第百二の話 恵子?いや、稽古
〜フィフィ視点〜
「でやぁ!」
「よっと。」
【ガィン!!】
・・・・・・・。
「んむぅ〜・・・!」
「ふっふ〜ん♪」
・・・はぁ。
「ふゃ〜・・・。」
「あ、クルルおはよう。」
和室から昼寝していたクルルが出てきた。でもまだ寝ぼけ眼。
「ん・・・?ねぇフィフィ。アルスとリュウくん何してんの?」
「見りゃわかるでしょ。」
「はぁ!」
「そらよっと。」
・・・アルスの剣戟を、全て片手に持ったエルで軽く捌いていくリュウジ。しかも利き腕じゃない方の左手で。
今何してるか?さっきの解説でわかるでしょ?・・・わかんないか。
「・・・特訓?」
「そ。」
クルルの言う通りで、今アルスとリュウジが剣の特訓中。それも庭で。それで私は縁側に腰掛けてサクランボを食べながら観戦中ってこと。まぁこの庭それなりの広さがあるから多少暴れても大丈夫だろうけど・・・。
「・・・何で特訓してるの?」
「あぁ・・・それはね。」
ちょっと話は遡って・・・。
〜三分前〜
「ん〜・・・。」
「?アルス?」
私が庭を飛び回って遊んでいたら、アルスが縁側で腕を組んだまま唸っていた。
「どしたの?」
「・・・いえ、ちょっと・・・。」
気になったからアルスの肩まで飛んでってとまった。
「思いつめたような顔してるけど?」
「・・・そんなことないよ。」
「嘘だぁ。アンタっていっつも悩み事あるとそうやってどっか座って腕組んで呻いてるもん。」
「こ、細かいね・・・。」
「まぁね♪」
結構長い付き合いだからそれくらいわかるわよ。
「で?何悩んでたの?」
「・・・うん・・・実はね。」
うんうん。
「・・・ボク、最近剣の腕鈍ってるのかなぁって思ってきて・・・。」
「そお?」
知らない人も多いだろうけど、アルスは庭でよく木製人形に打ち込みをしてる。その太刀筋と剣捌きはいい線いってるんだけどなぁ・・・。
「いつもは一撃で木製人形を真っ二つにできたのに、昨日は三回やってようやく切れたんだよ?腕が鈍ってる証拠でしょ?」
「そう・・・かなぁ?」
・・・そういえば、昨日そんなことあったような・・・。
「でもあれは手が滑ったんじゃないの?それか剣の切れ味が落ちてたとか。」
「あれは手が滑ったんじゃないよ・・・どこを切るべきか、一瞬わからなくなったんだ。剣は毎日手入れしてるから鈍ることはないし・・・。」
・・・ん〜・・・何かよくわかんないけど・・・。
「・・・それに、昨日だけじゃなくてその前の日も剣を振るう腕に何だか違和感感じちゃって・・・。」
「ふ〜ん・・・ようは、それで腕が鈍ったと確信したってわけ。」
「うん・・・。」
違和感ねぇ・・・それで腕が鈍ったってわかるのかなぁ?私剣持ったことないからわかんないや。
「・・・どうしよう・・・はぁ〜・・・。」
「ため息ばっか吐いてると幸せ逃げるよ?」
これ、リュウジ情報だけど。
「はぁ・・・。」
「?おいアルス。どった?」
あ、リュウジ。散歩から帰ってきたんだ。
「リュウジさん・・・。」
「随分と悩んでるようだが?」
・・・まぁ、誰から見ても悩んでる風に見えるけどさ、いきなり図星って・・・。
「・・・・・・・あ。」
「?」
「リュウジさん、お願いがあるんですけど。」
「?何だ。」
・・・あ、もしかして・・・。
「あの、お願いです・・・ボクに稽古をつけてください!」
「恵子?誰だそれ?」
「いえ、人じゃなくてですね・・・ってマジメに答えてください!」
「???」
・・・アルス、リュウジはふざけてるんじゃなくてこれでもマジメなんだと思うよ?
「だから!ボクに特訓をさせてください!!」
「あ、そっちの稽古か。」
ポン、と掌を叩くリュウジ。ほらね、純粋に稽古と恵子、間違ってたでしょ?
「そうです。こないだみたいな一対多じゃなくて、一対一で稽古をつけて欲しいんです。」
「え〜?俺今から“いい○も”見たいのに〜。」
「そこを何とか・・・お願いします!」
「でもメンドイしなぁ。」
・・・・・・・。
「お願いです、一回だけでいいんです、ホントにお願いします。」
とうとう縁側から降りて土下座したアルス・・・いいのそれで?
「ん〜・・・・・・・・・・・・・。」
顎に手を添えて考えるリュウジ。そんな迷う?
「・・・・・・しゃーねぇな。今日のいい○もはあきらめっか。」
「あ、ありがとうございます!」
顔上げたアルスは、ホントに嬉しそうだった・・・稽古つけてもらう以外に何か考えてるもしかして?
「じゃちょっとエル持ってくるから待ってろ。」
「はい!」
・・・いいのかなぁ?・・・
〜で、現在〜
「つーわけなのよ。」
「へぇ〜。」
う〜ん、そういえば最近アルス、素振りの回数増えたしな〜。そんなに剣の腕が落ちたのがショックだったのかな?
まぁ確かに、元の世界にいた頃のアルスってすっごい魔物の数に大立ち回りしたことあったっけなぁ。あの時はすっごく強かったけど・・・。
あの時の太刀筋を思い出してみれば、確かに最近の剣を振るう腕が重くなって見えるような気がするなぁ。それでもやっぱしそんじゃそこらの剣士じゃ相手にならないだろうけど。
でも・・・
「お〜いどしたぁ?」
「くぅっ!」
一番激しく動いてるのがアルス、まったく慌てるそぶりも見せずにその場から一歩も動かず軸足だけを回転させてるリュウジ。庭のあちこちにアルスの足跡が付いてるけど、リュウジの足跡は中央の芝生にしか足跡がついていない。
おまけに、目は閉じたまま・・・完璧手加減してるわねあれ。もしくはおちょくってるとしか思えない。それでもアルスは、果敢に挑んでいってリュウジに軽くあしらわれていた。
「でも、相変わらずすごいねーリュウくんって。」
「そうね・・・。」
・・・あいつは参考にしようにも強すぎて参考にすらなりそうもないわね。
「やああああああああ!!!!」
「ほらよっと。」
【ガキィン!】
アルスの突進による力を加えた切り下ろしも、リュウジの逆袈裟切りでいとも簡単に弾かれた。
「うわぁ!」
衝撃で、アルスの剣がすっぽ抜ける。
【トス】
「はい終わり。」
「・・・うぅ・・・。」
で、尻餅ついたアルスの目の前にエルを突きつけて終わった。アルスの剣は庭にある木の根元に突き刺さった。
にしても、結構本格的だったわねぇ・・・。
「・・・まいりました。」
「ん、そうか。」
【キィン】
エルを腰の鞘に収めて、稽古(?)は終了した。
「はぁ・・・やっぱりリュウジさんには敵わないや。」
「そか?」
うん、すっごく余裕だったよねアンタ?
「・・・それでリュウジさん、ボクはどこが悪かったんでしょうか・・・?」
「知らん。」
「・・・・・・・・え。」
・・・・・・・・。
「いやだから、どこが悪いか知らん。」
「・・・それだと稽古の意味が無いじゃないですかああああああああ!!!」
うん、ただ切り結んだだけだよね?下手したら死んでたよ?あ、大丈夫か。さっきリュウジ、エルとアルスの剣に何か『龍鉄風』っていう技かけてたし。あれで体に当っても切れないようになってる。
「ん〜・・・んなこと言ってもねぇ・・・。」
頭をポリポリかいて困り顔になるリュウジ。
「・・・じゃとりあえず俺なりに気付いたこと言うけどさぁ。
お前考えすぎ。」
「・・・・・・・・・・・へ?」
??????
「ん、後は自分で悩め。ボーイズビーアンビシャス。」
そう言いながらアルスの頭をクシャクシャと撫で回す。
「ぼ、ボクは女です!」
いや、そこ反論する?
「さぁて、と。俺なんか眠いから寝るぞ。」
「あ・・・はい・・・。」
結局、何が言いたいのかさっぱりわからないまんまリュウジは家の中に入っていった。
「・・・考えすぎ・・・?」
「どういう意味だろね〜?」
「さぁ・・・?」
考えすぎ、ねぇ・・・
ん〜・・・・・・・・??
「・・・。」
「アルス・・・。」
俯き加減で黙り込んじゃったアルスに、クルルが心配そうに名前を呼んだ。
あれかな?手加減されてた上に呆気なく負けちゃったのがショックだった?
「・・・。」
「・・・あ〜・・・ほら、あれよあれ。リュウジ強すぎだから参考にならないでしょ?だか「な・・・。」??」
へ?
「・・・撫でられた・・・//////」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「そこかい!!!」
「あぁ!アルスずるい!!」
「ってアンタ言うの遅すぎクルル!!」
「・・・//////////」
〜三人娘が騒いでる頃、二階の部屋にて〜
「あ〜ねみ。」
『・・・。』
「?エル、どった?」
『ふん・・・いや、貴様にしてはなかなかいい事を言ったと思ってな。』
「?」
『アルスは相手の太刀筋やどこをつけばいいのかずっと考えながら戦っていたのだろう。それで動きが鈍くなったりしていた。そこに目をつけるとは、さすがだな。』
「はにゃ?」
『・・・・・・・まさか、貴様適当に言ったのではないだろうな?』
「イエス。」
『・・・・・・・・・・・・。』
「じゃおやすみ〜。」
『ちょ、貴様』
「く〜・・・。」
【龍二に指導を頼むというのは無理があるそうです。byライター】
肩がいてええええええ!!!(泣)←【どうでもいい】