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蛍籠  作者:
12/119

第11話:消えない痛み

 私は夢を見ていた。

 何故夢か分かったかというと鏡に映った自分の顔は、十年前の自分だったから。


 (また、この夢か)


 あの日、美智達は慌ただしく引っ越しの準備をしていた。


 「学校の物は詰めたでしょ。後は、衣類か」


 急に決まった引っ越し。

 理由は簡単だ。

 美花が死んでしばらくたった頃、母が病みはじめたのだ。心を。


 そして遂に先日、深見家に乗り込んだ。

 連絡を受けた私と父は、半狂乱で叫び暴れる母を止め、家に連れ帰った。


 その夜、父は再び一人で深見家を訪問し、土下座をして謝罪した。

 何で娘を亡くした両親が謝罪しなければいけないのか、美智は腹立たしかった。

 薬で眠る母の枕元で美智は、悔しさとやりきれなさで泣いた。


 その数日後、母方の祖父母が訪れ父に言った。


 「自分達の後を継いで一緒に暮らさないか?」と。


 母の一件で村中から好奇の目に曝されていた美智達にはありがたい申し出だった。

 そして翌日、学校に転校届を提出するとそのまま登校するのはやめた。


 ――――ピンポーン。


 考えにふけっていた美智は、突然鳴ったチャイムに我に返ると階下へと急いだ。


 「どちらさまですか?」

 「美智! 引っ越すってどういうこと?」

 「……明。別に家の都合よ。悪いけど、忙しいの。帰ってくれる?」


 美智は、感情を殺した顔で冷たくつき離す。

 そのままドアを閉めようとノブを引っ張ると、明はドアの隙間に手を入れ無理矢理開く。


 「ちょっと、危ないでしょう! 悪いけどあんたが怪我でもしたら何言われるか」

 「関係ないよ、僕が怪我したって。それより、何でだよ」

 「………それこそ関係ないでしょ。本当に帰ってよ」

 「家のせい? 両親が何かした?」

 「母の治療の為に祖父母の所に行くのよ。分かったら帰って」

 「叔母さん、どうかしたの? 皆、教えてくれないんだ」

 「知らないの? 明の家が美花の捜査を打ち切らせたの。………帰ってよ」


 寝耳に水の話だったのだろう、明の顔色が青くなり今度は怒りのあまり一気に赤く染まっていった。


 「あの人達は!! ごめん、美智。僕から余計な事をしないように頼んでみるから」

 「………………どうにかなると思うの?」

 「え?」

 「明が頼んだからってどうにかなると思う? なるわけないじゃない! 子供が騒ぎ立てたからってどうにかする人達なら最初からこんな酷いことしないじゃない」

 「美智」

 「帰ってよ。世間知らずのお坊ちゃんの相手なんてもうたくさん。さっさと帰れ!」


 美智が怒鳴り散らすと明は、ドアを離した。

 その時の明の顔は今でも忘れられない。自分は言ってはいけない言葉を吐いたのだ。あれほど言葉で人を傷つけたと実感したことはなかった。

 子供だったと今ならば思う。でもあの頃は、どうしても許せなかったのだ。仕方の無いことだとそういう風に割り切れるほど大人ではなかったのだ。

 そして、ドアを閉めた美智はその場にしゃがみこみ涙を流す。


 「…………ごめ…………ごめんなさい」


 そうやって謝り続ける自分を近くで見下ろす。

 そして夢は覚めるのだ、こんな風に…………。


 ―――――ピピピピピピピ。


 目を開けると涙が滝のように流れていた。

 そしてぼーっとしていた思考がクリアになっていくにつれて鳴っているのが携帯だということに気付いた。


 「はい、もしもし」

 「広田です。……って先輩、どうしたんですか? 声が変ですよ」

 「何でもない。夢見が悪くてね。で? 何の用?」

 「編集長から預かったデータを送っておきましたんで」

 「分った、ありがとう。内容は見た?」

 「一応。というか僕がまとめたので」

 「そっか。気になった点はある?」

 「いえ、僕が目を通したかぎりはないですよ。先輩が見ればまた違うと思いますけど」

 「そう」

 「僕、退社しますけど何か調べること他にありますか?」

 「あんた、民話について調べたって言ってたよね? 光泉村の民話についての資料見せてくれない?」

 「いいですけど。じゃあ、今日帰ってまとめたら明日送ります」

 「よろしく。じゃあ」


 携帯を切るとやっと自分の中の時間が現在に戻った気がした。

 こんな夢を見たのは、美花の日記を読んでいたからか。


 (私の中の時間は止まったままなのかも。でも動きだす時が来たのかもしれない)





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