第80話:軟化
「さて、私は明日警察に行くつもりだ」
「お義母様!」
「母さん!」
突然の宣言に神主夫妻は、声を荒げる。そんな二人を見て、首を振るとそのまま広田の前へと進む。
「済まないことをした。村の者の暴走を止められず、あんたの大事な家族を奪ってしまった。謝ってすむことではないが、本当に済まない」
そして深々とお辞儀をした。そんなおばばの姿を見ていた神主は、何かを決意したように、ゆっくりとその隣へと立つ。
その神主の顔は、穏やかで何か憑きものが落ちたような感じだった。そして、母親と同じように深く頭を下げる。
「申し訳ないことをした。あの日、何が起こったかを全て話そうと思う。警察に行く前に」
そんな二人を見た広田の反応はというと、無表情で何を考えているかは、美智達にも分からない。
そんな広田の代わりに反応したのは、やはり彼女だった。
「あなた!!」
「我々は、彼に全ての事を話す義務がある。そして、彼女達にも。…………母さんが言うようにもう止めるんだ。儀式も何もかも。それに何より、お前のそんな姿を見ているのは、もうつらいんだ」
自分の夫の言葉に、妻はその場に崩れ落ちた。
その様子を見ていた美智は、もしかしたら彼女もまたこの儀式の被害者の一人なのかもしれないと思った。
最初から、彼女もこうでは無かったはずだ。この神社に嫁いできて変わらざるをえなかったのだろう。
「お願いします。母はずっと待っているんです、父の帰りを。だから、父を連れて帰る前に真実を教えて下さい」
小さく、かすれた声でそれだけ言うと広田は、沈黙した。
それを合図と取った神主は、ポツリ、ポツリと話しだした。あの日の出来事を。




