第59話:禊
「まずは身を清めてもらいます。外にいるので終わったら出てらっしゃい」
そう言って神主の妻は、美智を湯殿に案内するとその場から去って行った。近くのかごを見ると中には白の長襦袢や足袋などが入っている。どうやら、これに着替えろということらしい。
「仕方無いか」
美智は、服を脱ぐと湯殿の中へと向かう。
手早く体を洗い、湯船につかる。
「はーーーっ。気持ちいいなー」
湯で体が温まると気持ちが落ち着くと共に思考能力も復活してきた。
ここを出ると多分、神楽用の衣装を着つけられることになり、それが終わると外にある舞台とやらで舞わされることになるだろう。
多分、一緒に舞うのは川辺先生だ。
逃げ出す隙が出来るとしたら舞の終盤、あそこしかない。
「あの事は、お婆ちゃんと私しか知らないから、チャンスだ」
きっと神主達は慌て混乱するにちがいない。
昔、神楽を習っている時は理解できなかったけれど、今ならば分かる。きっとこんな事態になることを祖母は憂慮していたのだ。
そのチャンスを物にする為にも先生と接触しないければいけない。はっきり言って今の状況を考えると先生が味方になってくれるかは賭けだ。それでも、美智は信じたいのだ。自分達を教師として熱心に指導してくれた先生を。
――――私は先生を信じる。
美智はそう強く決意すると、湯船から出た。
そして気合いを入れる為に桶に水を汲むと頭からその水をかけ、湯殿を後にしたのだった。
本当は水で清めなきゃいけないんですけど、
かわいそうなのでお湯にしときました。




