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蛍籠  作者:
110/119

第109話:救助

 「先輩、先輩。もうちょっと頑張ってください」

 

 意識を失った美智を助けた腕の正体は、広田だった。元々、泳ぎが得意だった彼は彼女が泉に落ちたのを見てすぐ自分が飛びこむ事を決めた。泉はかなりの深さに加えて、大量の水草が生えており飛び込んだ直後は、視界の確保に苦しんだがそれでも底へ底へと潜る。やがて、水面目指して泳いでいた美智を発見してその腕を掴むことが出来たのであった。しかし、泉に落ちて時間が経過していたせいか彼女の意識はなく早急に救命処置が必要な状態である。

 すぐに舞台の上に上がろうとそちらに視線を向けた瞬間、愕然とした。


 「…………嘘だろ」


 ほんの1、2分程前まで自分達がいた場所が激しい炎に包まれている。炎と黒煙で舞台を確認することすら出来ない。

 一体、何が起きたのか。


 「広田君! こっちよ!」


 後方から聞こえた女性の声に我に返った広田は、そちらに体を向ける。すると舞台とは反対の岸辺で美智の友人の夏美が編集長と一緒に大きく手を振っていた。

 とりあえず、広田は美智の体を引っ張りながらそちらに向かって泳ぎ出す。


 「広田、こっちだ」

 「先輩を先にお願いします。意識がなくて」

 「分かったわ、私にまかせて。編集長さん、とりあえずあそこの草むらに美智を運んでください」

 「あぁ。よっと…………」


 広田から美智を受け取ると編集長は、軽々と抱えて行く。その後を夏美が追って行きながら携帯で誰かに連絡を取っている。 


 「それにしても一体何が…………」

 「あんたも早くあっちに移動するんだ」

 「おばばさん?」

 「ほら、風邪をひくからこれをかぶりな。説明はあとでしてやるから。先に美智達と一緒に下に降りるんだ」


 バスタオルをかけられた広田は、おばばに追い立てられる。それに従いながらも彼の視線は燃え盛る舞台へと向けられていた。

 舞台の近くでは、必死に消火活動を行う村人の姿が多数見られる。皆、鬼気迫る表情で水をかけていた。


 「功達も消火に加わっている。急いで鎮火させないと山にまで広がる恐れがあるからね。山に広がればあっという間だ。村にまで火が行く可能性がある」

 「じゃあ、息子さんも?」

 「いや………………」


 隣で黙り込む老女の様子に嫌な予感がする。


 「久美を助けようとしてな。でも、あの子は死を選んだ。英一は、最後まで助けようとしたんだが。すまない、息子はもう罪を贖う事は出来ない」

 「…………そうですか。残念です。あの人の口から全てを語って欲しかったのに」

 「その役目は、母親である私が担おう。さぁ、美智と一緒に山を降りなさい。気がついた時に一人だとあの子も心細いだろう。夏美は、これから忙しいから」

 「はい」


 火事は、村人達の努力のおかげで無事に鎮火することが出来た。物的被害は、社務所一軒と周囲の木々。人的被害は、焼死した神主夫妻、それと消火に関わった数名の火傷。

 

 夫妻の死は、多くの人々に驚きと悲しみをもたらした。しかし、それは一瞬の事。何より村人を驚かせたのは消火に使用された泉の水位が下がった為に、中から出てきた物だった。

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