第92話:回想・12
「…………本当に僕の為何ですか?」
「もちろん。儀式を世間に曝せば、多くの目が村に向く。そうしたら、君や灯さんは解放されるんだよ」
「解放されたとしてもきっと僕達に以前のような穏やかな暮らしを営むのは不可能になる。僕はいいですよ。只の巫女守である僕は。だけど、彼女は違う。儀式の当事者だ。きっと、おもしろおかしく騒がれるでしょう。ご両親と一緒にね。それが、解放ですか? 違うでしょう?」
通は、怒りに震えながら叫ぶと彼を睨みつける。そして、笑った。
「あなたは、僕を守りたいんじゃない。学会で論文発表を行うことで注目を浴び、教授になりたいだけだ。姉さんから、聞きました。ずっと共同研究を行ってきたのに、相手の研究者に全ての成果を持っていかれたって。そして、相手は功績を認められて教授になった」
「それは、本当なのか?」
通の言葉に私は驚き、思わず広田氏に目を向ける。すると、先ほどまでの穏やかな笑みが消え、一切の感情を排した能面の様な顔に変化していた。
「ひどいな。私は君の為を思って行動していたのに」
「最初は、そうでしたよ。僕の話を聞いて色々と調べてくれた。何とか儀式を回避することは出来ないだろうかって。だけど、その事があってから変わってしまったと姉さんも言ってました。僕も同じ事を感じてます、最近のあなたは変わってしまった。以前のあなたは純粋に研究が好きで、研究者として輝かしい功績を得たいとは思わない、そんな物は、自然とついてくるもの何だって言ってましたよね。それなのに…………」
「そんな事は、きれい事だと身を持って知ったからね。数年かけて研究してきたものが無に帰った気持ちなど、私にしか分からないさ。それに儀式の発表は、私の利益だけではなく、君にも相応の成果が出ることじゃないか。それに、全てにおいて何かしらの犠牲はつきものだよ」




