第90話:回想・10
「それで、何があった」
「私こそ、お聞きしたいです。あなたは、彼に一体何を吹き込んでいたんですか?」
私は、父を問い詰めながら部屋の隅で、顔面蒼白のまま震え続ける通に視線をやる。すると、それを見ていた父は得心がいったようで、にやりと笑った。
「別に巫女守としての務めを果たせと言っておいただけだ。巫女守は、巫女だけではなく村を守る役目だと、昔から教えてきたからな。奴は、その務めを真っ当しただけだ」
「だからと言って、人を殺めさせるなどあってはならぬことです。あなたには、道徳といものがないのですか?」
「道徳? そんなものを守ったところでこの村は守れん。では、聞くがお前こそ、あの男を説得しに行ったのでは、ないのか?」
「…………」
「ふん、出来なかったのだろう。偉そうに私に説教する前に己の不甲斐なさが、この結果を生んだことを自覚しろ!」
何も言い返せなかった。確かに私は、失敗したのだから。
村を出て、私達が向かったのは、通の通う大学だった。
「車は、ここに。ここは、学生の駐車スペースなのであまり警備の目がないので」
「それで、広田氏はどこに?」
「大学の端にある民族学ゼミのゼミ室にいるそうです」
そう言って、通が指さしたのは、他の校舎と比べるとかなり古い木造の建物だった。その周りには、木々がうっそうと生い茂っている。
そのせいか辺りは、暗くとても静かだった。
「さぁ、行きましょう」
「あぁ」
車を降りると私達は、通の先導でその建物へと向かった。




