船上1 奴隷制度
アンオーメンから少し渡った海域に横転する車両 その近くに島神と呼ばれる人とは全く別の
例えるなら動物よりも人型に形成された巨大な生物が海の上で体勢を崩しながらも浮いていた
「……奴隷?」
ヴァースと名乗る男に吊されるラウルは呟いた
「ああ…… 気高いのに…… 可哀想に……」
島神の体勢を崩した奴隷が車両の屋根に着地した
その格好はボロい布服に両足の枷 そして枷は鎖に繋がれていた
ラウルは一瞬青ざめた顔をその奴隷にではなく
車両の中に見える飼い主に向けて睨んでいた
さらに二人の奴隷も出払い 三人一斉に島神に走り出す
〝 お…… のれ…… 人間如きがぁぁぁ!!!! 〟
島神がへこみ割れた腹を奇妙な光子で修復し 三人に正面から打って出た
奴隷の内一人の女性が両腕の鎖をしなやかに解き 振袖の様に舞った
「白の魔蛍…… 創造しさらに精錬せよ……」
彼女の鎖の先端から鋭い刃が現れ その光景は原理では無く俗に言う魔法そのもの
なんとも奴隷と反比例した 一言で言えば自由 しかし両足の枷がその自由を奪っている
女の奴隷はその刃の付いた鎖を巧みに操り 舞うように島神に斬り傷を入れていく
その切れ味は魔法の付加によるもので 島神の岩のような皮膚を軽く裂いてみせる
「ところでヴァース…… 様……」
「呼び捨てでいいよ〝ゼル〟」
奴隷達の戦場から離れた車両の屋根では
彼等と時を同じくして現れたヴァース そしてゼッペル達が様子見と対策を練っていた
「時に何故? 名軍師の貴方がこの車両に?」
「それはこっちのセリフだよ
元一国の王がなんでまた列車の車掌なんかに……」
ゼッペルの問いにヴァースが問い返した
「その事は言わないでくれ もう昔の話だ」
ゼッペルは悲しげな顔で答え
気まずい空気を打破すべく ヴァースはゼッペルの質問にも答えて上げた
「言わずとも分かるだろう? この列車の行き先 そして例の大会」
「……」
ゼッペルはそれ以上聞かずに黙り込んだ
「ゼッペル!」
背後から一人の男が何かを持ってやって来る
「遅いぞ! ゴルク!!」
「お前の武器 最後の車両に置いてあったぞ!?」
ゼッペルの怒りより ゴルクと呼ばれる乗組員の怒りが強かった
「さて奴隷…… いやお客様だけに任せる訳にはいかないな」
「手伝おうか? ゼル」
銃剣を持ったゼッペルの隣に立つ 腕の袖を捲るヴァースが出張る
「言っただろう お客様には迷惑をかけない」
そう言うゼッペルは猛ダッシュで島神のいる近くの車両まで走った
奴隷達は士気を下げず交戦を続けていたが
〝 小癪な…… 〟
島神の怒りが体外に吹き出し
微動だにしなかった構えから荒ぶり始め
マグマを帯びた右腕が一人の奴隷に命中する
「っっっっ……!!!!」
攻撃を食らった奴隷は一言も発しないが表情は地獄を意味している
それでもなお闘おうとする姿はまさに哀れな戦士
それを車内の窓から使えぬとばかりの目をしている飼い主
目も当てられぬ現場にゼッペルが到着した
ーー来たのはいいものの倒せるのか? いや無理だ…… ここは……
「頼めるか? アレス?」
〝 任せろ 〟
ゼッペルが誰かと会話をしていると 突然背後に鎧兜を身に付けた大柄な人
言うなればどこぞの逞しい戦士 雰囲気が島神とも似ているようで
〝 彼奴の名前は? … 〟
「分からない」
アレスから島神の名前を聞かれるが
そもそも島神の名前などそう分かるものではない
知っていたとしても それは人が勝手に作った名である
「〝熔魔炎神ディンフリーツ〟」
ゼッペルが乗っている屋根の下から声がした
「アンオーメンは有名な国だったからね 覚えていたわ」
「まさかとは思っていましたが…… 奴隷制度維持連盟【ルシファード教会】幹部
サクバサ・フレイアント様でしたか」
ゼッペルはサクバサを見て多少驚くも すぐ島神に視点を移した
「あの奴隷達を引き上げて欲しい ここからは私共が責任を持って討伐しましょう」
「嫌よ…… って言ったら?」
「な……!! 何故です?」
ゼッペルが驚くのと反対にサクバサは長い髪をいじりながら
ニヤニヤと笑みを溢して自分の奴隷達を主体に官房している
「あの島神を奴隷にしたら すごいと思わな~~い?」
「……」
ゼッペルは飽きれていたが一応客相手になんとか対応する
「お気持ちはお察しします……
しかし見たところ貴方の奴隷達はとても勝機があるとは思えませんが……」
二人の目の前には既に虫の息の三人がいた
「チッ! しょうがないわねぇ 引き上げるわよ!!」
そう命じるサクバサは 車両の奥へと不機嫌に戻って行く
その後ろを虫の息で奴隷が足を引き摺りながら付いて行った
「さてと…… 頼むぞアレス!!」
〝 準備は出来ている 〟
アレスは怒り狂う島神ディンフリーツの下へと近づき
〝 貴様は…… ア…… ア…… 〟
〝 久しいな 炎豪の友よ 〟