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蛍籠  作者:
84/119

第83話:回想・3

神主さん視点話のタイトルを回想に変更します。

 「ちょっと、美苑に届け物を頼むよ」

 「届け物?」

 「あぁ、これを頼む」


 差し出されたのは、この間貰ったお菓子と一通の封筒。


 (手紙?)


 「私らだけじゃ、食べきれないからね。美智達ならあっという間だろう」

 「そうだね」


 荷物を手に取り、美苑さん宅へと向かう。美苑さんというのは、母の友人で村に伝わる神楽の名手である。

 彼女には、孫が二人いるのでどちらかが後を継ぐのだと思う。

 田圃を横目に歩いていると、前方から元気な声が聞こえてきた。


 「早く!早く!」

 「待ってよ、美智」


 その声の持ち主達を見て、つい笑みが零れる。走ってくるのは、美苑さん家の双子達だった。


 「やぁ、どうしたんだい。そんなに急いで」

 「あっ、おじさん。こんにちは!」

 「…………こんにちは」


 元気良く挨拶してきたのは、姉の美智。後から恥ずかしそうに挨拶したきたのは、妹の美花。我が村、唯一の双子姉妹。一卵性らしいが、その個性で見分けるのは簡単だ。


 「あのね、夏美のところに先生がいるの」


 (先生? あぁ、あの大学の…………)


 「…………色んなお話してくれるの」

 「今日も功達と一緒に聞かせてもらうんだ!」

 「そっか、遅くならないようにね」

 「「はーい」」


 元気に返事をして、二人はまた駈け出して行った。


 「おじさーん!」


 しばらくすると後ろから大きな声が聞こえてくる。その声に振り向くと美智がまた私の元へと駈け戻って来る。


 「どうしたんだい?」

 「言い忘れてた。赤ちゃん、生まれるんでしょ? おめでとう!!」

 「ありがとう。生まれたら仲良くしてくれると嬉しいな」

 「もちろん! じゃあねー」


 それだけ言うと美智は、美花の元へと戻って行った。

 二人が手を繋いで走って行くのを見送った後、美智のお祝に胸が温かくなった私は、足取り軽く美智達の家へと向かった。それにしても、話が伝わるのが早いなと思わず苦笑したが。

 

 「ごめんください。美苑さん、いますか?」


 玄関の戸を開け、声をかけると奥から女性の声が響いてくる。その声の主は、美智達の母親だ。


 「あら、神崎さん。どうかしましたか?」

 「美苑さんに届け物なんですが」

 「あぁ、お義母さんなら庭にいますわ」

 「じゃあ、庭の方に回ってみます」

 「えぇ。あっ、そうだ。おめでとうございます」

 「ありがとうございます。それにしても早いなぁ…………」


 私の戸惑いに気づいたのか、美智達の母親は笑っている。


 「仕方ありませんよ。それにお祝い事程、話が伝わるのは早いものですわ。奥様に、何かあったら遠慮なく仰ってくださいとお伝えください」

 「それは、心強い。ありがとうございます。では」


 会釈をして外へ出ると玄関の脇の小道から庭へと向かう。庭へと入るとすぐに美苑さんを発見する。どうやら、花壇に咲く花を花鋏で切っているようだ。


 「美苑さん!」

 「おや、どうしたんだい?」

 「母からの使いでやって来ました」


 花と花鋏を縁側に置くと美苑さんは、こちらへとやって来た。


 「何だい、もったいぶって」

 「さぁ、私もよく分からないのですが、この手紙とお菓子を届けるようにと」


 手紙を受け取った美苑さんは、中身を取り出し、その場で読み始める。すると、読み進める内にその顔をほんの少し歪ませる。

 そんな顔を今まで一度も見たことが無い私は、得体のしれない不安に駆られた。


 「分かった、明日の夜に伺うと伝えておいておくれ。…………引いてくれればいいんだが」

 「美苑さん?」

 「あぁ、何でもないさ。そうだ、子供が生まれるんだってねぇ。ぜひ、私に取り上げさせておくれ」

 「もちろん、お願いします」


 話をそらすかのような口振りに少し違和感を覚えつつも、言伝を伝えるべく私は、その場を後にした。

 

 一体、この村に何が起きているのか。この時点で、私には何も分からなかった。

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