変わらなければならない場所2 贈り物
「まずはここに用があったんですよね?」
ヤコの見る先は先ほど趙炎が入ろうとしていた装飾品を売る店だった
「あっ…… あぁ……」
趙炎が店内に入ると当たり前のようにヤコも入って来る
「いらっしゃませ!! これはこれは趙炎殿! 如何な品をお求めで?」
「あぁ~~……」
日頃買い物などしない趙炎は数ある売り物を端から見ていく
すると背中をニ回 人差し指で叩かれた
「?!」
「これなんてどうでしょう?」
目の前にいるヤコが差し出したのは金の髪飾りだった
「お客さん御目が高いですよ!? これは今や国内中で流行っている一品でございます!!」
「そうなのか?」
「孤橋様に贈られるんですよね?」
「うっ…… まぁ…… 良い物を選んでくれてありがとな……」
趙炎がお礼を言うとヤコは無表情で一礼した
「でも庶民が付けてる者をあいつは喜ぶだろうか?」
「プレゼントすることが大事かと思いますが?」
先日向けられた時と同じ ヤコの哀れんだ顔が趙炎に突き刺さる
「こ…… これを下さい!」
「ありがとうございます!!」
器用な店主は今の話をこっそり聞いていたのか プレゼント用に髪飾りを包んでいた
「またのご来店をぉぉぉ!!!」
元気な掛け声の店主の声をバックに趙炎達は店を出る
「次はどちらに?」
「あぁ…… 関尾の奥さんにだよ 帰った時に何のお土産も買っていかなかったからな」
「お優しいんですね趙炎殿は?」
「何年も世話になったんだ 当たり前だろ?」
何事もなく口から出る趙炎の言葉に ヤコの顔から笑みが浮かんだ
「あ 笑った」
「笑っていません」
「初めて笑った顔を見たよ」
「笑ってませんから」
「孤橋みたいにもっと表情豊かになればいいのにな」
「…………」
歩いてる途中でヤコは足を止める
「孤橋様が笑うのを見たのは…… 貴方の家で…… 貴方の側でしか見た事ありません」
「……そうなのか?」
「……私達はせめて孤橋様を不快にさせない程度に これが精一杯です」
落ち込むヤコの頭を趙炎は優しく撫でた
「巻と同様に苦労してんだな」
「やめて下さい」
趙炎の手を振り払うヤコは一足先に前へと進む
「家族だと思ってやれよ」
「!!?」
趙炎の一言にヤコは驚きながら振り向く
「私が…… 孤橋様の家族だなんて…… そんな無礼な事出来る訳ないじゃないですか!!」
「アイツには家族は大勢いるが そばに居ることなんてまず無いんだ
勉学に付け足して習い事だ接客だと 身近な人に甘える時間は皆無 故に親しい人がいないんだよ」
「だからって私が……」
「そんな多忙な中 常にそばに居てやれるのは誰だ? 側近だろ?」
「……?! だったら」
「…………」
「だったらなんで貴方は!! もっと孤橋様のお側にいてあげられないんですか?!」
「…………」
「貴方の自宅でだって…… あんな煙たがるようなことして……」
ヤコの素の声に趙炎は悲しげな表情を見せた
「俺は兵士だ いつまでも誰かと一緒にいられる立場じゃない いつ死ぬか分からないからな」
「っ…… だからって……」
「孤橋の性格には手を焼くだろうが…… 頼むよ」
その後の二人に会話は無かった
無言のまま買い物は終わらせ 港に停泊している趙炎の船に二人は乗る
「ほらヤコ!」
「……!?」
船の隅にただ黙って座っていたヤコに物がふんわりと飛んできた
「これは……」
「今日は付き合ってくれたからな お礼だ」
掴んだ両手の中を見ると 孤橋へ送るプレゼントの金の髪飾りと同じ物が二つあった
「お揃いの方が距離が縮みやすいんじゃないかって思って あの店でもう二つ買っといたんだ」
「……ありがとうございます」
再び笑顔を見せるヤコに趙炎は敢えて触れず 船は再び趙炎の自宅がある島に近づいていた
家に到着すると当たり前のように関尾の奥さんが出迎えてくれる
「ただいま戻りましたおばさん! これお土産です」
「火女桜に向かうって聞いたからもう心配したわよ趙炎!! 無事に帰って来てくれてよかった」
少し涙目の乳母を慰め 嬰児籠の中にいる関平にも顔を見せる
「お前にも土産あるぞ関平!!」
無垢に微笑む赤子のそばにでんでん太鼓を置き 自宅へと入った
「さて…… 返事を書こうか」
机に向かって紙と筆を用意する
墨を筆先に塗り 後ろで座るヤコに見られながら趙炎は孤橋への返事を綴る
数十分で筆を置いた趙炎は封に包んでヤコに渡した
「じゃあよろしく!」
「はい」
ヤコは懐から魔蛍琥珀を取り出し 外に魔法陣を描くとその場から消えてしまった
「相変わらず便利だな……」
趙炎は欠伸をしながらそのまま自宅へと戻って行く
その晩 城内の孤橋の寝室
ヤコから受け取った彼女はさっそく手紙を読んでいた
〝 最初に言うが俺宛ての手紙に不満を叩き込むな
ヤコがお前の心配をしていたぞ? 孤橋の側近なんだからもうちょっと気に掛けてやれ
お前の世話好きは知っているが 今日一緒にいて良き話相手だと俺は思う
そして艶殿と司馬軌殿についてはお前に危害が及んだ事は謝る ごめんなさい
一大国の姫君として励めよ 〟
「私に対しての手紙は相変わらずの内容ね 昔から全然変わってないんだから……」
孤橋は手紙を閉じてヤコのもとへと近付く
「〝ごめんなさい〟って文にあったけど あなたの仕業ね?」
「っ…… 申し訳ありません」
すぐ謝るヤコに孤橋は趙炎の手紙にあった内容が浮かび プレゼントの髪飾りを付けてみせた
「エヘヘェ!! 似合う?」
「「 はい! とてもお似合いでございます!! 」」
「そう? 二人も似合っているわよ!」
そう言って孤橋は二人の付けた髪飾りを優しく撫でた
「私達お揃いね!!」
「「 っ…… はい!! 」」
孤橋が二人に向ける久しぶりの笑顔に ミョウコとヤコは心の底から喜んだ




