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蛍籠  作者:
113/119

第112話:それぞれの明日

 「うん、大丈夫そうね」


 病室を出た美智は、廊下を歩きながら自分の体に異常がないことを再確認していた。寝ている時は、めまいを感じたけれど、意識が戻ってから時間が少し経過したおかげでそちらも収まっている。

 元々、体力もあるほうなので回復が早かったのだろう。


 「先輩? 何しているんですか?」

 「あぁ、広田」

 「あぁ、広田じゃないでしょう。まだ、休んでてください」

 「大丈夫、大丈夫」


 いつも通りの美智の様子に広田は安心すると共に、少しばかり気が抜けた。そんな彼の気持ちを悟ったのか美智は、ポリポリと指で自分の頬をかく。


 「あっ、そうだ。広田が助けてくれたんだってね。どうも、ありがとう」

 「どういたしまして。多分、僕があの中で一番泳ぎがうまいと思ったんですよね」

 「おっ、さすが元インハイ王者!」

 「おだてても何も出ませんよ。って、よく知ってますね。僕が水泳やってたなんて」

 「ふふふっ、地元のヒーローじゃん。それにあの時のインハイは、うちの県での開催だったでしょ? 実はボランティアでスタッフやってたのよ」

 「へー、じゃあその時会ってたかもしれませんね。って、微妙に話をずらしてませんか?」

 「あら、ばれた?」

 「ほら、さっさと戻る」


 広田は、病室を指さして戻るように促す。しかし、美智はそれを無視するとそのまま外へと向かってしまう。そんな彼女に軽く嘆息をつくと後を追った。

 外に出た美智は、真っすぐ歩いて行く。そんな彼女を見て消火活動に加わっていた村人達は、ひそひそと言葉を交わし合い、好奇の視線を向ける。

 その様子に広田の方が腹立たしく感じて、何回か彼等に詰め寄りかける。だが、そのたびに美智が笑って引きとめていた。


 「気にしないで。あんなのまだ可愛いもんよ」

 「でも!」

 「もちろん、腹は立つけど。村に帰ってきた当初もあんな感じだったから。ついには切れて叫んだけど、功の家で」

 「先輩がいいならいいですけど。それより先輩が向かってるのって」

 「そう、禁足地の泉よ。社務所が焼け落ちたって聞いた。一応、自分の目で確かめておきたいの。明日からは、無理だろうし」


 明日、おばばと川辺、そして数人の村人はそろって警察に出頭することになっている。彼等の身柄は、その時まで深見家の預かりとなっていた。

 明日からは警察の人間の出入りが本格化する。そうなると、自分の目であの場所を見ることは当分出来ない。だから、その前に一度行っておきたいのだ。


 「まぁ、決意表明もかねてるから」

 「決意表明?」

 「うん。私、住まいをこっちに戻そうと思って。そして、おばばの家や深見の家に残っているだろう資料を元にきちんと儀式についてまとめようと思うの。そして、出来ればそれを資料館に展示したいんだ。それがこれからも生きる私達のするべき事かなって」

 「え、仕事は?」

 「もちろん、続けるわよ。仕事しなきゃ食べていけないもの。車で通うわよ」

 「……………そうですか」



 

 

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