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蛍籠  作者:
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第1話:きっかけの手紙

 その手紙が届いたのは、記事の締め切りが明け、ホッと息をついた午後のことだ。

 美智は、珈琲を飲みながら次の企画をどうするか考えていた。そこへ、今春入社した後輩の広田が美智宛の郵便物を持ってきたのである。


 「美智先輩! 今日の郵便物です」

 「ありがと。そこに置いといて」


 美智は、机の右端の資料の山を指差した。すると、その瞬間、どさっと資料が崩れて雪崩を起こす。


 「あーあ。最悪」


 資料は、机だけでなく床にまでちらばり落ちてしまった。それを見ていた広田は、せっせと床に落ちた分を拾い出す。


 「先輩ー、机の上ちゃんと整理したほうがいいですよ」

 「あー、あとでね」


 美智は整理が苦手で資料やら原稿やらを適当に積み上げるのが癖だった。そして、限界まで積まれた頃にこうして雪崩が起きるのだ。


 (あーーー、いいかげん。片付けたほうがいいのに…………)


 広田は人事ながら心配になる。入社してから自分の教育係になった美智は、性格は姉御肌で自分の失敗をフォローしてくれるたよれる先輩なのだ。しかし、風の噂では整理べたが災いして恋人と長く続かないらしい。


 「…………広田ー? これ、何?」


 いくつかの仕事関係の手紙とダイレクトメール、それに混ざって一通の白い封筒があった。宛名は、田中 美智 様。しかし、裏を見てみると差出人の名前がない。


 「さぁ? でも、先輩宛ですよね? 一応、すかして見ましたけど変なものは入ってないみたいだし持ってきました」

 「あー、分った。ありがとう」


 とりあえず、この奇妙な手紙は後回しにし、他の郵便物をチェックすることにする。そして、そのまま仕事が立てこみ封を就業中に開けることはなかった。


 夜になり、会社には美智と広田そして編集長だけになっていた。

 そろそろ帰ろうかと思案し始めた頃、机の端の白い封筒が目に入った。


 (………………とりあえず開けてみるか)


 部屋の蛍光灯ですかしてみると確かに広田が言ったように怪しいものは入っていないようだ。便箋らしきものが入っているだけ。


 ――――シャキン。


 鋏で封を切り、中身を振りだしてみた。すると便箋が一枚ストンと落ちてくる。

 美智は覚悟を決め、手紙を広げる。そして内容を目で追い、最後の一行を目にした時思わず声が漏れてしまう。


 「嘘っ…………、何よこれ」


 手紙の主は、幼馴染の川中 功かわなかつとむだった。大学卒業後は、お互い年賀状などで時々挨拶する程度だ。その功からの突然の手紙だ。


 内容は、最初はたわいもない近況を伝えるもの。しかし、最後にこう書かれていた。


 『美花の死は事故じゃない。俺は村に帰り真実を暴く。もしもの時は、この手紙を警察へ』そう、手紙は結ばれていた。


 (どういうこと?? 美花は、事故死じゃないの?)


 「田中? どうした?」


 美智の突然の声に驚いたのか編集長と広田が近づいて来る。


 「いえ、別に!! 何でもないです」

 「何でもなくないだろ、その顔は」


 顔面を蒼白にする美智を見て、編集長は溜息をつく。広田もその横で、頷いている。


 「実は…………」


 美智は、手短に自分には妹がいたことと事故死したことを話す。そして、手紙を手渡した。


 「何だこりゃ? いたずらにしちゃたちが悪いしな…………」

 「この川中さんは実在するんですか?」


 広田は、疑問に思い尋ねる。


 「ええ、幼馴染よ。死んだ妹の彼氏だった」

 「先輩の住んでた村ってどこなんですか?」

 「光泉村よ。ここから車で三時間くらいの山の中」

 「光泉村ですか?」

 「知ってるの?」

 「ええ、卒論を書く時に調べました。僕、各地に伝わる民話とか調べてたんです。そのうちの一つの話がこの村だったんですよ…………」


 広田の言葉に、美智は昔の記憶を探る。確か、亡くなった祖母から話を聞いたことがある。村の蛍狩りの儀式に関してだったと思うが何せ昔のことなので思いだせない。


 「……………編集長。少し早いですが夏休み貰ってもいいですか?」

 「おいおい、まさかこの手紙を信じるのか?」

 「半分は。何か気になるんです」


 美智の真剣な表情に編集長は少し考え決断する。


 「分った。行ってこい。ただし、連絡を一日に3度よこすこと。俺か広田にだ」

 「はい。必ずします」

 

 翌日、美智はさっそく村へと向かうことにした。一抹の不安を胸にいだきながら。

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