第114話:それぞれの明日・3
その頃、功と夏美は、深見の屋敷に来ていた。功は、消火活動の報告や状況説明の為に。そして、夏美は、灯の診察の為に診療所の医師と共にここ来た。
互いの用事が終り、一息をつこうとしていた2人は、屋敷の庭に面した縁側に腰を降ろす。
「功。はい、これ」
「おっ、サンキュー」
夏美が差し出したペットボトルを受け取ると功は、一気に半分程中身を飲み干した。その隣で夏美も喉を潤す。
庭は、静かで周りの雑音は響いてこない。
心地よい沈黙がその場を包む。
「…………一応の決着はついたな」
「そうだね。途中でどんどん話が大きくなって驚いたけど」
禁足地の入口で、皆の帰りを今か今かと待っていた。その時、突然扉が開いたかと思ったら、そこには幾分か痩せた灯が立っていたのである。
数年振りに現れた彼女に言葉を失っていると、彼女は泣きだした。そして、事の真相を聞かされたのだ。美花の死の裏にあった村の暗部を。
「まぁ、これからが大変だけどな」
「うん。きっと大騒ぎになる。でも、私はこの村が好き。悲しい事もあったけど、それ以上に嬉しい事、楽しい事を過ごしてきた場所だから」
「あぁ。俺も美花が死んでからここを出たけど、時々むしょうに帰りたくなるんだよ。だけど、何か怖くて帰れなかった」
「怖い?」
「あぁ、あの日、ちゃんと俺が家まで送ってればとか。美花は、どんな思いで死を迎えたんだろうかとか色々」
「でも、それは…………」
「俺自身が、きちんと向き合う事が出来なかったせいだと思う。とにかく逃げ出したかったんだ。でも、それじゃいけないって最近考えるようになってさ。だから、今回の広田君の手紙はいいきっかけになった」
そう言って笑った功の顔は晴れやかだった。美花を失ってからの彼は、どこか歪で笑っていても目に以前のような明るさは感じ取れない。そんな姿を側で見るのが何よりつらかった。
いつしか、そのつらさが美花への憎しみへと変わって行く。もちろん、彼女は悪くない。そんなの分かっているのに、止まらなかったのだ。
そんな自分が嫌で村から出た。功から離れる為に。
「…………これからどうするの?」
「村に帰ってこようと思う。親父達からもふらふらしないで仕事を手伝えって言われてるしな」
「そっか。おじさん達も安心だね。後継ぎが戻ってきて」
「そうか? …………あのさ、せっかくだからこれを機会に始めてみないか?」
「何を?」
「何をって…………。お付き合いを始めてみませんか? 夏美さん」
「え? え?」
突然の功の言葉に夏美は、パニックに陥った。今、聞こえたのは空耳だろうか?
「そろそろ、前を見るべきだしさ。それにこんなしょうもない俺の側にずっと居てくれたのは、お前だけだ。まぁ、お前が嫌だって言うなら仕方ないけどな」
「…………じゃない。嫌じゃないよ」
「じゃあ、よろしくな」
そう言って差し出された手に夏美は、自分の手を重ねる。すると、功はぎゅっと優しく握ってくれた。ずっとうらやましくて仕方なかった彼と手を繋ぐ権利。
――――ごめんね、美花。あなたの場所を取ってしまって。だけど…………。
その時、ふわりと温かく優しい風が吹き抜ける。それは、まるで美花のような風。「いいんだよ」と彼女が言ってくれた気がして、ぼろぼろと涙が零れた。
――――美花の分も功を大事にするから。だから、見ててね。
「功、落ち着いたら美花に会いに行こう」
「あぁ」




