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蛍籠  作者:
54/119

第53話:編集長

 三年前の春、一人の新人がこの小さなタウン誌を編集している小さな出版社に入社してきた。

 その日のことをよく覚えている。


 「田中 美智と申します。どうぞよろしくお願い致します」


 緊張した面持ちで編集長である俺に挨拶してくる女の子の顔と名前を聞いてすごく驚いた。

 数年前にまだ幼い彼女を幾度か見かけたからだ。

 彼女は持ち前の明るさとバイタリティでめきめきと頭角を現していき、その成長に合わせるように雑誌の売上も上がっていった。

 もちろん、彼女が加わって若い女性をターゲットにしたコーナーが充実したせいなのだが、ついうがった見方をしてしまう。


 ――――さすが龍神の加護を受ける舞姫と。


 俺は数年前まで地元の新聞社の社会部で記者をしていた。

 その頃、俺が追っていたのはある大臣のスキャンダル。宗教にはまり、多額の金をお布施として支払った上に、関係者に色々と便宜を図っているというものだった。

 その宗教の本部があるのが、山間にある小さな村・光泉村。

 村の表向きの収入源は、農業と観光。しかし、本当は信者からの多額のお布施がこの村を潤していた。

 この件を調べていた他の記者は軒並み姿を消していた。それでも、記者魂に火がつきひたすら調べ続けた。

 そんな中で同僚から、ある噂を耳にする。


 ――――ダム建設で村が揺れている。


 その話を聞くなり、すぐに村へと飛んだ。

 

 村に着くと確かに静かな村が揺れていた。

 同僚からの資料では村の長老達がダム建設を推し進めており、反対しているのは長老達の次世代の人間だった。

 この構図には正直驚いた。何故なら、自分が調べている宗教を牛耳っている婆さんまでも賛成派にいたからだ。


 閉鎖的な村だ、周りから攻めたところで話は聞けないと思い直接その婆さんに話を聞くことにした。

 神社へと続く山道の入り口付近にその庵はあった。


 「ごめんください」

 「はい、どちらさんだい?」

 「こういう者です」


 名刺を差し出すと、婆さんの目がほんの少しだけつりあがった。


 「記者さんね。こんな山奥の村に何のようだい?」

 「ある宗教についてお聞きしたい」

 「………記者さん、悪いことは言わない。このまま村を出ていくことだ。でなけりゃ、身の安全は保障出来ない。この婆からは手の離れた問題だからな」


 低いかすれた声でそれだけ言うと婆さんは、家の中へと戻って行った。


 (まぁ、聞かせてもらえるとは思ってなかったがな)


 収穫はあった。この村に確かに宗教は存在すること、それが分かっただけでもいいさ。


 その後、神楽の名手と名高い人物にもあったが、やんわりと遠回しに同じことを言われた。そして、村から帰った次の日、新聞社からリストラされた。

 他の記者達と同じように。

 それからニ年ぐらいしてダム建設の話は無くなった。


 それからは、友人の起こした出版社でタウン誌の編集長を任されて現在に至る。そして、神楽の名手であったあの婆さんの孫が入社してきた。因果は廻るというが、果たしてこの先どこに繋がっているのやら。

 

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