第87話:回想・7
「……………はっ? それはどういう意味ですか?」
ある晩の事。
母と妻が留守の夜の出来事だった。
突然、夜中に私と数人の男達が、禁足地の社務所に呼び出された。そこで、父から告げられた一言が理解出来ずに問い返す。
「あの男を始末しろ」
「あの男?」
「広田とかいう助教授だ」
始末する?
本気なのかこの人は…………。
いつもと変わらない淡々とした口調の父を見て愕然とする。まるで物か何かを処分するとのと同じように、人を始末しろと言う。
周りを見渡すと私と同じように男達も途方にくれている。
それは、そうだろう。自分達に人殺しをしろと言っているのだから。
「何故そんな事を? 人殺しなど出来るはずもないでしょう」
「黙れ!! 何も分らぬ者が偉そうに! 神主である私の言葉に逆らうなど百年早い」
そう言って父は、呼び出した他の男達を睨みつける。そのするどい眼光に男達は、黙り込み視線を床に向けた。
「ですから、理由は? 我らに人を殺めろと言うからには、理由を教えて下さい」
この場で父に対抗出来るのは、私だけ。他の者達には、父に異を唱えるなど不可能だ。私は背筋を正すと正面から父を見据えた。
しばらく無言の睨み合いが続くと、先に引いたのは父だった。
「あの男は、儀式について学会で公開すると言ってきた。そして、もう儀式など馬鹿なことは止めろとな。何も知らない余所者が、軽々しく口を出しよって」
「でしたら、学会で発表しないように説得すればいいだけの事でしょう。それに儀式の事ですが…………」
「儀式は止めぬ。あれを止めたらこの村には災厄が訪れる。この小さな村がここまで生き延びてきたのは、儀式あっての事だ」
後半、私の言葉を遮るように父は、言った。
その頑なな様子に、儀式についての事は後回しにしようと私は決めた。
「では、我々で広田氏を説得してきます。それで良いですね?」
「ふん、お前達の声に耳を貸すとは到底思わないがな。通」
「え?」
父に呼ばれ現れたのは、川辺 通だった。一体、何故彼がこんな場所にいるのだろうか。
「通がお前たちを手引きする。いいか、通。お前が一番にすべき事を分かっているな?」
「…………はい」
父の言葉に俯きながら通は、返事をした。その姿に、今回の事が本意ではないというのが、すぐに見て取れた。
しかし、私は彼に対して何と声をかければいいのか分からなかった。




