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蛍籠  作者:
53/119

第52話:広田 真 5

 美花の死から数年たって、真は市内の大学へと進学した。父が勤めていた大学で、さすがに同じ分野を専攻する気にはなれずに文学部へと進んだ。


 大学に入学してからは、慣れない生活や人間関係の変化に追いつくために美花のことを思い出すことは少なくなった。

 

 あっという間に、大学での日々は過ぎる。そして、今自分の前にあるのは卒業論文のテーマ決めという重要課題だ。

 最初は、無難なものにしようと思っていたが、教授からせっかくだから民話について調べてみてはどうだと進められしまった。

 そのせいか最近は美花のことばかり思いだしてしまう。


 今日の昼までがテーマ決めの締切日。結局、他にこれといったテーマが思いつかないままこの時を迎えてしまったのだ。

 真は、ゼミの研究室へと歩いていたがどんどん自分の足取りが重くなっているのを感じた。それでも、気が付くと研究室の扉の前に立っていた。


 (仕方無いか………。就活の問題も出てくるしさっさと決めないと)


 研究室の扉をノックしようとした瞬間だった。いきなり、扉が開き外へ出てきた人物とぶつかってしまう。


 「す、すみません」


 見るとぶつかったのは女性で、ぶつかった衝撃で荷物を落としてしまっている。

 真は、急いでその荷物を拾い女性へと手渡した。


 「こちらこそ、ごめんなさい。ありがとう」


 そう言って微笑んだ女性の顔を見た瞬間、あまりの衝撃に言葉を失ってしまう。


 (…………美花? まさかな、でも似ている)


 その女性は、真に会釈するとその場から去って行った。

 

 「どうした、広田? 大丈夫か?」

 「教授! 今の人は?」

 「ああ、卒業生だ。田中 美智といってタウン誌の編集をしている。キャンパス紹介の記事を書くための取材で寄ってくれたんだ」


 そう言って、一冊の雑誌を見せてくれた。学生の間でも人気があるタウン誌で、同級生の女子がスイーツ紹介の記事で騒いでたのを思い出す。


 「それで、広田。お前は、決めたのか?」

 「え?」

 「え? じゃないだろう。卒論のテーマだ」


 自分の言葉に沈黙してしまった真を見て、軽く息をつくと教授は語り出した。


 「親父さんのことは知ってる。酷だとも思う、でも親父さんは喜ぶと思うぞ」

 

 その言葉に真は背を押され決めた。


 「やります。そのテーマで」

 「そうか」


 真の決意に教授は破顔して喜んだ。

 

 結局、卒論を書く過程では答えは出なかった。それでも卒業してタウン誌の編集に携わりながら自分で調査し続けた。


 そして美花の事故当時の状況や光泉村についての話を集めていくうちに自分の中で確信が持てた頃、手紙を書くことにしたのだ。

 美花の彼氏だった、川中 功という人物に。


 真実を突き止める人物にもっともふさわしいと思った人に託したのだ。でも、まさか美智先輩まで巻き込むことになるということまで予測しなかったのは大きなミスだった。


 だからこそ、その夜に編集長に全てを話して協力を求めた。まさか、編集長まで同じようなことを調べていたとは思いもしなかったけれど。

広田の回想は終わりです。

次は編集長サイドの話を書こうと思います。

それが終わったら本筋に戻る予定。

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