第69話:それぞれの覚悟
「おばば」
「…………すまないね、美智。儀式は、行わなければならないんだよ」
「当然ですわ、お義母様。儀式がいかに神聖で大切なものかを私と主人に説いてきたのは、あなたと今は亡きお義父様ですもの」
「………………………私が説いたのは表の儀式の方だがね」
美智の前に並んで立っている二人の様子は、まるで対称的だ。
美智に詫びるおばばの顔は、青ざめているが、その逆に神主の妻の頬は、興奮から紅潮し、その目は、ぎらぎらと不気味に輝いている。
その視線の対象は、自分とおばばだ。
(まるで、別人みたい。さっきまでは、人形みたいだったけど、今は人間に見える)
そんな嫁の姿を悲しそうに見つめていたおばばだったが、やがて絞り出すように言った。
「美智は、私が連れて行く。お前は上で待っていなさい」
「分かりました。夜明け前には終わらせなければいけないので、お早くお願いします」
そう言うと神主の妻は、そそくさとその場を去って行く。そして、その姿と気配が完全にこの場から遠ざかったのを確認したおばばは、美智に向きなおる。
「さて、大丈夫だったかい? 怪我はしてないかい?」
「うん、大丈夫。それにしても何でおばばが?」
「私だけじゃない、功達も来ているよ。さっき、川辺が見つけて逃げ出す段取りをつけた」
「うわ、無茶するなぁ」
「功達が美智だけを危険にさらすわけないだろう?」
その言葉に美智の胸に温かい何かが灯る。
「うん、さすがに一人じゃ無理だわ」
「私では、息子と嫁を止めることは出来なかった。だが、絶対逃がしてやるから」
「うん。私も頑張るよ。こんな馬鹿げたこと絶対に終わらせてやる」
「ああ。じゃあ、行こうか」




