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蛍籠  作者:
114/119

第113話:それぞれの明日・2

 「本当に全部燃えたんだね」


 泉に近づくに連れて強くなるキナ臭さに眉をしかめる。その上、消火で巻かれた水で辺りは、ぬかるんでおり時折足が取られた。それでも、美智は上を目指す。

 その途中、禁足地の入口で村の長老格の数人と会った。彼等は、黙って頭を下げるとその場を去って行く。心なしかその姿が小さく見えた。これで彼等も救われるのだろうか。


 「うわぁ…………」


 目の前に広がる光景に言葉を失う。数時間前であった立派な社務所が、数本の黒く煤けた柱のみを残して全てが燃え落ちていた。

 奥の方にブルーシートに覆われた物がある。この光景にそぐ合わない異質物に興味がわく。だが、そこに近づこうとしたところで強く腕を掴まれそれを阻まれた。


 「先輩、駄目です」

 「………………あれって」

 「そっとしておきましょう」


 美智と広田は、その場で手を合わせる。儀式に踊らされた可哀そうな人達とも思うし、大切な妹を死へと追いやった人達だとも思う。

 隣で同じように手を合わせる広田に視線をやるがその表情に特に変化はない。


 「広田は…………この人達をどう思うの?」

 「憎くないと言ったら嘘になりますね。けど、自分の父親にも非があると知った今はよく分かりません。真実を知るのに、十年以上かかりましたから自分の感情の答えを出すのも同じくらいかかる気がします。今は、父を母の元へ連れ帰る事が出来る事が救いですかね」

 「そっか。私も両親にきちんと美花の事を伝えなきゃいけない。母の反応が不安だけど」

 「そうですね。でも、真実を知らないよりは違う気がします」

 「…………そうだよね! よし、腹をくくるか。あとは…………」

 「先輩? まだ何かあるんですか?」


 美智は、そのまま泉の側に向かう。そして、水位が下がった泉を覗き込む。水草や苔の緑に混じって籠の残骸と自分が脱ぎ捨てた衣装が見えた。


 「まだ、残っていたんですね。もう全て朽ちているのかと思いました」

 「多分、あれはうちのおばあちゃんの従姉の美月さんの分の籠だと思う。籠の中に短刀があったの、その鞘にうちの家紋があったんだよね」

 「じゃあ、美月さんに感謝しないといけませんね」

 「うん。さてと、広田。ちょっと下がってくれる?」

 「?」

 「今から追悼を兼ねて神楽を踊るから」

 「途中までですか?」

 「ううん、全部」

 「は? え? だって…………」


 あの時、美智は途中までしか習っていないと言っていたはず、それなのに。困惑する広田を無視して美智は、準備運動を始めていた。


 「先輩! どういう事ですか?」

 「嘘も方便という言葉を知っているかな? あの時は、儀式を止める必要性があった。それにああいう時は、小さな嘘ほどセンセーショナルになるのよ? 実際、儀式は止まったでしょう?」

 「川辺さんは、完璧に信じてましたよ。僕達だって」

 「うん、広田達のそういう反応も必要だったしね。さぁ、下がった、下がった」


 広田を後に押しやると美智は、目を閉じる。そして呼吸を整えながら代々の人柱の少女達に思いをはせる。彼女達が少しでも心安らかに眠れますようにと。


 さぁ、踊ろう。彼女達への祈念の神楽を。




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