第7話:ダム
美智は、明から見えない所まで来ると一目散に駆け出した。
そしておばばの家までたどり着くと立ち止まり、息を整える。
後ろを振り返ると誰もいない。
(よかった)
美智は、額から流れ出る汗を手で拭うと先ほどと同じ縁側へと向かう。と、そこには縁側に腰掛けてぼんやりと庭を眺めるおばばの姿があった。
「ただいま、おばば。何か飲み物くれる? 走ったら喉、渇いちゃって」
「何だい、走ってきたのかい。ちょっと待ってな」
美智は、縁側に腰をおろすと深く溜息をついた。
「はい。冷たいほうがいいだろう?」
「ありがとう」
ゴクゴクと渡された麦茶を飲み干すと一息ついた感じがした。
「あー、おいしい。やっぱり、走った後は、冷たい麦茶だね」
美智が無理にはしゃいでいるように見えたのであろう。おばばは、にやりと何か含んだような笑みを浮かべて言った。
「明にでも会ったかい?」
「なっ………………」
誤魔化そうにも口篭もってしまい誤魔化しきれないと悟った美智は正直に言った。
「会ったよ。山の中で」
「そうかい」
「私、昔みたく出来たかな?」
「さぁね。でも、努力はしたんだろう?」
「した。昔みたいな関係に戻りたいって思うのは本心だし」
「なら、そのうち元に戻るさ」
「うん」
おばばに愚痴を漏らしたら、自然と心が軽くなった。そうだ、何をくよくよしてたんだろう。こんなジメジメした私を見たら美花に笑われちゃうじゃない。
「あっ、おばば。聞いていい?」
「何だい?」
「十年前さ、何かやたらめったら、集会があったけど何で?」
「知らんかったのかい! あんなに村中大騒ぎしてただろう?」
「でも、あの頃は部活一直線で難しいことには興味なかったから」
美智のあっけらかんとした答えにおばばは本気で心配になる。
(こりゃあ、同僚は大変だろうに)
「あの頃は、ダム建設の話が持ち上がってね。賛成派と反対派で割れて大騒ぎになってたんだよ」
「ダム建設?」
「そう、もし本決まりになったらこの村は無くなっていたさ」
「そんなことがあったんだ。知らなかったな」
「それにしてもどうしたんだい、急に」
「うーん、昔のことを思い出してたら気になって。じゃあ、ごちそうさま」
美智は立ち上がりおばばに別れをつげ庵を後にした。
そして、何か思いついたのか携帯を取り出し電話をかける。
「あ、もしもし。編集長ですか?」
「おお、無事についたんだってな。どうだ?」
「うーん、平和でのん気な雰囲気ですよ。功にはまだ会ってないんですけど」
「そうなのか? で、俺に直でかけてくるってことは何かあんのか?」
「ちょっと、調べてもらいたいことがあるんです。編集長は、前に新聞社にいたんですよね?」
「ああ、そうだ。」
「十年前にこの村でダム建設の話が持ち上がっていたそうなんですけど、詳しく調べてもらえますか?」
「何か関係あるのかお前の妹さんの事件に」
「直では関係ない気もするんですけど、十年前をキーワードに色々調べてみようと思って」
「分った。調べてお前のパソコンにデータ転送しておく」
「お願いします」
美智は、電話を切ると大きく背伸びをした。これも美智のくせで、何か考えにつまるとよくする仕草の一つなのである。
「さて、後できることは、功を捕まえて締め上げることかな」
美智は、そう決意すると功の家へと向かって行った。




