タートル・リコール
『タートル・リコール』
“今の境遇に不満を持っている貴方!貴方の運は貴方の前世が作用する。貴方の前
世を貴方の今の状況に合わせた最適化したものに!リコール社が貴方の前世を!!
リコール社におまかせ!! コール to リコール!!“
下手たなコピーだとは思ったけど、少なくとも俺は来てしまった訳だ。
これというのもあの新米課長だ。俺より若くて遅く入って来たくせにピョンっと飛
び飛びで出世してたちまち俺を追い越してしまった。
俺はというと確かに要領も悪くてドン亀とか言われるが堅実な中堅社員だ。カッコ
良さとか確かに負けるが、実力では負けないつもりだったのに…。
おかげで夢にまでおれがカメになってウサギのように飛んで走って行く後を追う夢
を見る。頼みの綱はこのリコールだ。
「リコール社のシステムはあなたの前世をコンピュータが調査して貴方の最も合った
状況の前世に換えてくれます。勿論、なんらの危険もありません。私どもリコール社
をコールして下さって、あなたの運勢がこれから変わるのです。
あなたの場合は正に夢にみた通りの状況の前世がありますね。例のお伽噺の『兎と
亀』です。え、勿論です。リコール社のシステムは架空の前世まであなたにもたらす
のが可能なのです。これで兎のように飛び飛びで出世したあなたのライバルはあなた
に負けている前世と同じになりますから、あなたにどうしても最後には負けてしまう
成り行きになってしまいます。勿論、あなたが前世でウサギに勝ったという自信もあ
なたの有利に働くでしょう。では、リコール社のシステムを…」
さあ、これで俺は兎に勝った亀だ。もうあんなヤツには負けない!!俺は自信と希
望に満ちて会社へ向かった。
しかし、リコール社から帰った俺を待っていたのはうちの会社の親会社にあたる会
社の娘をたらしこんでたちまちうちの会社の役員にまでのりあがったヤツだった。
「ははっ、浦島様。あなた様のお命ならこの御恩のあるこの亀に…」
うちの会社の親会社の浦島建設に婿入りしてそっちの名を継いだヤツの名前を聞く
だけで亀の前世を持つ俺は……。 (了)
<いつもの後書き>
題名を聞いただけで判る『トータル・リコール』のモジリで書いてしまったもので
す。私はタマタマこういうしょうもないものを書いてしまうんですよね。
映画の方で出てきたCMのセリフをそのまま使ってしまいました。ま、いいや。