第102話:悪夢の夜
社務所の入口まで来ると扉の隙間から中の光が漏れ出ていた。扉に手をかけようとした時、中から声が聞こえてくる。
どうやら夫と息子が何やらもめているようで、二人の怒鳴り声が響いてくる。
「もう駄目です。私は、明日にでも自首します」
「ふざけるな!! 自分の立場を考えろ!!」
「立場? ただの人殺しですよ」
自首を決意した息子に声を荒げ激高する夫の姿に、やはり自分達の気持ちは伝わらないのだと悟る。もう彼に正論は通じない。
「こんな時間に何の騒ぎだい?」
「母さん」
「きちんと扉を閉めないか。誰が聞いているか分からないんだ」
「すみません」
「あなたも落ち着いてください」
英一に掴みかかろうとした夫を諌め、二人の間に立つ。すると、夫は近くの椅子に座ると息子を睨みつける。息子もそんな父親に負けじとその視線に真っ向から立ち向かう。
「お前もこの馬鹿をどうにかしろ!!」
「………………私は、英一のしたいようにさせるつもりです」
「何を馬鹿な事を!! そんなことをしたらこの村は破滅するぞ」
「そもそも、あなたが勝手な事をするからこんな事になったのが分かりませんか?」
「私はこの村の神主として、当然の事をしたまでだ。あの男は、何を言っても儀式の事を発表すると言って聞かなかった。そんな事をされてでもみろ、この村は外の人間に奇異な目で見られるんだぞ。この村の出身というだけで、差別される人間が出てくるんだ」
夫のその言葉にまだ、人を思いやる心が残っている事が分かる。
「だったら儀式を止めてしまえばいい。そして、儀式について負の歴史として正しく伝えていけばいいじゃないですか? それをあの学者先生に協力してもらえばよかった。そうすれば、少なくとも我々の次の世代は、解放される」
「そうですよ、父さん。こんな事、いつまでも続けてはいけない」
「昔のように外との関わりが薄い時代は終わったんです。時代が変わったようにこの村も変わらなければ未来はない」
夫は黙って私の言葉を聞いていた。その反応の薄さに、幾分か不安を覚えるが、このまま説得を続ければ分かってもらえるのではないかという期待が少しだけわく。しかし、その期待はすぐに打ち砕かれる。
「………………儀式は続けるんだ。そうでなければこの村は終わりだ」
「父さん!!」
「この村の繁栄は、儀式があってこそだ。それなのに、我々の代でそれを終わらせるなどご先祖に顔向けが出来んだろう」
「何故分からない。大切な人を失う痛みを知っているあなたが何故同じ思いを他人に強いる? 美月姉さんの死を間近であなたが何故…………」
「美月さん?」
「美苑の従姉で、前回の儀式の巫女。そして父さんが愛していた人だよ」




