とある庭師の一幕
花の雪ひらり
花牡丹杏風に舞い 白い軌跡を目に残し
碧い風さわり
青草毛氈やわらかく 野辺の菫はささやかに
頬染める君ふわり
笑み零す声心地よく 水晶の鈴鳴らすよう
永久成らぬ今悼み
大地に絵を描く我庭師 添えたる乙女のたおやかさ
木陰には貴婦人たちが茶を片手に談笑している。
話題は愛しいあの人かそれとも悲恋のかの人か
俗世の垢の欠片すら見せぬ仙女の語らいのよう・・・・・・
いやぁ、王妹殿下方のお茶会は一幅の絵画を見るようで眼福ですなぁ。
実家の派閥も関係なしに淑女令嬢の皆様方が楽しげに談笑されている。
その仲良き姿をもって満足とばかりに殿下は多くを聴き少しを語る。
これで苦労の甲斐もあったというもの。
青草の中に転々と菫や花韮が咲く広場に数本の牡丹杏、遠景には目隠し代わりの楡を配置した一見なんともない広場であるのだが維持するとなれば苦労があるものだ。
青草は気を抜くと伸びまくるし、菫や花韮は種を飛ばすので予想外のところから芽を出して花を咲かせる。牡丹杏も花をよく咲かせるように選定したり虫がつかないように小鳥を呼び寄せるのも忘れてはならない。
乾暑の時には水を与え、長雨のときに根ぐされしないように庭の地下数尺のところはわざと砂礫層にしている。
青草は根を張りすぎて牡丹杏の根圏を侵すので根きりを行い、冬枯れの季節は野焼きをする。
すべては年に数日の花の時期のためだけに維持されているこの広場は王国の財と庭師の意地が見事に結実したものであった。
夜には夜会と称して酒盛りが始まるのだろうが、庭師としては花と戯れ風と語らうかのようなこの茶会の風景が気に入っているのであった。
彼は淑女令嬢の視界に入らぬように護衛の騎士達とともに控えているのである。
騎士達は青草に突如咲いたかのような色とりどりの花に見とれないように集中していて仕事になっているのかどうかは甚だ疑問であるのだが・・・・・・・・
日も傾いて紅く染まるころ。茶会はお開きとなり貴婦人達はそれぞれの帰路に付く、護衛の騎士達もそれぞれに付き添い侍女達は片づけをする。
庭師もまた夜会のために篝火を用意し小姓や給仕たちが宴の準備をするのを手助けするのである。
夜も更けて夜会も酒盛りと化した頃、庭師は茶会の幻想的な風景を思い出しながら今年もこの庭に携わってよかったと一人思う。
でも、庭師は知らない。
王妹殿下達の茶会はBL話で盛り上がっていたことを・・・・・・・・
そして護衛の騎士達は自分が餌食にされていることを知りたくなくて心を無にしていたことを・・・・・・・
庭師自身も素材にされていたことなんて知らないほうが彼にとっての幸せなのだろう。
この広場は腐成分が多くでよく育つのではなんて冗談はおいときましょう(笑