第61話:女達
「腕を上げてちょうだい」
「こんな事をして何になるんですか?」
「………………」
禊が済んだ後、連れてこられた一室で美智は、神楽の衣装を着付けられていた。着付けるのは、神主の妻と神楽に関わる家の女達。年代は、神主達と同じ40代後半から50代だと思う。
皆、必要最低限の事しか話さず、美智が話しかけても口を閉ざしている。その上、神主の妻以外は、美智と視線を合わそうとはしない。無理やり合わせてもすぐにはずす。多分、首謀者である神主の妻以外は、儀式を行うことに迷いがあるのだろう。
(迷うくらいならこんな事に加担するなっての。まぁ、ほとんどが村で育った人間だから無理ないのかもしれないけど)
美智は、部屋にいる女達を見渡して小さく嘆息をつく。
この部屋は、神楽を行う舞台に近いらしく、部屋の外で準備に追われる人間の声や物音が響いてくる。
そのせいか隙が見当たらない。
予想に反して関わっている人間の数が多すぎる。儀式の前に少しくらい抜け出す隙があると楽観視していた部分もあったのでだんだんと焦りが出てくる。
「あなた達は、こんな馬鹿げたことを実行することに何とも思ってないんですか?」
自分の苛立ちをぶつけるように美智は、半ば喧嘩腰で神主の妻に問いかけた。
「馬鹿げてなどいないわ。これは、村に伝わる神事。村が繁栄するには必要不可欠なことよ。あなただって神楽を伝える家の生まれなのだから分かるでしょう?」
「そんなもの分かりませんね。科学も発展してない昔ならいざ知らず、今の世の中でこんなことを言う人間達がいることのほうがどうかしてますよ」
「…………なげかわしい」
「は? なげかわしい? あなた方は、自分達に関係ないことだからそんなことが言えるんですよ。自分が生贄の家系の人間ならそんなこと言えないし、言わないと思いますよ」
「村の繁栄の為に命を捧げ、皆を助ける崇高な使命を持った選ばれた人間になれるのです。もし、私なら喜んで捧げますよ」
真顔で答える女の言葉に美智は、背筋が寒くなる。
(本気なのこの人…………。本当に恐ろしいわ、教育って。教育より洗脳って言ったほうが正しい気もするけれど)
「これで終わりです。後は本番前に打ちかけを着せます。準備が整うまでここで待っていなさい。あぁ、逃げ出そうとしても無駄ですからね」
そう言うと女達は、部屋から出て行った。
一人部屋に取り残された美智は、部屋にあるありとあらゆる窓を調べて行くが、全て外側に格子が取り付けられており外に出るのは不可能だ。
「さて、どうするか……」
部屋に用意されていた丸椅子に腰を下ろし、考えを巡らせる。
やはり、本番中に逃げだすしかない。それには、川辺の協力が必要なのだが、とにかく話してみないことには何も始まらない。
美智は、焦燥感にかられながらも待つことにした。
きっと川辺は来るから。
灯が川辺を信じたように、自分も恩師を信じなければいけない。
だから、待とう。
そう強く美智は思った。




