第58話:約束
「何で、何でこんなことするのよ! みっちゃんはあなたの教え子でしょう!!」
灯は、泣きながら川辺に訴える。灯の言葉は、川辺の痛い処をついたらしく顔を俯かせた。
「分かっている。美智は、助けるよ。必ず」
「…………本当に?」
嘘などついたら許さないと自分に懐疑の目を向けてくる恋人の顔を見て一瞬、悲しみに顔を歪ませた川辺だったが、すぐにいつもの顔に戻ると灯を安心させるように微笑む。
「絶対にだ。それにここに閉じ込められている時より、舞台の上でのほうが隙は出来るだろう。だから、君も今すぐここから逃げるんだ」
「私だけ逃げるなんて!」
「いくら僕でも二人いっぺんに連れて逃げるのは無理だ。ここに服や電灯を用意しておいた。闇にまぎれて禁足地を抜け出して屋敷に逃げてこの事をご両親に伝えるんだ。いいか、これはかなり危険なことだ。でも、出来るな? 美智を助けるためにも」
「…………分かったわ」
「ありがとう」
川辺は、灯を優しく、そして強く抱きしめた。まるでこれが最後の抱擁だと言わんばかりに。
「ここを出たら二人でやり直しましょう? 私、待ってるから」
このまま別れたらもう、川辺に会うことが出来ない気がしてならなかった。だからこそ、必死に約束をとりつけようと灯はせまる。
「…………そうだな。そうできたらいいな」
川辺は、細く震えた声で答えた。
「ありがとう」
自分が望む答えをくれた恋人の優しさに灯の瞳からは止めどなく涙が流れ続けた。




