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蛍籠  作者:
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第3話:名家

 診療所を出た美智と夏美は、沈黙を保ちながら清流荘へと歩いていた。

 やがて沈黙に耐えられなくなった美智は、思い切って聞いてみることにする。


 「……ねぇ、さっき聞いたけど明との縁談話、まじ?」


 その問いに夏美は、立ち止まり、うつむいてしまった。


 「……ちょっとより道しない?」


 美智は、夏美を誘い近くの河原の大岩に腰かけた。


 「始めは、親同士の他愛もない冗談だったの」


 夏美は、ポツポツと話し出した。


 きっかけは、花見の席でのこと。

 村の若者の婚姻率の低下がきっかけで寄り合いの人達が話し合っていたらしい。

 そこで村の名家である深見家の若様、明の結婚式を大々的に開き、他の若者達をうながそうということになった。 そこで相手は誰がいいかという話になる。

 そこで、幼なじみである夏美と何故か美智の名前があがったらしい。

 でも、美智は村を出てるし難しいだろうということになった。


 (内心ホッとした。ごめん、夏美)


 その結果、村で代々宿を営む清流荘のお嬢さんである夏美がいいということになった。

 でもあくまでもそれは、お酒の席での話。両家共に本気じゃなかった。


 でもこれがこのある意味閉鎖された社会であるこの村の恐ろしいところで、人から人へと話は伝わりついにはこの有り様。


 「噂が広まるにつれて、両親や深見のおじさんやおばさんまでこれはいい話かもって。明と話そうにもこの村で誰にも知られずにってわけにはいかないし。それに、深見の意向には逆らえない」


 そう、これが村の他の家なら酒の席での冗談ですんだのだ。相手が村一番の名家・深見家でなければ。


 『深見家』


 戦国時代から続く名家であり、ここら辺一帯の大地主。

 村のまとめ役を代々務める家でもあり、そのせいかこの村で深見の意向に逆らうことなど出来ない。この時代にそんな話があるかと村の外の人間は考えるだろう。でも、この四方を山に囲まれた閉鎖された村ではそれが当然なのだ。村で暮らしたければしたがうしかない。


 美智の家族がこの村を出て市内で暮らし始めたのもその深見家が原因だった。


 美花が亡くなった当時、美智達家族は事故死という警察の決定に納得がいかなかった。ちゃんと捜査をして欲しいと求めたけれど、無視された。その裏には村に変な噂や殺人者が村の人間にいるかもしれないという考えを植え付けたくなかった深見家が県警の上役に頼んで捜査を打ち切ってもらったという話がある。


 これは、母方の警察関係者から聞いた話だから真実だろう。

 そして、美智達は村を出たのだ。


 美花の一件以来、明とは会っていない。

 美智、美花、功、夏美、そして明。五人は、幼馴染でとても仲がよかった。

 元々、同い年の人間が近所に少なかったせいもある。だから、いつも一緒だった。


 だからよけいに気まずい、昔と同じ態度を取れるのかと。

 正直なところ自信がないのだ。

 美智は、ぐるぐると頭の中で回る自分の後ろめたさをごまかす為に、夏美に話しかけた。


 「あっ、そうだ! 夏美、功は帰って来てる?」

 「功? 確か、数日前に帰ってきているらしいけど、でも会ってない。何か、忙しそうなの」

 「ふぅん、そうなんだ。………………本気なの、あいつ」

 「何か言った?」

 「ううん、とりあえず帰ろうか」


 最後の呟きをごまかす為に、美智は夏美を促して歩き始めた。

 美智のおかしな態度に首を傾げる夏美をチラリと見ながら思う。


 (言わないほうがいい。夏美まで巻き込むことになる。だって、美花の死の真相を暴くということは、深見に立てつくということだから)

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