最終話:それぞれの明日・6
次の日の朝、おばばや川辺先生達は市内の警察署へと出頭した。明の家の弁護士と共に。裁判は、まだ先の事だが動向を見守っていきたいと思う。
併せて村の儀式について公表を行った。これから儀式について国や県の調査の手が本格的入ることになる。そのせいか報道陣の姿もちらほらと見かけるようになってきたので騒ぎはこれからだと思う。
両親にも連絡を入れたがやはり混乱しているようだ。それでも時間をかけて家族で、解決していきたいと思う。
「美智! お待たせ」
「わぁ、きれいな花」
「お母さんが用意してくれたの。あとで自分も行くからって」
「功達は?」
「お寺で待ってるって」
「ふぅん。じゃあ、行こう」
「うん」
今日は、改めて四人で美花の墓参りに行こうということになった。事件の結末とこれからの事を報告する為に。
編集長と広田は、一足先にこの村をあとにした。編集長は、取材の為に。そして、広田は、父親の死を家族に報告する為に。
「ねぇ、夏美さん。私に報告する事があるんじゃないの?」
「え? あぁ、美花に報告してからね」
「えー、私は後?」
「うん、これは私なりのケジメよ。そういう美智はどうなの?」
「どうって?」
「明よ。何か言われた?」
「別に。何も言われてないよ。目覚めてから会ってないしね」
「え? 会ってないの?」
「ほらほら、行くよ」
驚く夏美を無視して美智は、さくさくと進む。我に返った夏美が走って追いつくのを横目で確認する。すると彼女は、何やらぶつぶつと呟いていた。
「おい、美智! 夏美! 遅いぞ!!」
「はいはい。ほら、夏美行くよ」
夏美の腕を掴むと小走りで功の元へと向かった。しかし、そこに明の姿はない。
「功、明は?」
「あぁ、先に花を運んでる」
「運ぶ?」
「明の家とおばばからの分もあって大量なんだ。美花の墓は、すごい事になってるぞ」
「そうなんだ。じゃあ、行こうか」
寺の境内に入るとそこかしこから声がかかった。何故か村の多くの人々がそろって先祖の墓を参っているようだ。
「まぁ、ご先祖の決断で自分達の今がある事が分かったからな。だからだろう」
「ふぅん」
「あ、明だよ」
夏美の声に前方に視線を向けると、大輪の花々が飾られた美花の墓の前に明が立っていた。その手には、まだ花束が残っている。
「それにしてもすごい量ね」
「うちの両親がね。十年分だからって。これは、姉さん達からの分」
「そう。灯ちゃんは?」
「家に居るよ。しばらくは、外出は出来そうにないかな」
その言葉にあの時の灯の儚さが思い出されて不安になる。自分の言葉に美智が顔色を変えて行くのを感じ取った明は、慌てる。
「違うよ。姉さんは元気だよ。ただ、用心の為にって母さんが」
「用心って、まさか…………」
「違う違う。実は、姉さんが妊娠している事が分かって」
「嘘! 良かったね! 灯ちゃんも二人なら待っていられるよね」
「うん。僕も安心した」
「じゃあ、美花にも報告しなきゃね。あ、花かして。供えるから。夏美、私達の分も」
「うん」
美智と夏美が花を供えるのを側で見ながら明は、ホッと息をつく。灯に宿った命をためらいもなく喜んでくれたのが嬉しかったから。
「さぁ、手を合わせよう」
線香に火をつけ、四人で美花を思う。それぞれの思い彼女に心の中で伝える。それは、謝罪であったりこれからの報告であったり様々だ。
それでも、これでやっと一つの区切りを持つ事が出来た。あとは、彼女に恥じることのない未来を歩くだけ。
「私、村に帰ってこようと思う。おばばの家の管理のこともあるし。何より、ちゃんと後世に伝えていきたいのよね」
「俺も戻る。家の仕事を手伝おうと思ってさ」
「それだけじゃ、ないでしょう?」
美智のからかいに功は頭をかき、夏美は頬を紅く染める。ただ、その中で何も知らないらしい明だけが目を白黒させていた。
「どういう事?」
「付き合い始めるらしよ」
「え? 何で教えてくれないんだよ。功?」
「別に男同士でいちいち報告することじゃねぇだろうが。さてと、ちょっと山まで行ってくるわ」
「山?」
「廃棄物の捜索。警察が来るまえに場所の当たりだけはつけとこうって青年団で決まったんだよ。じゃあ、行ってくる」
「私も診療所に戻るわ。じゃあね」
功と夏美は、追及から逃れるかのようにそそくさとその場を去って行った。それを茫然と見つめていた明だったが、それは二人からの自分への気づかいだということが悟る。
「美智、あの………………」
「さてと、私も戻るわ。両親への説明とか引っ越し準備もあるしね。じゃあ」
「美智、僕の話を…………」
そんな明を無視して美智は、その場を立ち去って行く。しかし、数メートル先まで進むと後ろを振り返り声を上げた。
「ねぇ、私の代わりに車を運転してくれない?」
「え?」
「色々と手伝って欲しい事があるのよ。いいでしょ? ついでに食事でも行こうよ」
「う、うん」
戸惑う明を見て美智は、笑う。昔のくったくのない笑顔で。それが、嬉しくて彼は言葉を飲み込む。あの日に止まってしまった時間。動き出すまでに十年の月日が必要だったのだ。だったら、焦ることはない。自分達らしく時間を進めていけばいいのだから。
光泉村に伝わる「蛍籠の儀式」は、こうして幕を閉じた。人々の心に様々な思いを残して。それでも明日に希望を持つ限り彼等に明るい未来があることを祈るばかりだ




