第81話:回想・1
『いつの頃からだろう。自分の人生は、決して恵まれたものではなく、暗い闇の底に堕ちるものなのだと悟ったのは』
私は、小さな山間の村の神社の息子として生を受けた。神社に生まれたから、どうしたということはなく、極普通の生活を送っていた。
家長制度が色濃く残っていた時代、そのせいか神主である父はとても厳しかった。でも、母はその分優しかったので釣り合いは取れていたと思う。
そして村の人々が、両親を尊敬しているのは、子供心にもすぐ分かった。村の名家である、深見家の当主と対等に渡り合う姿は、私の憧れだった。
その憧れた存在でいてくれれば、どんなに良かっただろう。いや、何故気付かなかったのか。村人が向ける両親への視線は、尊敬ではなく畏怖だったという事に。
大学に進学し、神職の資格を取った後、親の決めた相手と見合いをして結婚。同じく、神社の家の娘の妻は、控えめで優しい人だった。
悩みは、子供がなかなか出来ない事。
妻が気にしているのは、知っていたが、私はあまり気にしていなかった。こればかりは、神様からの授かりものだからだ。
特に自分達と同じ頃に結婚した、美苑さんの息子さんに双子の女の子が生まれた話を両親から聞かされ時はかなり落ち込んでいた。そんな妻に「しばらくは、二人でゆっくり過ごそう」と言ったら驚いた顔をされた。でもすぐに、嬉しそうに笑ってくれた。
この辺りから、父の様子がおかしい事に気がついた。
ひどく難しい顔をしていたかと思うと、私達に怒鳴り散らす。
母は、もう年だから気難しくなっただけだと笑っていたが、本当にそれだけなのかと不安になった。
もし、この時に父と真正面からぶつかっていれば、何か変わっていたのだろうか?
しばらく、神主さんの回想話が続きます。
彼等だって普通の人間だったという事を書けれればと思います。




