第88話:回想・8
私達は、黒いバンに乗り込み、村を後にした。
下から上まで黒ずくめの服装に、まるで犯罪者になったかのような気分になってくる。もちろん、実際にそんな事をするつもりはないが。
「通君、君は広田氏を知っているのかい?」
「従姉妹の夫です」
通は、視線を足元に落としたまま答えた。私は、自分から彼等の関係を聞いておきながら何と答えを返せばいいのか分からず、黙りこんでしまう。
すると、通はポツリポツリとだが語り始めたのだ、今回の経緯を。
まず、驚いたのが彼が幼い頃から儀式の内容を知っていたこと。その上で、灯お嬢さんの巫女守として傍に居たことだ。
彼より年長者である我々でさえ儀式について知らされたのは、最近なのにそれを幼い頃から教えられ生きてきただなんて、何て重く、悲しい人生だろう。
特にあの妄執とも取れる父と前当主殿の思いを受け止めるのは、並大抵のことではない。
「大丈夫。広田氏だってきっと分かってくれるさ。それに、儀式はきっと行われない」
「………………そうなればいいです」
励ましを込めて明るく言う私を見て、彼は小さく呟き、そして笑った。
「巫女守の役目は、重いけど心のどこかで仕方ないことだと思って生きてきました。だけど、村の外に出て見て思ったんです。誰かがこの負の連鎖を止めなければいけないんだって」
「私の母も自分の代で終わらせると言っている」
「正直、今回の広田さんの行動は、僕にとっても大きな誤算なんです」
「誤算? 彼は君のことが心配だから動いたんだろう?」
広田氏と通の関係を聞きそう思っていたのだが、何か違うのだろうか。
「もちろん、そうです。その心は感謝します。だけど…………」
「だけど?」
「変な例えになってしまいますけど、例えば村を病人だとして、彼の今回の行動を何にでもきく特効薬とします。けど、治療だからとただ薬を投与すればいいという訳ではない。どんな病気もそれにあった治療法があるのに、いきなり薬を投与する。その結果、患者は死んでしまう。それは、最悪なパターンです」
「つまり、彼の行動はその最悪のパターンだと?」
「そうです。僕だって村で生きてきた人間です。村を大切に思っていますし、それに大半の村人は儀式について知らないんです。それなのに、儀式について公表したらどうなります? きっとマスコミが押し寄せて、あることないことを書きたてるでしょう。そんな事になれば、こんな小さな村は、お終いなんですよ。それにまだ儀式までには時間があります。だから、それまでに賛同者を集めて、きちんとした形で終わらせるべきなんです」
通がそこまできちんと考えていただなんて知らなかった。きっと、その思いを広田氏は知らないのだろう。
「通。きちんと君の思いを彼に伝えなさい。そうすれば、きっと分かってくれる。私達だって一緒に説得する。なぁ?」
私の言葉にそれまで黙って話を聞いていた男達は、大きく頷いた。その反応に何か決意したように通は、顔を上げしっかりとした声で返事をした。
「はい」




