこ。」
「?」
タクマさんが若干、躊躇いがちに指差した方向を見てみる。
「な・に・が・“ざまーみろ”なのかもっかい言ってみ〜…!!!」
【ギギギギギギギギ…】
「ぐぇぇぇぇぇぇ…ず、ずんまぜんでじだでずがらゴブラヅイズドやめでぐれぇぇぇぇぇ…。」
……………………。
「…テンスケさん…大丈夫なんでしょうか?」
「いやダメだろ?」
望みを捨てないでくださいタクマさん。
その後、リュウジさんが両足を揃えての飛び蹴り(ドロップキック)がテンスケさんとミワさんに炸裂、ミワさんの暴走は止まりました…………お二人とも気絶しましたけど。
〜渋谷駅 ハチ公像前〜
「いやぁ買った買った!」
「お、重い〜…。」
「ドンマイ、恭田。」
109から出て、ボクらは昼間にボクとテンスケさんが出会った場所へと戻ってきた。辺りは夕焼けのオレンジ色の光で照らされてて、ボクらを含めた人々の影がそこかしこに伸びていた。
「さ、てと。じゃ疲れたし帰るかぁ。」
「あ〜歩いたわね〜。」
「基本109と道玄坂ぐらいしか行ってないけどね…。」
「す、すいませんでした…。」
「アルスのせいじゃないから、ね?」
カナエさんが慰めてくれたけど…喫茶店の騒動、もといボクが迷子にならなければなぁ…。
「ところでアンタ達、電車で来たんだっけ?」
「?ああ、そうだけど?」
「そ……じゃここでお別れね。」
…へ?
「どういうことですかミワさん?」
「私らバスだからよ。だから。」
……バス?
「あれだあれ。」
首を傾げたボクの肩を叩いて、リュウジさんは向こう側を指差した。長くて大きいクルマが何台もそこに並んでて、大勢の人が乗り込もうとしていた。
あれがバスかぁ。
「ま、どの道アンタらとは住む町が違うからね。」
「そだな。」
………。
「しゃーないな。じゃここらで解散とするか。」
「そうね。」
「兄貴!いつか俺に技教えてくだせい!!」
「断る。」
「早っ!!??」
およそ0.1秒の早さでした…。
「京子ちゃん、拓馬くんとうまくやってってね。」
「幸せにね。」
「まぁいろいろ頑張れ。」
「ウフフ、心配しなくても大丈夫よ香苗ちゃんに花鈴ちゃんに久美ちゃん♪…浮気なんて許さないから♪」
「…絶対しません。」
「天介、アンタもよ。」
「俺もかよ!?」
「あ、でもアンタはする度胸なんてないか。」
「…ミワさん、それ俺のこと信じてる?それともけなしてる?」
「両方?」
「聞くんじゃねえ!!」
タクマさんもテンスケさんもホント頭が上がらないんですね。
「ま、それなりに楽しかったぞ美羽。」
「…私は一方的にボコボコにされたけどねアンタに。」
「大丈夫だよ、私達なんてしょっちゅうお仕置きされてるから♪」
「……それ楽しそうに言うセリフじゃないわよクルル?」
ミワさん、同感です。
「魔王様、ボクが代わりにお仕置きを受けてさしあげま」
「失せろバカケルマ。」
【スパン!】
カルマがケルマの頭を叩いていい音を鳴らした。あ、タンコブできた…。
「テンスケ…ファイト。」
「うん、応援してくれてるのわかるけどさリリアンさん、何だか少し傷つくのはどうしてだろうな俺?」
「…悪い、どう言ったらいいのか俺わかんねぇけど頑張ってくれ。」
「と、ともかく頑張ってください。」
「…ありがとう、マサさんにスティルさん…。」
…マサさんとスティルとテンスケさん、いつの間にあんな仲良くなったんだろう?
…それにしてもなぁ…お別れって聞くと何だか名残惜しい気がします。
「アルス。」
「?はい?」
ちょっと感慨に耽っていたら、テンスケさんが目の前にいた。
「?何でしょうか?」
「あ〜っとだなぁ…。」
?何故か言いよどんだ。
「…あの、さ。」
「はい。」
「…最初助けてもらってさ、お礼にってことでココア奢ってやったよな?」
「あ、はい。」
「…そのさ、あれだけじゃ何か俺、物足りないというか何というか…。」
?????
「…これ、やるよ。」
「?」
手渡されたのは…小さいな袋?
「何ですかこれ?」
「開けてみろ。」
?…言われたままに袋の封を切った。
「…あ。」
中に入ってたのは、可愛らしい子猫のキーホルダー…。
「これって…。」
「109でこっそり買っといたんだよ。」
「…いつの間に買ったんですか?」
「…美羽の奴に連行される直前に…。」
一瞬にして表情に暗い影を落としたテンスケさんでした…。
「…で、でもあの時お礼は受け取ったんですし…。」
「だからさ、あれだけじゃ何となく俺の収まりが効かなかったんだって…頼むから受け取ってくれないか?」
……………………。
「…ありがとうございます、大切にします。」
「ああ。」
子猫に繋がってるチェーンが、陽の光を受けてオレンジ色に輝いた。
「ってなぁに純愛っぽいことなってんのよアンタらはあああああああああ!!!」
【バキィ!】
「ひでぶ!?」
………いきなりミワさんの飛び蹴りを食らったテンスケさんは見事に吹き飛びました。
「こぉんの浮気もーーーーーん!さっきすんなっつったのにいいいいいいいい!!!」
「ま、ままま待て!誤解だ美羽!だから落ち着けって!!」
「うりゃあああああああ!!」
「ぎゃあああああああああ!!!」
………………。
「…助けないの?」
「…多分、大丈夫だと思います…。」
ごめんなさい、テンスケさん…。
【ピンポンパンポーン♪ 〜数分後、バス停前〜 】
「ま、ともかくまた会おうねアルス。」
「元気でねアルスちゃん。」
「いろいろ頑張れよ〜?」
「あ、はい。ありがとうございました皆さん!」
色々あったけど、ついにお別れの時が…。
「……元気でな。」
「テンスケさんも。」
…一番元気になって欲しいのはボロボロで満身創痍のテンスケさんですよ。
「じゃあね。」
「じゃあな。」
「またね。」
「…いてて…じ、じゃあまたな。」
ミワさん達は手を振りながら目の前のバスに乗り込んでいく…。
「元気でなー。」
「バイバーイ!」
「…また会いましょうねー!」
目一杯手を振るボクら。やがてミワさん達を乗せたバスの扉は閉まって、ゆっくりと動き出した。
窓からでも手を振ってるミワさん達に、ボクらも負けじと手を振り返した。
………曲がり角を曲がって、バスは見えなくなりました。
「…ふぅ、なかなかおもしろい奴らだったな。」
「はい……。」
「いやぁまさか渋谷に来て友達が出来るとは思わなかったわよ。」
「人生何が起こるかわかんないものね♪」
「だな。」
…ホント、いい人達に出会えました…。
「ま、楽しかったな今日は。」
「だね!」
「ですね。」
『…私はちっっっっとも楽しくなかったぞ!!!』
!!!???
「?………あ。」
「エル…。」
…リュウジさんの肩に担いでるスポーツバッグの中に入ってるエルのこと…忘れてました。
『貴様らだけ散々楽しみおって〜!!』
「わりぃわりぃ。す〜っかり忘れてた。」
『忘れるなああああああ!!ここ狭いのだぞ!?何で私がここに来たのかさえわからないだろうが!!』
「つーか何で今まで喋らなかったんだ?」
『狭くて喋るのもキツかったからだ!!』
「HAHAHAHAHAHA。」
『笑って誤魔化そうとするなああああああああああああああ!!!!』
…そういえば、シブヤ来てからエル、全然喋ってなかった気がする…。
「わ〜るかったっての。」
『うううう…私は、私は……。』
…スポーツバッグの中で泣く剣って………。
「ま、とによりかくより帰ろうぜ。」
「疲れた〜!」
「帰ってお風呂入ろうっと。」
ボクらは渋谷駅に向かって歩き出した。
…人との出会いって、とても気持ちがいいことだって思えた今日の一日でした。
「あ、ところで。」
「はい?」
「フィフィどこ行った?」
「………へ?リュウジさん知らないんですか?」
「ああ、知らんぞ?お前と一緒じゃなかったのか?」
「……………………
えええええええええええええええええええええええ!!!?!???」
〜で………〜
「う…グス…帰りたいよ〜…。」
…一人、駅のホームの隅っこで泣いているボロボロの妖精を龍二達が見つけたのは十分後の事だったそうな。
やっと渋谷編終わりました…無理矢理終わらしたような感じになってないかなぁ?
渋谷は広いんだからもうちょっと書いてもよかったんじゃない?と思う方々もいると思います。でもね、無理なんです。
だって俺、関西人ですから♪←大暴露
渋谷なんて友達の家行った時に一回こっきりしか行ったことないんですものおおおおお!!でも書きたかったんですものおおおおおお!!!
え〜、知識は全部WikiとDSソフトの『素晴らしきこの世界』から得ました。ははは、正直難しかったです。
今回のお話で一番かわいそうだったのは、エルとフィフィです。つーわけで、次回からはこの二人(一本?)の力が大活躍!?
それでは、関西人なのに渋谷のこと知ったかぶったコロコロでした〜♪