第56話:疑問
窓から見える月明かり。いつもなら、その穏やかで優しい光に癒される。だけど、今の美智達にとっては、妖しく不気味な光に感じられた。
「窓から見える月の距離が変?」
天窓を睨みながら漏らした美智の呟きに灯が答えをくれた。
「この部屋は、半地下なの。元々あったあちらの部屋とこの建物の一階部分との間。だから、普通の建物の中から見るより距離があるように感じるんじゃないかしら」
「地下?」
確かに最初にいた場所は妙な閉塞感を感じたがそのせいだろうか。
「増築された部分は、あっちの部屋より高いところにあるから。何段か階段があったでしょ?」
そういえばこの部屋に入った時に数段昇った。
「ねぇ、ここってやっぱり禁足地なんだよね?」
「そうよ。あの山道の門の内側」
美智は、灯の横に腰を下ろすとこの現状を打破すべく情報を得ることにした。
「そもそも禁足地には何があるの?」
「禁足地にあるのは、儀式を行う泉と外にある神社と同じ建物。それから野外舞台」
「舞台っていうことは、神楽用?」
「儀式は、生贄の少女と巫女守があの神楽を舞うの。その舞が終わった後に少女は籠に乗せられて泉に沈められる」
神楽を舞う。それなら一度外に出て自由を得るチャンスがある。
決まり通りに儀式が運べばというあくまで仮定の話だけど。
問題は、その間に灯がどういう状態におかれるかだ。自分一人だけが逃げ出すなら何も考えずに突っ走るという手があるが二人だとそれは厳しいかもしれない。
再会してからの灯の様子を見ていて尚更そう思う。
ずっと閉じ込められていたせいか足の筋力が落ちているしそれ以上に体力がないことが懸念される。
「灯ちゃん、先生は灯ちゃんの味方なんだよね?」
「分からないの。最近、彼を信じていいのか分からなくなってきたから。教え子であるあなたをこんな目に合わせるなんて」
強く拳を握りしめた灯の姿は痛みに必死に耐えているようで見ていて痛々しかった。きっと、恋人への愛情と不信の間で心に迷いが生じているのだろう。
「事情が事情だからな。それに、不思議なんだよね。何でこの十年、灯ちゃんは無事だったんだろう?」
「それは美花ちゃんが……」
「でも美花が神楽を舞えないことってもっと前から知ってたんだよね?」
「ええ、美智ちゃん達がこの村を去った後しばらくしてから」
「じゃあ、その間は誰が灯ちゃんを守っていたんだろう?」
「父や母じゃないかしら?」
「そうかな? 正直、深見のおじさん、おばさんにはそんな力は無い気がする。だってそれなら美花の事件からして起こらないもの」
「じゃあ、誰が…………」
「私が思うにそれは先生じゃないかなって。おばばや村の老人達には負い目があるんだと思う。村の為とはいえ一人の青年の人生を狂わせたっていう。だから、先生には逆らえなかった。だって、先生が一声上げれば終わりでしょ?」
「そうなのかしら。そうだといいわ」
「うん。だから色々見極めなきゃいけない。誰が味方で誰が敵なのか」
「そうね」
美智の力強い声に励まされた灯は、涙を堪え笑った。
「で、話は戻るけどそもそも何で今なんだろう?」
だって、美花の件で一度終わりを告げたのだ。神楽を舞う少女という点は除いても一応生贄を出すという目標は達成されているのだから。
「それがよく分からないの。今日、いきなり美智ちゃんが連れて来られて儀式を行うことになったとしか聞かされてないのよ」
「ふーん、動かなきゃいけない何かが起こったんだ。それも極最近になって」




