第83話:回想・3
神主さん視点話のタイトルを回想に変更します。
「ちょっと、美苑に届け物を頼むよ」
「届け物?」
「あぁ、これを頼む」
差し出されたのは、この間貰ったお菓子と一通の封筒。
(手紙?)
「私らだけじゃ、食べきれないからね。美智達ならあっという間だろう」
「そうだね」
荷物を手に取り、美苑さん宅へと向かう。美苑さんというのは、母の友人で村に伝わる神楽の名手である。
彼女には、孫が二人いるのでどちらかが後を継ぐのだと思う。
田圃を横目に歩いていると、前方から元気な声が聞こえてきた。
「早く!早く!」
「待ってよ、美智」
その声の持ち主達を見て、つい笑みが零れる。走ってくるのは、美苑さん家の双子達だった。
「やぁ、どうしたんだい。そんなに急いで」
「あっ、おじさん。こんにちは!」
「…………こんにちは」
元気良く挨拶してきたのは、姉の美智。後から恥ずかしそうに挨拶したきたのは、妹の美花。我が村、唯一の双子姉妹。一卵性らしいが、その個性で見分けるのは簡単だ。
「あのね、夏美のところに先生がいるの」
(先生? あぁ、あの大学の…………)
「…………色んなお話してくれるの」
「今日も功達と一緒に聞かせてもらうんだ!」
「そっか、遅くならないようにね」
「「はーい」」
元気に返事をして、二人はまた駈け出して行った。
「おじさーん!」
しばらくすると後ろから大きな声が聞こえてくる。その声に振り向くと美智がまた私の元へと駈け戻って来る。
「どうしたんだい?」
「言い忘れてた。赤ちゃん、生まれるんでしょ? おめでとう!!」
「ありがとう。生まれたら仲良くしてくれると嬉しいな」
「もちろん! じゃあねー」
それだけ言うと美智は、美花の元へと戻って行った。
二人が手を繋いで走って行くのを見送った後、美智のお祝に胸が温かくなった私は、足取り軽く美智達の家へと向かった。それにしても、話が伝わるのが早いなと思わず苦笑したが。
「ごめんください。美苑さん、いますか?」
玄関の戸を開け、声をかけると奥から女性の声が響いてくる。その声の主は、美智達の母親だ。
「あら、神崎さん。どうかしましたか?」
「美苑さんに届け物なんですが」
「あぁ、お義母さんなら庭にいますわ」
「じゃあ、庭の方に回ってみます」
「えぇ。あっ、そうだ。おめでとうございます」
「ありがとうございます。それにしても早いなぁ…………」
私の戸惑いに気づいたのか、美智達の母親は笑っている。
「仕方ありませんよ。それにお祝い事程、話が伝わるのは早いものですわ。奥様に、何かあったら遠慮なく仰ってくださいとお伝えください」
「それは、心強い。ありがとうございます。では」
会釈をして外へ出ると玄関の脇の小道から庭へと向かう。庭へと入るとすぐに美苑さんを発見する。どうやら、花壇に咲く花を花鋏で切っているようだ。
「美苑さん!」
「おや、どうしたんだい?」
「母からの使いでやって来ました」
花と花鋏を縁側に置くと美苑さんは、こちらへとやって来た。
「何だい、もったいぶって」
「さぁ、私もよく分からないのですが、この手紙とお菓子を届けるようにと」
手紙を受け取った美苑さんは、中身を取り出し、その場で読み始める。すると、読み進める内にその顔をほんの少し歪ませる。
そんな顔を今まで一度も見たことが無い私は、得体のしれない不安に駆られた。
「分かった、明日の夜に伺うと伝えておいておくれ。…………引いてくれればいいんだが」
「美苑さん?」
「あぁ、何でもないさ。そうだ、子供が生まれるんだってねぇ。ぜひ、私に取り上げさせておくれ」
「もちろん、お願いします」
話をそらすかのような口振りに少し違和感を覚えつつも、言伝を伝えるべく私は、その場を後にした。
一体、この村に何が起きているのか。この時点で、私には何も分からなかった。




