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船上3 旅の汽笛


「俺は部屋に戻ります…… メモルの様子も確認したいんで」


ゼッペルとヴァースの会話をラウルが突然割って入ってきた


「そうか 呼び出しに応じて貰ってありがとう

貴方には多からずも 助けて頂きましたので……」


頭を下げたゼッペルは何故か

お辞儀し終えた後 ラウルの肩を強めに掴んだ


「だが無理だけはしないでくれ……

何物にも動じない闘争心も結構だが もう少し考えを持つべきだ」


〝余計な御世話だ〟などと言いたかったラウルだが

そのときのゼッペルの目は本気で少し怒っている

そんな表情を彼は汲んでしまった


「良いじゃないかまだ子供なんだし 無鉄砲が丁度良い!!」


「誰が子供だよ!!」


ラウルはヴァースの言葉には過剰に反応した


「それでは失礼します!」


やや怒り気味でラウルは部屋を出て行ってしまった


「さて 続きを聞かせてもらおう」


ヴァースの話を真剣に聞くゼルと一同


彼の話を聞かずに出て行ったラウルはメモルが居る自分の部屋に戻る

戦いが終わって直後 激しい揺れで床に倒れていたメモルをベッドに寝かし

容態が重くないと判断した後にゼッペルの車両へと向かったのである


旅で偶然出逢ったばかりの彼女を 何故か気遣ってしまう

そんな感情を抱きながら部屋のドアを開けた

部屋を一目見た瞬間 気遣いから生まれた不安が体中を走らせた


「メモル?」


ラウルの目の前にメモルの姿は無かった

即座に部屋を出て彼は車両を駆け巡る

しかしどの車両にも彼女の姿は見当たらず

行く当ても知らない内に徐々に足が止まった


ーー 一体…… どこに行ったんだ……?


メモルが行きそうな場所を考えるも 会ったばかりで分かる筈もない


「……?!」


何かに気付いたかのように ラウルは車両の窓を開けて列車の屋根に上った


「……メモル」


ラウルが見たのは 夕日を浴びながらも負けずに輝かせ

空色の髪をなびかせるメモルがずっとアンオーメンの方角をジッと見ていた


「大丈夫か?」


メモルにラウルは優しく話し掛ける


「ラウル…… あ…… うん……」


色んな部分が大丈夫ではないメモルにラウルは静かに隣に立って腰を下ろした

足をブラブラさせながら何を言えば良いか迷うラウル

数分の沈黙が襲う中でメモルが静かに口を開く


「ラウルは何で旅に出たの?」


「へ?」


ラウルは一瞬 思考をフル回転させる


「あれ…… さっき部屋で言わなかったっけ?」


「そう……だっけ……?」


メモルはまた黙り込んでしまった

ラウルはちょっと気まずい表情になり

頭を掻きながら勢いよく立ち上がって


「俺は自分の腕試しに海へ出たのさ!!

どこまで実力が通るかわかんねぇけど

俺の名を轟かせてやる!! その為にもこの先にある大会に……!!」


「嘘……」


「え?」


メモルの微かな一声に またもやラウルの宣言が一瞬で遮断された


「あっごめんね…… でもそんな気がして……」


メモルをジッと見るラウルはまた静かに座り直す


「人ってさ…… 誰にも話せない悩みってのを一つは持ってるもんだよ」


「……」


「人に話してもどうにもならない……

現実に逆らえない…… 度胸があっても力が無い……」


「話してよ」


「……」


「私も記憶無いけど…… あなたに言ったよ?」


「うっ……」


ラウルは数秒の沈黙を作り 多少嫌そうに話し始めた


「両親がさ…… 奴隷なんだ……」


「……」


メモルは人間を憐れむ目でラウルを見ていた

その視線を裂くかの様にラウルは勢いよく立ち上がって

屋根に上った車両の窓から中へ戻ろうとした


「風呂沸いてるから 先入れよ!」


そう言うとラウルは一人先に部屋に戻ろうとしていた


「ラウル!!」


突然後ろからメモルが 最近会って初めての声量で叫んだ


「あなたの苦悩を助けることは出来ない…… 多分私のも……

でも! 私はあなたと違って誰もいない!」


「っ……」


「想う人もいない! あなたより辛いなんて言わないけど…… 私は……」


途端にメモルはその場に倒れ 列車の勢いで海に放り出された


「……!? メモル!!!!」


ラウルは駆け出して手を伸ばしたが

車両から離れ過ぎたメモルを捕まえることは出来なかった


「うっ……」


その時 ラウルの記憶からは地獄の映像が蘇る


ーー……もう二度と手を離すものか!!!!!


ラウルは車両から跳び メモルの手を握った

そして自分の胸に引っ張り込み 海の方向を自分になるよう振り返って優しく抱いた


「クソォ…… 自由が効かねぇ……」


ラウルが覚悟を決めたそのとき

メモルの周りから沢山の水色の光子が湧き溢れて来る



「…………ん?」



気付くとそこは車両の屋根の上にてメモルと共に寝そべっていた

列車は次の駅へ向けて汽笛を鳴らす


「いたな……」


「捕えるんですかぁ先輩?」


「いや まずはあのリーダー気取りに島神の成果報告を入れろ」


「いや~~ やっと動けますねぇ俺達も!!」


「お前はもうちょっと緊張というものを持て」


車両より100m上空に絨毯の布に乗る二人組がいた

そいつらが誰かは定かではないが 周りにはドス黒い魔蛍が渦を巻いていた



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