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蛍籠  作者:
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第2話:帰省と縁談話

 「もしもし、清流荘ですか? 田中と申しますが夏美さんいらっしゃいますか?」

 「あら、みっちゃん? 久しぶりね。夏美は仕事でいないんだけど」

 「そうですか。あの、今日から一週間くらいそちらに滞在したいんですけど、部屋は空いてますか?」

 「大丈夫よ。今はシーズンじゃないから。一人部屋でいいの?」

 「もちろん。車で行きますので。よろしくお願いします」

 「はいはい。お待ちしてますよ。運転気をつけてね」

 「はーい。じゃあ」


 美智は、電話を切ると荷物を手にアパートの部屋から駐車場へと向かう。

 清流荘というのは幼馴染の一人である山村 夏美やまむらなつみの両親が営む旅館である。村には、他に宿泊施設はなく、数組の滞在客しか宿泊できない規模である為、満室ではないかと内心ひやひやしていた。


 (夏美は仕事か……。まぁ、こんな事気軽には話せないし、適当にごまかすしかないか)


 美智は嘆息をつくと車に乗り込み、村へと向かった。


 『光泉村』、山間の小さな村でこれといって観光スポットがある村とは言えないのだが、山の中に流れる清流で蛍が見れるということで夏場は多少観光客が訪れる。

 過疎とまではいかないが年々人口が減っているものまた事実で、これには役場も頭を悩ませているらしい。


 実際、美智達家族のように出ていく場合もある。元々、この村の出身なのは父で母は結婚を機に村に住むことになったと言っていた。


 一応、数年前まで住んでいた家もあるにはあるのだが、美花の墓参りの時以外は戻らないので家中埃だらけで住めたものではない。

 なので、今回は清流荘に滞在することにしたのだ。


 美智は、渋滞に巻き込まれることなく無事に村へと着くことが出来た。そして、駐車場に車を止めると宿の入口へと向かう。


 「こんにちはー」


 宿の扉をスライドさせ中へと入る。そして待っていると夏美の母であるこの『清流荘』の女将が宿の奥から出てくる。


 「いらっしゃい。みっちゃん。早かったわねぇ」

 「運良く渋滞につかまらなかったから。あっ、これおみやげです」


 美智は、手に持っていた紙袋を渡した。


 「ここのクッキーすごくおいしいんですよ」

 「まぁ、そんなに気を使わないでちょうだいな」


 美智は、きょろきょろと辺りを見回すと女将に問い掛ける。


 「夏美は? 今日は診療所、お昼まででしょ?」


 そんな美智の疑問に女将は苦笑しながら答える。


 「この村の診療所で診療時間が守られることなんてないわよ。ここ最近、お年よりたちが押し寄せるらしいから」

 「ああ、昔から夏美はお年よりからアイドル扱いですからね。じゃあ、ちょっと迎えに行ってきます。あの、荷物を預かってもらえますか?」

 「はいはい。お部屋は蛍の間だから運んでおくわね」

 「ありがとうございます」


 美智は、小さいリュック以外の荷物を預けると診療所へと向かった。

 外に出ると空が赤く染まり始めている。


 (やっぱり、村はなごむなぁ)


 この村唯一の診療所は村の中心にある役場に隣接している。もう何代も続く診療所で先生とは昔からのお付き合いである。

 さすがに、この山奥にやってくるお医者さんはなかなかいないらしく、次は街の病院にいる先生の息子さんを呼び寄せようと村の老人会は動いているらしい。


 そんな村に去年、看護士となった夏美が戻って来た。老人達は狂喜乱舞したらしい。

 彼女はそんな老人達にちょっと困っているみたいだけど。


 あれこれ考えているうちに診療所へと着く。

 入口のドアを確認すると診療中という札が出ていて、中から話声が漏れ出ている。


 (やっぱり。いいかげん先生達も休ませないといけないでしょうに)


 「こんにちはー」


 声を掛けて中に入ると数人の老人達が座っていた。


 「あれー? みっちゃん。どうした?」

 「まぁまぁ、すっかり娘さんらしくなって」

 「ひどいなー、昔から娘さんです。それより、診療時間はもう終わりでしょ? 先生達だって休まなきゃもたないのよ」


 そん美智の言葉に老人達は、顔をみあわせ口々にそうだな、帰るかといいながら出ていった。

 老人達が出て行くと夏美と先生が診療室から出て来た。


 「おっ、さすが美智だなぁ。昔から美智のお説教に弱いからな、じいさん、ばあさんは。助かったよ」

 「もう、先生がちゃんと言わなきゃ駄目でしょうが」

 「久しぶりね、美智。元気にしてた?」

 「夏美こそ元気? 村に帰ってからのほうが仕事きついんじゃない?」

 「そんなことないわ。皆顔見知りばかりだし。でも急にどうしたの? 夏休みにはかなり早いんじゃない?」

 「あぁ、ここのところ休みが取れてなかったから。骨休みよ。んで、しばらく夏美のとこに泊まる予定」

 「そうなの? じゃあ、久しぶりに皆でゆっくり会いましょ。一昨日から功も帰省してるし」

 「そうね。明も呼んで飲む?」


 何気なく言った美智の言葉に、一瞬顔をこわばらせた夏美は、着替えてくるといい奥へと戻っていった。


 (何?)


 「先生? 何かあった?」


 先生は、少しばかり困った顔を浮かべ夏美に聞こえないように教えてくれた。


 「なっちゃんと明君の縁談があがっててどうも本決まりになりそうなんだ」

 「まじで? あの二人が?」


 思いがけない事に美智は、呆然としてしまう。


 (あの二人が結婚?…………嘘でしょ)


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