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蛍籠  作者:
97/119

第96話:親心

 「そうだ。この子だって、最初からこうだったわけじゃないんだよ」

 「うん。だって、小さい頃は私と美花の事を可愛がってくれてたもん。まぁ、かすかに記憶に残る程度しか覚えてないけどね」

 「息子夫婦と美智達の両親の結婚は、同時期でね。祝い事が続いて村全体が明るかった。だけど、息子夫婦はなかなか子供に恵まれなかった。あの子だけが、原因ではないけどね。ただ今程、不妊治療が進んでいなかったから、この子にかかるプレッシャーはかなりのものだった」


 村と共に歴史を積み重ねた神社の跡取りの嫁。何よりも望まれるのは、自分達の次の世代の誕生。この狭い村の中、きっと様々な人々から期待をかけられたに違いない。


 「私がいつまでも宗教家の真似ごとをしていたのは、お金の為じゃない。何よりも深く息子を愛し、息子の子供を欲しがっているこの子の望みを叶えてやりたかったのさ」


 意味不明な奇声を上げる義娘の姿に顔を歪めながら、力なくお婆は、語った。その言葉に美智は、大体の事を察した。


 「宗教とあの人の望みってどう繋がるんですか?」

 

 お婆の宗教家としての活動と神主の妻の願いの関連性が、今いち明達には察しがつかないようだった。


 「まぁ、明達、男には想像がつかないか。さっきも言った通り、あの当時の不妊治療は、今のものに比べるとあまり良くないし、治療費だって馬鹿にならない。それに市内に出たところで腕の良い医者は、なかなか見つからない。あの記者さんが話していた通り、あの時顧客の中に中央政財界の人間がけっこういた。だから、占いや祈祷の報酬の代わりに治療費と医者を紹介してもらってたんだよ」


 美智は、それを聞いてやっぱりと思った。今だって、市内の大学病院が一番不妊治療では進んでいるが、東京など都市部に比べるとまだ差がある。当時の最先端の治療を受ける為にはかなりの伝手やお金が必要だったのだろう。

 お婆は、村の為の必要悪だと言っていたが、本当のところは息子夫婦を思う親心が続けさせていたんだと思う。

 でも、肝心な疑問がまだ一つ残っている。


 「お婆、何故子供は生まれなかったの?」

 「………………殺されたからさ」

 「え?」

 「私の夫が流産させたんだよ。あの子に暴力をふるってね」


 低い声でそう言うとお婆は怒りで頬を紅潮させながら語りだした。嫁を絶望に突き落としたあの日の出来事を。

 

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