第8話:手紙の主は?
とりあえず美智は、功の家へと向かった。
その道すがら、周囲を見回すと田んぼには青々とした稲がよく育っている。
この村の米は、収穫量はそれほどないが山の清流のおかげでとても美味しく、市内ではプレミアがついていると聞いた。 だから、取材先のレストランなどの人達にすごくうらやましがられてしまって、びっくりした経験がある。
なのでこの村の産業としては十分なりたっているので、先程聞いたダムの話は意外だった。
何が意外かというと賛成派がいたことだ。
進学などで市内に出る人達も多いが、結局みんな村に帰って来ていたから。
この村の暮らしに不満がある人達が少なからずいた、というよりも今もいるのだ。
もしかしたら、その件も美花の死に関係があるのだろうか。
美智は地蔵堂の前に来ると手を合わせた。これは昔からの習慣である。
(お地蔵様、どうか私達に真実を教えて下さい)
地蔵堂を通り過ぎ、功の家の前に立つ。
功の家に来るのも久しぶりだと思う。お互い、あの事件の後は会うとしても市内だった。
「こんにちはー」
美智は、玄関の戸を開け大きな声で呼びかけた。すると、奥から功の母親が出て来た。
「あら、みっちゃん。どうしたの?」
「休暇でしばらくこっちにいるの。功は? 帰って来てるって聞いたけど」
「ああ、裏の倉で何かやってるわ」
「倉ね。分った、行ってみる」
美智は、庭を通って裏手にある倉へと向かった。
功の家は古くからある豪農の家で裏庭に倉があり、その倉を自分の根城にしていた。
――――ドンドン。
美智は、遠慮なしに扉を叩く。すると、奥から人が出てくる気配がした。
ギーッという音がして扉が開くと、そこには功の姿があった。
「よっ! 美智。やっぱり来ちゃったか」
「来ちゃったかじゃないわよ。いったいあの手紙は何?」
「まぁ、中に入れよ」
功は、そう言うと美智を中に入るように促した。
一歩、倉の中に入るとそこは倉というより書庫と呼ぶのに相応しい部屋に変化していた。部屋の壁一面には書棚があり、その上棚に収めきれない書物が床に積まれている。
「あんた、倉の中の物どうしたわけ? すっかり、自分の書庫じゃない」
「あー、気付いたら無くなってた。処分したんじゃねぇの」
「ふーん」
「まぁ、座れよ。早速だがあの手紙のことだけど」
「何?」
「あれと似たような手紙が俺の所に届いたのが2週間前。ちょうど、水のサンプルの採取に帰ってくるのが決まったころだ」
「届いた? じゃあ、功はことの真相を知っているわけじゃないのね」
「ああ。つまり、送り主は俺に暴けって言ってるんだ」
正直、気が抜けてしまった。確かに、功だって美花の死を受け入れてたわけで。でも、だとしたらその手紙の送り主は何をさせたいのだろう?
「………………でも調べるつもりなんでしょ?」
美智の言葉に功はどこか複雑そうな笑みを浮かべて答えてくれた。
「一応な。もし、本当に事故ではない事件だという事実があるのだとしたらそれを明らかにするのがアイツへの供養にもなる。それに、次へ進める気がした、それだけだ」
次へ進めるためか、確かにあの事件以来、私達の時は一部分だけ止まってしまったかのようだ。
「なら、わたしも手伝う」
「言うと思ったぜ。まぁ、お前と明の為にもその方がいいだろうしな」
「………………明は関係ないよ。美花の為だよ」
「そういうことにしてやるよ」
功の言葉に美智はどこか釈然としなかったが、反論するのは止めた。
「あ、そうだ。明日、私の家で飲みするから来てよ」
「飲み?」
「そう、明と夏美と一緒に。あの二人、縁談について相談出来ないっていうから」
「いいんじゃん。じゃあ、七時頃、行くよ」
「うん。ねぇ、十年前にダム建設の話が上がったの知ってた?」
「ダム? …………ああ、親父達が言ってた気がする。それがどうかしたか?」
「十年前に村で何が起こってたか、それを調べれば何か分るかなって思って」
「さすが、記者さん。目の付けどころはいいんじゃん?」
「茶化さないで! 功は、何か調べてるの?」
「俺は、この村特有の文化や伝承がからんでる気がするんだよ、何となく。学生の頃にちょっと気になる話をいくつか聞いたことがあるんだ。だから、今、資料の山と格闘中」
「そっか。分ったら何か教えてよ」
「ああ。でも俺の話は何かやばい匂いがするんだよ。だから言っておく、あんまり不用意にこの村に来た理由は話すな。いいな?」
「うん、分った」
私達はこの時から予感していたのかもしれない、この村に巣食う闇とその罪の重さを。




