花の国1 港町デンファレ
『長旅お疲れ様です
当列車は世界から集められた名花が御目にかかれる
花の国の南に位置する港町デンファレ
デンファレでございます ご乗車ありがとうございました』
車内から響き渡るアナウンスと共に列車は最寄りの駅に静かに停車する
「くぁ~~…… 着いたのか?」
列車の微かな振動でラウルは無理やり起こされた
「お~い メ~モル~~ 起きろ~~!」
ラウルの隣のベッドにはメモルがスヤスヤと寝ていた
その寝顔を見る度に あの奇妙な出来事を思い出す
ーーあの日から こいつは寝てる方が多かった
起きたとしても飯食うか横になっているかと
見た感じで分かる 弱っていた
だけどあれから数日 まったく別人のように元気を取り戻している
そう…… まったく別人の様に……
「ラウルー!! おっはようー!!」
メモルがベッドから起きたと思えば 勢いづいて思いっきりジャンプしていた
ベッドの上でポンポン跳び きれいな髪が乱れてグシャグシャになっている
ーーホントに…… 二重人格ってやつか?
「はしゃぐなよ…… アホル」
「何? アホルって?」
メモルは跳ぶのを止めて ラウルに顔を近づけて来た
ーー俺が見たこの明るいメモルは
最初出会った時と昨日今日とで三回になる
数日前のあの事件のメモルとは逆で
なんかこう…… 年頃に似合う少しハッチャけた部分があるというか……
……はっきり言って阿呆 そこが元になってアホルと呼んでいる
ラウルはベッドから起き上がり
メモルの問いを無視するかのように洗面台へと顔を洗いに行った
「お前はここで降りなくてもいいのか?」
ラウルはタオルで顔を拭きながらメモルに聞いた
「え? 別に目的地はここじゃないよ?」
「そうじゃなくて…… もしかして知らないの?」
「??」
ラウルは頭を掻きながら渋々話す
「この列車は駅毎に停車している時間の長さが違うんだよ」
「ほほぅ」
「んだからどれだけ列車で待ってても
客に急かされようがこの列車は動かないの」
「へ~~そうなんだ~~ ラウル博識だね~~」
「だろ~~!? ここは夕方始発だから好きなだけ花を見て来れるぜ 行ってこいよ」
「わかった!!!」
そう言うとメモルは部屋から飛び出して行く
メモルが外出したのを確認したラウルはベッドにダイビングヘッドを決める
「か~~~~っ!! やっと寝れる……
あいつの所為でほとんど寝てないからな……」
と言いつつも ラウルはずっとメモルの看病を自主的にやっていたのだ
すると突然 グイッと何かがラウルの服を掴んだ
「……?!」
ラウルは強引に得体の知れない何かに引っ張られ
部屋を飛び出し 窓を破り 駅の入り口の方へ飛んでいったのだ
「あれ~?~ ラウルも行くの?」
気がつけばメモルの隣に倒れているラウル
「いや…… 俺は…… 無理やり…… 何かに……」
ラウルは自力で立ち上がり列車に戻ろうとしたが
またもや得体の知れない何かに引っ張られ
メモルの隣まで何の抵抗も出来ず ムーンウォークみたいに戻ってきた
「……一人で見るの恥ずかしいなら 一緒に行く?」
「なっ! 違う……!」
ラウルは必死に列車に戻ろうとするが
何回やっても同じことだった
ようやく諦めたのか メモルと行動を共にすることに決めた
辺りに広がるは町を埋め尽くす程の花
それも何千もの種類が視界に入り 目がチカチカする光景だった
「さぁさぁ!! こちらは花の国名物ならぬ名花カランコリィだよー!!
花言葉は小さな思い出 小さい花だから 女性に大人気だよー!!」
「こっちにはウランダからしか採れない 世界七大珍品!!
花の秘宝の一つ〝七虹の四季彩〟だよ!!
季節の変わり目を教える 色が変わる瞬間が花の秘宝登録の理由と言われてるよー!!」
「こっちも負けませんわよ!!」
客引きに負けず 太った女性は体を全て使って商品を猛アピールした
「なんとこちらは あの鎖国国家【日の国】でしか御目にかかることしかできない!!
負けず劣らず花の秘宝の一つ!! 〝サクラ〟で~す!!」
一つの大木に満開に咲く桃色の花
風に煽られるとその小さな花びらがヒラヒラと 舞う姿は見てる人全てを虜にさせた
「綺麗だね~……」
メモルもまた たくさんの花を観賞し魅了されていた
「そうだな……」
その横で全く興味を示さないラウル
隙あらば列車に向かって逃げを試みるが全て失敗している
「ラウルー! 次あっち行こう!」
ラウルの手を強引に引っ張って走り出した
ーーなんで逃げられねぇんだ……
「おい! いたぞ……」
黒装束を身に纏う男がメモルを見た途端 隣にいる男の肩を叩いた
「待って下さいよー! せんぱ~い!
まだ花という花を全部見てないんですから~!」
「ふざんけんなドアホ!! てめぇ…… いい加減殺すぞ!!」
「ていうか先輩 リーダーから待機命令出されたんじゃないすか?」
「う…… うるせい!! 誰もあんな奴に仕切られる覚えは無いっつーの!!
行くぞ!! 隙を見て捕獲する!!
……っておい!? どこ行ったあのドアホ~!!!!!」
怪しい男は何やら怪しい雰囲気を醸す
というか端から見ればキチガイのように大声を発していた