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蛍籠  作者:
116/119

第115話:それぞれの明日・4

 「灯。気分はどう? 何か飲み物でもいる?」

 「大丈夫よ。お母さん」


 屋敷に逃げ込むとそこには、少しだけ老いた両親と使用人達がいた。父は、自分を抱きしめるとすぐに明達を助けるために動き出す。それとは反対に母は、まるで幼子に接するようにあれやこれやと世話をしてくれていた。

 婆やに休むように言われてもまったく耳をかそうとしない。


 「皆さんの怪我の手当てが終わったらすぐに先生が来てくださるから」

 「私は、平気だから。明日以降でいいわ。先生や夏美ちゃんも休んでもらわないと」

 「簡単に見ていただくだけよ。その後は、屋敷の客間でニ人には休んでもらうもの」


 頑なな母の態度に、灯は苦笑する。根っからのお嬢様である母は、少しわがままで子供ような性格もある可愛い女性で自分達姉弟にとっては、愛情深い母親だ。


 「火は、消えたのかしら? それにみっちゃんは…………」

 「対処が早かったから火は、消えたわ。みっちゃんは、意識はまだ戻ってないけれど体に異常はないって。明がそばについてるわ」

 「明が。あの子、まだ片思いなのね」

 「…………美花ちゃんの事もあったから。悪いことをしたわ。家を守るためにあの子の気持ちを犠牲にしたのと一緒だもの」

 「でも、これからまた始めることが出来るから。そっと見守りましょうよ」

 「そっとねぇ。あの子、お父さんに似て奥手だから、大丈夫かしら。たきつけても全然動かないんだもの」

 「何をしたの?」

 「ふふふふ、ちょっとね」


 母の「ちょっと」は、自分達から見たら「かなり」に値するのだが、それに巻き込まれた人間がいないのを祈るしかない。


 「みっちゃんとご両親の心をひどく傷つけてしまったから、私達は許してもらえないもしれない。それでも、チャンスぐらいは与えたいじゃない息子には」

 「みっちゃん達は、きちんと話して謝罪すれば分かってもらえるかもしれない。何より、私が謝罪しなければいけないわ。あの人の分まで」

 「灯。決めたのね?」

 「最初から決めてたわ。私は、あの人を待ち続ける」

 「好きになさいな。家でずっと待っていればいいわ」


 きっと川辺は、罪を償い終えるには時間がかかるだろう。表向きの償いを終えたとしても、真の償いは一生続く。それを側で支えて一緒に背負って生きていきたいと思うから。

 だから、自分なりにこの村の為に犠牲になった人々の為に出来ることをしていこうと決めた。

 つらく険しい道のりかもしれないけれど、一人じゃないから大丈夫。

 灯と母は、この後も話続けた。この数年の空白を埋めるように。


 だが数時間後、彼女の身にちょっとしたサプライズが起きる事になるのをこの時の二人は、知らない。

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