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結婚八年、子どもはいらないと言った夫には十歳の息子がいた

作者: 熾星
掲載日:2026/06/26



 大阪で学校の研修に参加しているはずの夫から、ビデオ通話がかかってきた。その途中、画面がふいに数秒だけ揺れた。夫はすぐにスマホを持ち直し、何事もなかったかのように、今日の手術は疲れなかったかと、いつもの穏やかな声で尋ねてきた。私も異変に気づいたそぶりは見せず、彼の話に相づちを打ちながら、さっき保存したスクリーンショットを画像認識アプリにかけた。


 スクリーンショットの左下には、最新型らしき変形ロボットのフィギュアが映り込んでいた。画像が少しずつ読み込まれ、やがて検索結果が表示される。それは限定版フィギュアで、価格は八万八千円だった。私はその金額を、しばらく黙って見つめていた。


 結婚して八年、修一は私の前ではずっと倹約家だった。自分のワイシャツを一枚買うだけでも迷うような人が、どうして突然、こんな高価なものを買ったのだろう。しかも、子どもを持たない夫婦として生きていくはずの私たちには、まったく必要のない子ども向けの玩具だった。


 その夜、私は寝返りを繰り返し、ほとんど眠れなかった。翌朝、ひどい寝不足の顔で市立総合病院へ出勤した。


 朝礼のあと、看護師長が病院と区役所の合同で行う「ひとり親家庭支援訪問」の名簿を配った。各部署で生活に困っている家庭を数軒ずつ担当し、米や食用油、子ども用のミルク券、ドラッグストアの商品券などを届ける。ついでに、医療面で困っていることがないか確認するという取り組みだった。


 私は病院で用意された支援品を持ち、名簿に書かれていた住所へ向かった。そこは桜町の古い公団住宅で、昭和の時代に建てられたままの団地だった。階段は狭く、壁は黄ばんでいて、二〇一号室のドアには色あせた招き猫が掛かっている。インターホンの横には、「瀬川」と書かれた表札が貼られていた。


 ドアの前まで行ったとき、まだベルを押していないのに、中から女性の笑い声が聞こえた。ドアは完全には閉まっていなかった。半開きの隙間から中をのぞくと、一人の男が腰をかがめ、女性のスカートの裾を丁寧に整えていた。その仕草はあまりにも優しく、あまりにも慣れていて、まるで何度もそうしてきたかのようだった。


 その男は、結婚して八年になる私の夫だった。


 私はその場に凍りつき、手に持っていた支援品を落としそうになった。そのとき、中から小さな男の子が走ってきて、私を見上げると、礼儀正しく頭を下げた。


「こんにちは」


 私はその子の顔を見た瞬間、心臓が止まったような気がした。その子は十歳くらいで、目元も鼻筋も口元も、修一の子どものころの写真とほとんど同じだった。思わず半歩下がった私は、ちょうど廊下を清掃員の女性が作業車を押して通りかかるのを見つけ、その袖をつかんだ。


「すみません。ここは、瀬川静香さんのお宅ですか?」


 清掃員の女性は表札を見て、それから部屋の中をちらりとのぞき、うなずいた。


「ええ、静香さんのお宅ですよ」


 彼女は声を少し落とし、感心したように続けた。


「あの人は本当に幸せ者ね。あんなにいい男の人に大事にされて。近所じゃみんな知っていますよ。あの人、静香さんのためなら命まで差し出しそうなくらいですから」



1



 月曜日の朝礼で、看護師長が一枚の名簿を配った。病院が区役所と協力して行う「ひとり親家庭支援訪問」の対象者リストだった。各部署が生活に困っている家庭を数軒ずつ担当し、米や食用油、子ども用のミルク券、ドラッグストアの商品券を届け、必要があれば医療支援につなげることになっていた。


 私は名簿を受け取り、一行ずつ目を通した。七行目で、指が止まった。瀬川静香、三十五歳、桜町旧公団住宅在住。ひとり親、十歳の息子あり。生活困窮。私はその名前を見た瞬間、胸の奥が冷たくなるのを感じた。


 修一は毎月十五日、この女性に五万円を振り込んでいた。彼は、瀬川静香は地元の遠い親戚で、夫を亡くして一人で子どもを育てているから、少しでも助けてやりたいのだと説明していた。私はその話を信じ、彼を優しい人だと思っていた。


 修一は私立中高一貫校の国語教師で、普段から生徒にも丁寧に接していた。困っている親戚を助けたいと言われても、不自然には思えなかった。


 午後、仕事を終える前に、私はスーパーで食用油と米を買い、病院から渡されたミルク券とドラッグストアの商品券も持った。名簿の住所を確認し、車で桜町の旧公団住宅へ向かった。そこは古い住宅地で、廊下は狭く、壁は黄ばみ、玄関前の集合ポストには色のあせた名前シールが貼られていた。


 二〇一号室のドアには、すでに色あせた招き猫の飾りが掛かっていた。私は呼び鈴を押した。中から子どもが走ってくる音がして、すぐにドアが開いた。顔立ちの整った十歳くらいの男の子が顔を出し、その目元を見た瞬間、私は胸を強くつかまれたような感覚に襲われた。修一の子どものころの写真と、まるで同じ顔だった。


 私はどうにか声を落ち着かせ、その子の頭にそっと触れた。


「ここは瀬川静香さんのお宅? お母さんはいる?」


 男の子は中を振り返って叫んだ。


「お母さん、お父さん、お客さんだよ!」


 キッチンのほうから炒め物の音が聞こえた。続いて、聞き慣れすぎた男の声が返ってくる。


「誰だ? お母さんは電話中だろ。お客さんなら、お父さんが出るよ」


 次の瞬間、エプロンを着け、フライ返しを持った修一がキッチンから出てきた。彼の顔にはまだ笑みが残っていて、どこにでもいる家庭的な夫のようだった。けれど、玄関に立っているのが私だと気づいた瞬間、その顔は凍りつき、手にしていたフライ返しが床に落ちた。


「澪……どうして、ここに」


 部屋の奥から、もう一人の女性が出てきた。三十代半ば、柔らかそうな部屋着を着て、髪をゆるくまとめている。彼女はごく自然に身をかがめ、床に落ちたフライ返しを拾うと、まず修一に向かって笑った。


「修一さん、気をつけて。火傷したら大変ですよ」


 それから彼女は、ようやく私を見た。あらかじめ用意していたような、柔らかな笑みだった。


「佐伯さんですよね。修一さんから、よくお話は聞いています。どうぞ、上がってください」


 私は動かなかった。二人の向こう側にあるリビングの壁に、大きな写真が掛かっているのが見えた。写真の中で、修一と瀬川静香は寄り添うように座り、その真ん中にさっきの男の子がいた。三人とも、心から幸せそうに笑っている。


 それは、ただの親戚の写真ではなかった。


 家族写真だった。


 私は米と油を玄関先に置き、ミルク券と商品券をその袋の上に重ねた。胸の中を素手でえぐられるような痛みが走ったのに、口から出た声は、自分でも驚くほど冷静だった。


「説明はいらない。よくわかったから」


 そう言って、私は背を向けた。修一はすぐに追いかけてきて、私の名前を何度も呼んだ。家に帰ってからゆっくり話そう、ここには子どももいる、あまりみっともないことにしないでくれ。そう言われた瞬間、私は足を止めて、彼を振り返った。


「あなたにも、みっともないって感覚はあったの?」


 修一の顔はさらに白くなった。瀬川静香は玄関に立ち、男の子をそっと抱き寄せていた。彼女は何も言わず、ただ傷ついたような、我慢しているような目で私を見ていた。まるで、突然他人の家庭に踏み込んで平穏を壊したのは、私のほうだと言わんばかりだった。


 廊下にいた清掃員の女性が、小さくつぶやいた。高梨さんは、静香さんのところの男の人じゃなかったのかしら。その一言が、私の中に残っていた最後の希望を断ち切った。


 私はもう誰も見ずに、階段を下りた。修一が下まで追いかけてきたとき、彼は靴すらまともに履けていなかった。私の車の横に立ち、窓を叩きながら、声を落として私の名前を呼ぶ。そのみっともない姿を見ていると、学校でいつも端正で温和な教師として振る舞っている彼の姿が思い出され、ただただ皮肉だった。


「澪、開けてくれ。話そう。説明できる。静香は昔の同級生で、あの子のことにも事情があるんだ。少し見ただけで、俺を全部否定しないでくれ」


 私はドアをロックしたまま、彼を見なかった。車を走らせたとき、バックミラーの中には、古い公団住宅の前に立つ彼の姿が映っていた。瀬川静香とあの子も下りてきて、三人で並んで立っている。その光景は、私が自分の手で引き裂いた古い絵のようだった。


 私は二つ先の交差点を越えてから、ようやく車を路肩に止めた。ハンドルから手を離した瞬間、自分の指が震えていることに気づいた。八年の結婚生活は、最初から私が思っていたものではなかった。節約、残業、研修、当直。彼が口にしてきた言い訳は、すべて私を欺くためのものだったのだ。


 彼は人を世話できないわけではなかった。子どもが嫌いなわけでもなかった。ただ、その優しさを、私には一度も向けなかっただけだった。


 私はハンドルに突っ伏し、ようやく涙をこぼした。けれど、数分泣いただけで、すぐに手で拭った。


 そんな価値はない。


 修一のような男のために、泣き続ける価値なんてない。


 その夜、私はいつも通り家に帰り、靴を脱ぎ、シャワーを浴び、湯を沸かした。家の中には、修一の痕跡がいたるところに残っていた。玄関には彼の革靴、食卓には彼のマグカップ、ソファの横には読みかけの本。以前はそれらを、家庭の穏やかさの象徴だと思っていた。今はただ、気持ち悪かった。


 夜九時、彼からメッセージが届いた。下にいる、上げてくれ、どうしても話し合うべきだと書かれていた。私は返信しなかった。数分後、またメッセージが来た。本当に君が思っているようなことじゃない、まずは説明を聞いてくれ、衝動的になるな。私は画面をしばらく見つめ、最後に一言だけ返した。


「消えて」


 送信してから、スマホをマナーモードにし、電気を消して横になった。けれど、眠れるはずがなかった。目を閉じるたびに、あの家族写真が浮かぶ。あの子が「お父さん」と呼んだ声が耳に残る。修一が瀬川静香のスカートの裾を整えていた、あの低く集中した横顔が、何度も頭の中に戻ってきた。


 深夜一時、玄関の鍵が開く音がした。修一が帰ってきた。


 彼はそっと家に入り、しばらくリビングに立っていた。それから寝室のドアを開ける。私は背を向けたまま何も言わなかった。彼はベッドの端に座り、かつて私をなだめるときと同じように、声を低くした。


「澪、起きているんだろう。話をしよう。何があっても、俺たちは夫婦だ。少しの誤解で、八年の時間を全部否定するべきじゃない。静香は高校の同級生で、昔つき合っていたことはある。けれど、俺が大学に進んで、彼女は地元に残って、それで別れたんだ。あの子のことは、本当に最初から知っていたわけじゃない。三年前に初めて知った。彼女が一人で子どもを育てていたから、俺にも責任があると思って、ときどき様子を見に行っていただけだ」


 私はゆっくり起き上がり、彼を見た。目の前の男は、あまりにも真剣な顔で嘘をついていた。もし私があの部屋を見ていなければ、もしあの子の顔をこの目で見ていなければ、きっとまた信じてしまったかもしれない。


「ときどき様子を見に行っただけ? 修一、あなたはあの家でエプロンを着て、料理をして、子どもに八万八千円のフィギュアを買っていた。あの子はあなたをお父さんと呼んだし、近所の人もあなたをあの家の男だと思っている。それでも、ただ様子を見に行っただけだと言うの?」


 修一はしばらく何も言えなかった。やがて眉を寄せ、まるで私に責められていること自体が不当だと言いたげな顔で口を開いた。


「子どもに罪はないだろう。澪、君は看護師なんだから、人よりも同情心があるはずだ。静香が一人で子どもを育てるのは大変だった。真実を知ってしまった以上、何もなかったふりはできなかったんだ」


 私は思わず笑いそうになった。彼がよその母子に向ける深情と責任を、最後には私の同情心で支払わせようとしているのだ。


「その人たちに責任を取るために、あなたは私を八年もだましたの? 私たちは結婚して八年よ。二千回以上の夜があった。そのどこかで真実を話すことはできたはずなのに、あなたは毎回、嘘を選んだ。機会がなかったんじゃない。最初から、私に言うつもりなんてなかったのよ」


 修一の顔が沈んだ。数言の優しい言葉では、もう私を丸め込めないと悟ったのだろう。私はベッドから下り、クローゼットから予備の布団と枕を抱えて、リビングのソファに投げた。


「今日からあなたはリビングで寝て。人としてまともな説明ができるようになったら、話してあげる。それから、明日から私は証拠を集める。あなたが私たちの結婚前から静香さんと関係を続けていたことがわかったら、修一、この結婚は終わりよ」


 修一は立ち上がり、声を荒げた。もういい加減にしろ、ここまで下手に出て説明しているのに、二十歳そこそこの女の子みたいに騒ぎ続けるな。私はそれ以上聞かず、寝室のドアを閉め、鍵をかけた。


 扉の向こうはしばらく静かだった。やがて、怒りを押し殺した彼の声が聞こえた。


「調べればいい。何が調べられると思っているんだ。澪、やりすぎるなよ。後悔するのは君だ」


 私はドアに背を預け、ゆっくり床に座り込んだ。涙がまた込み上げてきたけれど、今度は長く泣かなかった。自分に言い聞かせた。佐伯澪、今日からもう弱くなるな。



2



 翌朝、私は六時に目を覚ました。寝室を出ると、修一はすでにソファに座っていた。ローテーブルの上には、豆乳、おにぎり、厚焼き卵、私が昔好きだった店のサンドイッチがきれいに並べられている。彼は立ち上がり、昨夜私を脅した男が幻だったかのように、愛想のいい笑みを浮かべた。


「澪、朝食を買ってきた。昨日は俺の言い方も悪かった。まずは少し食べて、それからきちんと話し合おう。俺たちは夫婦なんだ。外の人間に自分たちの生活を壊されるべきじゃない」


 私はその朝食を一瞥もせず、玄関で靴を履いた。朝は手術があるから時間がないと言うと、彼は私の腕をつかんだ。それでも私が止まらないとわかると、彼の作り物の優しさはついに剥がれ落ちた。彼はテーブルの箸を強く叩きつけ、その音がリビングに響いた。


「佐伯澪、どうしてもそういう態度を取るのか。確かに外に子どもはいる。けれど、俺は君に一円も不足させていないだろう。あの二人をこの家に連れてきたこともないし、君の気持ちにもずっと配慮してきた。君はまるで、俺が天に背くような悪事をしたみたいに騒いでいる」


 私は彼の手を振りほどき、じっと見返した。修一は冷たい顔で、男に過去があるのは普通のことだ、そもそも子どもは結婚前にできたのだから、今さら騒ぐのは財産や金を狙っているだけだと言った。その瞬間、私はようやく理解した。彼は自分が悪いことを知らないのではない。私が反抗すると思っていなかっただけなのだ。


「あなたはまだ、古い家制度の時代に生きているつもりなの? 外で事実婚の妻と隠し子を抱えて、法律上の妻である私に道を譲れとでも思っているの? 修一、あなたには本当に吐き気がする」


 彼の顔色が変わり、そんな言い方をするなと言った。私は振り返り、言葉がひどいのは私なのか、それともやっていることが醜いのはあなたたちなのかと問い返した。あなたは瀬川静香の夫は亡くなったと言った。死んだはずの夫がどうやって生き返り、あなたそっくりの息子を作ったのか。


 修一は言葉を失った。しばらくしてから、彼は開き直るように、どうしても離婚したいなら構わないが、家も車も自分に半分の権利がある、預金も夫婦共有財産だ、正しい側にいるつもりで自分を無一文にできると思うな、と言い放った。さらに、結婚のときに高梨家が出した式の費用、結婚指輪、新居の内装費まで、一つひとつ計算すると言った。


 私は彼を見た。八年も一緒に暮らして、今日初めて、本当の顔を見た気がした。彼の優しささえ、すべて計算でできていたのだ。


「修一、自分が今どれほどみっともないかわかっている? 家の中にあるものを食べ尽くしておきながら、外の残飯を宝物みたいに抱え込む。いざ代償を払う段になったら、小銭一枚まで惜しんでわめき散らす。本当に見苦しい人ね」


 そう言って、私は彼を押しのけ、家を出た。


 その日の午前中、私は手術室で徹底的に冷静だった。手術に入れば、患者の命と向き合うことだけに集中しなければならない。私情を持ち込む余地などなかった。昼休みにスタッフルームに座り、カップを握ったとき、ようやく指先が冷えていることに気づいた。


 スマホには新しい友だち申請が来ていた。備考欄には、「佐伯さん、こんにちは。瀬川静香です」と書かれている。私は数秒その名前を見つめ、承認した。ほとんど同時に、メッセージが届いた。昨日は本当にすみません、修一さんから聞きました、あなたは私たちのことを誤解しています、悠斗は父親がいなくて寂しいだけで、修一さんは子どもをかわいそうに思って少し面倒を見ているだけです。そう書かれていた。


 次の瞬間、写真が送られてきた。写真の中で、修一は瀬川悠斗を抱き、遊園地の観覧車の前に立っていた。二人は本当に幸せそうに笑っていて、誰が見ても父と息子だった。続けて二枚目の写真が届く。今度は三人の写真で、修一を真ん中に、瀬川静香と悠斗が寄り添っている。背景は温泉旅館だった。


 瀬川静香はさらに、修一さんを責めないでください、悪いのは私です、私が一人で子どもを育てられなくて、いつも彼に頼ってしまったんです、けれど悠斗には本当に父親が必要で、修一さんもあの子を手放せないんです、と送ってきた。私は返事をしなかった。すると今度は、音声メッセージが届いた。再生すると、柔らかく弱々しい声が流れた。


「佐伯さん、私が悪いことはわかっています。でも、子どもはもう十歳なんです。いつまでも父親のいない子にはできません。佐伯さんと修一さんは結婚して何年も子どもがいないんですよね。お願いですから、私たちを許していただけませんか。私は何も奪うつもりはありません。ただ、悠斗にちゃんとした家族をあげたいだけなんです。佐伯さんのことは一生忘れません」


 彼女の声は哀れだった。けれど言葉は刃物だった。私は文字を打った。あなたはどうして、私たちに子どもがいないと知っているのか。瀬川静香の返事は早かった。修一さんから聞きました、あなたが子どもを欲しがらない、面倒を見るのが嫌いで、子育てが負担だと言っていたと。私だったら、あなたみたいに恵まれていたら、何人でも産みたいです。そう返ってきた。


 私はその文字列を見つめ、胸の中に残っていた最後の温度が冷えていくのを感じた。修一は、子どもを持たないという嘘を私についただけではなかった。外では、子どもを持たない理由をすべて私に押しつけていたのだ。私の前では、私を苦しませたくないという思いやり深い夫を演じ、瀬川静香の前では、私を自分勝手で冷たい妻に仕立てていた。


 午後、退勤しようとすると、修一の車が病院の前に停まっていた。私は避けて通ろうとしたが、彼は車から降りて私の前に立った。周囲には仕事を終えた同僚たちがいたから、彼は声を低くし、体面を保とうとしていた。静香が君に連絡したのか、あの人は考えずに話すところがある、気にしないでくれ、家に帰って話そう、病院の前で騒がないでくれ。そう言った。


 私は彼を見て、笑うしかなかった。あなたたちは相談していたのかと尋ねた。瀬川静香が私を挑発し、あなたがあとから慰めに来る。片方が火をつけ、片方が水をかける。私を操れる人形だとでも思っていたのか。修一はすぐに眉を寄せ、私が感情的になりすぎて、何でも陰謀に見えているだけだと言った。


「じゃあ教えて。瀬川悠斗は、あなたの実の息子なの?」


 彼は口を開きかけたが、答えなかった。私は一歩近づき、もう一度尋ねた。周囲の人たちがこちらを見はじめる。修一は顔をこわばらせ、私をそばの木陰へ引っ張っていくと、ついに怒りを抑えきれなくなった。


「そうだ。俺の息子だ。それが何だ。佐伯澪、君が子どもを産めないんだから、俺が跡継ぎを持つことまで許さないつもりか」


 その一言は、鈍器のように私の頭を殴った。私はしばらく言葉を失い、それからゆっくり尋ねた。いつ私が子どもを産めないことになったのか。修一は冷笑し、結婚して八年も経つのに、一度でも妊娠したか、母さんはずっと前から君は産めないと言っていた、自分はそれを責めなかったのに、今さらこのことで騒ぐのか、と言った。


 頭の中で、何かが大きく鳴った。結婚二年目、姑が子どもを急かしはじめたころ、私は検査を受けた。結果は異常なしだった。少し体質が冷えやすいから、ゆっくり整えればよいと医師に言われた。私は修一にも検査を受けてほしいと頼んだが、彼は男に問題があるはずがないと言って拒んだ。


 その後、彼のほうから子どもは欲しくないと言い出した。澪、俺たちは二人だけで生きていこう、子どもを持たない夫婦でも幸せになれる、君に出産で苦しい思いをさせたくない。そう言った。当時の私は、彼はなんて思いやりのある人なのだろうと思った。


 今になってようやくわかった。彼は子どもが嫌いだったのではない。


 私との子どもが、欲しくなかっただけだった。


 私は手を上げ、思いきり彼の頬を叩いた。修一の顔が横を向き、目に浮かんだ驚きはすぐに怒りへ変わった。彼が私をつかもうとした瞬間、通りかかった同僚が間に入った。


「修一、人として最低ね」


 修一は頬を押さえ、歯を食いしばって私をにらんだ。そして、この結婚は離さない、続けたいなら悠斗を受け入れろ、続けたくないなら分居期間を経て手続きを踏め、だが自分を無一文にできると思うな、と吐き捨てた。彼は車に乗り込み、ドアを乱暴に閉めて走り去った。


 私は病院の前に立ち尽くし、その車が流れの中に消えていくのを見送った。すぐにスマホが鳴った。姑からだった。


 電話に出ると、こちらが口を開く前に怒鳴り声が飛んできた。あなたは偉くなったものね、うちの息子をソファで寝かせるなんて、病院の前で叩くなんて。悠斗は高梨家の大事な跡取りなのよ、あの子に何かしたらただじゃおかない。そうまくし立てた。


 私は目を閉じ、修一が外に子どもを作っていたのは不倫だと言った。すると姑は、男が外で少し遊ぶくらい普通でしょう、と言い返した。静香は高梨家に男の子を産んだ、あなたは結婚して八年も経つのに影も形もない、自分に能力がないくせに、他人の子まで拒むなんて悪質だ、と責め立てた。


 彼女はますます汚い言葉で私を罵り、最後に冷たく言い放った。


「少しでも賢いなら、悠斗を受け入れなさい。いずれ静香が家に入ることになっても、あなたは妻の立場くらい残してもらえる。逆らうなら、修一にあなたと離婚させて、一円も渡さないわ。よく考えなさい」


 電話が切れたあと、私はしばらくその場から動けなかった。同僚が心配して、顔色が悪いけれど大丈夫かと声をかけてくれたので、私は低血糖かもしれないと笑ってごまかした。タクシーに乗ってから、親友の宮沢里奈にメッセージを送った。腕のいい離婚弁護士を紹介して、できるだけ強い人がいい、と。


 宮沢里奈からはすぐに返事が来た。あの最低男、本当に不倫していたのか。私は窓の外を見ながら、一文字ずつ返した。


「不倫だけじゃない。十歳の隠し子がいた」



3



 宮沢里奈はすぐに弁護士を紹介してくれた。白石弁護士は彼女の大学時代の友人で、離婚と財産分与を専門に扱っている。私の話を聞いた彼女は、余計な慰めを口にせず、ただ一つだけ尋ねた。


「佐伯さん、あなたはどんな結果を望みますか」


 私は迷わなかった。離婚したい。取るべき財産を取りたい。慰謝料も取りたい。そして、あの人たちに、きちんと代償を払わせたい。そう答えると、白石弁護士はしばらく黙ったあと、まず証拠を集めましょうと言った。


「ただし、医療機関の記録を知人や勤務先のつてで調べるのは絶対にやめてください。出産や診療に関する記録は、とても慎重に扱うべき個人情報です。こちらは、写真、動画、送金記録、メッセージ履歴、地元での証言、そしてご主人本人が保管していた資料から固めていきましょう」


 その言葉で、私は市立母子医療センターへ向かうのをやめた。感情だけで動けば、こちらが不利になる。だから私は三日間の休みを取り、まずは家の中に残っているものから調べることにした。


 修一の書斎には、古いノートパソコンが置かれていた。昔の授業資料が入っているから触らないでほしいと、彼が何度も言っていたものだ。いくつか思い当たるパスワードを試したが開かず、最後に瀬川静香の誕生日を入力すると、画面が切り替わった。


 デスクトップはきれいに整理されていた。私はフォルダを一つずつ開いていった。「授業資料バックアップ」という名前のフォルダの奥に、暗号化されたサブフォルダがある。今度は瀬川悠斗の誕生日を入力すると、やはり開いた。


 中には写真と動画がぎっしり入っていた。若いころから現在までの修一と静香の写真、悠斗が赤ん坊のころから十歳になるまでの成長記録、三人で旅行に行った動画。さらに、スマホで撮影された母子手帳のページや、出産祝いの席らしい写真まで保存されていた。そこに写っていた日付を見た瞬間、私は息を止めた。


 二〇一三年六月十五日。


 私と修一が結婚したのは、二〇一四年の元日だった。つまり、悠斗は私たちが結婚する半年前に生まれていた。さらに古いメッセージをたどると、静香が妊婦健診のことを相談し、修一が「今は東京で動けないけれど、必ず責任を取る」と返しているやり取りまで残っていた。


 時期は二〇一二年秋。


 そのころ、私はすでに修一と交際していた。彼のほうから私を追いかけてきたのだ。毎朝朝食を届け、仕事終わりに迎えに来て、私の残業に深夜まで付き合い、同僚たちがうらやむほど優しくしてくれた。


 そんなとき、彼は別の女性を妊娠させていた。


 二日目、私は修一の地元へ向かった。東京からそう遠くない小さな町で、商店街は古び、昼間でも人通りは少なかった。高梨家の両親は今もそこに住んでいるが、私はほとんど帰省したことがない。帰るたびに姑からあれこれ文句を言われるからだった。


 今回は誰にも知らせなかった。瀬川静香の家は商店街の東端にあり、通りに面して小さなコンビニのような店を開いていた。看板には「静香便利店」と書かれ、店の前には安売り飲料の箱が並び、ガラス窓には子ども向け菓子のポスターが貼られている。私は向かいの店で水を一本買い、店主の女性に話しかけた。


 向かいの店は商売になるのかと尋ねると、その女性は話好きらしく、すぐに声を落とした。静香さんは人づき合いがうまいから常連は多いけれど、あそこの事情は、よそから来た人にはわからないでしょうね。私が何のことかと聞くと、彼女は向かいの店をちらりと見た。


「あの子、若いころ高梨家の息子とつき合っていてね。ほとんど結婚するようなものだったのよ。でも高梨家が、静香の家は条件が悪いと言って反対した。その後、あの男は東京に行って、東京の女と結婚したんだけれど、静香は子どもを身ごもっていてね。一人で産んで、一人で育ててきたのよ。修一は何年もずっと戻ってきているわ。東京ナンバーの車で来て、静香の家に入ったら半日は出てこない。近所の人間で、あの子が彼の子だと知らない人なんていないわ」


 私は水のボトルを握る手に力を入れた。店主はさらに続けた。静香も隠すつもりはなく、子どもには彼をお父さんと呼ばせていた。二人は地元で祝宴のようなものも開いていて、十数卓も客を呼んだ。ただ籍は入れておらず、いずれ東京で正式な手続きをすると言っていた。その後、彼は東京で別の女と結婚し、静香は十年も待ち続けていたのだという。


 私はその話を聞きながら、心の中が麻痺していくのを感じた。瀬川静香が突然現れたのではない。最初から私は、あの三人と高梨家にだまされていたのだ。夕方、修一の車が静香便利店の前に停まるのが見えた。彼が運転席から降りると、瀬川静香がすぐに迎えに出てきた。瀬川悠斗が店の奥から駆け出し、彼の胸に飛び込む。


 修一は自然に子どもを抱き上げ、もう一方の手で瀬川静香の肩を支えた。三人は何も特別なことではないように、店の中へ入っていった。私はスマホを構え、何枚も写真を撮った。


 修一が去ったあと、私は近くの写真館へ行った。五十代くらいの女性店主は、瀬川静香と高梨修一の名前を聞くと、すぐに事情を知っている顔をした。古いアルバムをしばらく探し、やがて一枚の写真を見つけ出した。写真の中で、若い修一と瀬川静香は祝いの席らしい華やかな服を着て、客に酒を注いでいた。画質は高くなかったが、二人の顔ははっきりわかった。


 私はその写真を持つ手が震えるのを感じた。


「すみません。この写真、譲っていただけませんか。私は、高梨修一の東京での妻です」


 写真館の女性は固まった。長いこと私を見つめ、最後に深くため息をついた。


「ひどい話ね。持っていきなさい。お金はいらないわ」


 それでも私は二千円を置き、写真を持って店を出た。


 家に戻った私は、彼の銀行履歴を調べた。毎月十五日、修一は瀬川静香に五万円を送金していた。それだけではない。塾代、学費、パソコン、スマホ、玩具、旅行費。三年間だけでも、合計は四百万円を超えていた。最後に、私は彼のメッセージアプリを開いた。瀬川静香との会話が一番上に固定されていた。


 最新のメッセージは昨夜のものだった。瀬川静香は、私のほうはどうなったのか、離婚に同意したのか、悠斗はもう十歳なのに、いつまでも正式な立場がないままではいられない、と送っていた。修一は、まだだ、澪は金が欲しいだけだからしばらく引き延ばす、長くても半年、まだ聞き分けがなければこちらから離婚を申し立てる、家も車も自分に半分の権利があるから、彼女はたいして取れない、と返していた。


 瀬川静香が早くしてほしい、母が別の相手を紹介しようとしていると催促すると、修一は即座に返事をしていた。そんなことをしたら許さない、君は俺のものだ、待っていろ。私はさらに過去へさかのぼった。三年前、瀬川静香は、悠斗がどうしてお父さんに毎日会えないのかと泣きついていた。修一は、もう少し待ってくれ、東京で立場を固め、家や車のことを片づけたら、澪と離婚すると慰めていた。


 最後に、こんな一文があった。


「澪のほうは俺がずっとなだめている。あいつはだましやすい」


 私はその文字を見て、思わず笑いそうになった。八年の結婚生活は、彼にとっては「だましやすい女」を利用していただけの時間だったのだ。


 私はすべての証拠を整理し、白石弁護士に送った。彼女はすぐに電話をくれた。証拠はかなり強い、長期にわたる婚外の事実婚、隠し子、大きな額の夫婦財産の流出、離婚訴訟と慰謝料請求を支えるには十分だと言った。さらに、瀬川静香が生活困窮のひとり親として補助を受けながら、修一から多額の援助を受けていた場合、補助金の不正受給が問題になる可能性があるとも説明した。


 私は彼女に、修一にほとんどすべてを失わせることはできるかと尋ねた。白石弁護士は、財産分与でかなり有利な条件を争えると答えた。そして、修一は私立学校の教師で、公開研究授業に参加する立場にある。こういう職業は、誠実さと倫理の問題に非常に弱い。学校が知れば、彼の教師人生はほぼ終わるでしょう、と静かに言った。


 私はスマホのカレンダーを見た。来週の水曜日、修一の勤める私立中高一貫校で、市内の公開研究授業が行われる。学校理事、教育関係者、保護者代表、そしてメディアも来る予定だった。


 私はその日付に丸をつけた。


 その日にしよう。



4



 公開研究授業の日、私は一日休みを取った。きちんとしたスーツを着て、薄く化粧をした。家を出る前、鏡の前に立って自分の顔をしばらく見つめた。鏡の中の女は冷静な目をしていて、もうみじめな気配はどこにもなかった。


 午前九時半、私は修一が勤める私立中高一貫校に到着した。講堂にはすでに多くの人が座っていた。前列には学校理事、教育関係者、メディアの記者たちが並び、その後ろに各校の教師と保護者代表が座っている。私は端の席に腰を下ろし、証拠の入った外付けドライブをバッグの中に入れておいた。


 十時ちょうど、修一が壇上に上がった。その日は濃い色のスーツにネクタイを締め、髪もきれいに整えていた。照明の下に立つ姿は、相変わらず穏やかで優秀で、誰からも信頼される教師そのものだった。彼は客席に向かって一礼し、スライドを開いた。口にしたテーマは、責任と誠実だった。


「本日はお忙しい中ありがとうございます。高梨修一です。今日の授業テーマは『責任と誠実』です。私は、教育者とは知識を教えるだけの存在ではなく、自分の言葉と行動で、生徒たちに責任とは何か、表裏のない生き方とは何かを伝える存在だと考えています」


 私は客席で、彼の前半の授業を静かに聞いていた。彼は教師の使命を語り、家庭の責任を語り、大人は自分の選択に責任を持たなければならないと語った。途中では、彼が貧しい生徒を支援しているという動画まで流れた。画面の中の彼は子どもの頭をなで、慈愛に満ちた目をしていた。客席ではうなずく人もいて、記者は写真を撮っていた。


 私には、それがただの皮肉にしか見えなかった。


 十時四十分、授業は質疑応答に移った。司会者が立ち上がり、質問のある教師や保護者は挙手してくださいと告げた。私は手を上げた。全員の視線を受けながら立ち上がり、壇上のそばへ歩いていく。


 修一は私を見た瞬間、目に見えて顔色を失った。司会者がマイクを差し出し、どなたでしょうかと尋ねる。私はマイクを受け取り、客席全体を見渡した。


「私は、高梨修一先生の妻、佐伯澪です。先生、本日の授業は大変すばらしいものでした。一つだけ、質問させてください。先生は先ほど、教育者にとって最も大切なのは誠実さと責任だとおっしゃいました。では、十年近く妻に隠れて地元で別の女性と夫婦同然に暮らし、その家庭を支え続けていた人間が、生徒たちに誠実を語る資格はあるのでしょうか」


 会場は一瞬、完全に静まり返った。次の瞬間、ざわめきが波のように広がる。修一は壇上で固まり、それでも最後の体面を保とうとした。


「佐伯さん、落ち着いてください。ここは学校の公開授業です。家庭の問題を持ち込む場所ではありません」


 私は相手にせず、マルチメディア操作台へ向かった。職員が止めようとしたが、私は落ち着いて言った。


「未成年者の顔や氏名、医療に関わる情報はすべて伏せています。ここで示すのは、高梨先生ご本人の行動と、婚姻中の財産流出に関わる資料だけです」


 外付けドライブを接続し、フォルダを開く。最初に映し出されたのは、修一と静香が地元で祝宴を開いたときの写真だった。二人は祝いの席らしい服を着て、客に酒を注いでいる。次に映したのは、静香の店の前で修一が彼女と並び、子どもを抱いている写真だった。子どもの顔には黒い四角を入れてある。


 続いて、送金記録を映した。毎月五万円。塾代、学費、旅行費、玩具代。三年以上にわたり、合計は四百万円を超えていた。最後に映したのはメッセージの一部だった。修一は自分の言葉で、家と車を処理したら私と離婚する、澪はだましやすい、と書いていた。


 写真を一枚映すたびに、会場のざわめきは大きくなった。学校理事の顔は青ざめ、保護者席のどこかから、最低だという声が聞こえた。記者たちは一斉にスマホやカメラを構えたが、私はすぐに投影を止めた。


「詳しい資料は、すでに弁護士を通じて学校と関係機関へ提出しています。私はここで、子どもをさらし者にするつもりはありません。問いたいのは一つだけです。高梨先生、あなたは自分のしてきたことを、教育者として誠実だと言えますか」


 修一は真っ青な顔でこちらへ駆け寄ろうとした。だが、職員と学校関係者に止められた。彼は私に向かって怒鳴った。


「澪、お前は俺を壊す気か。全部終わらせるつもりなのか」


 私はマイクを持ったまま、まっすぐ彼を見た。


「あなたを壊したのは私じゃない。私をだまし続けた年月と、壇上で責任を語りながら、人としての最低限さえ守れなかったあなた自身よ」


 そう言って、私はマイクを置いた。


 学校を出ると、日差しはまぶしかった。それでも胸を押しつぶしていた重い石が、ようやく少し動いた気がした。


 車に乗り込んだあと、私はすぐにはエンジンをかけなかった。スマホにはすでに、同僚、友人、親戚からのメッセージが殺到していた。宮沢里奈が動画リンクを送ってくる。タイトルは目立つものだった。私立名門校教師、妻に隠れて十年、地元に事実婚の妻と隠し子。


 コメントは次々に流れていた。壇上では責任を語り、裏では妻を十年もだましていたなんて皮肉すぎる。こんな人間が教師でいいのか、学校は処分すべきだ。妻が冷静すぎる、証拠を一枚ずつ出すところが痛快だ。徹底的に訴えてほしい。支持の声は、あっという間にほかの議論を押し流していった。


 私はスマホを閉じ、車を出した。二つ先の通りへ入ったころ、修一から電話が来た。出なかった。何度も鳴ったあと、彼はメッセージを送ってきた。佐伯澪、お前は本当にひどい女だ、覚えていろ。私は返信した。


「何を待てばいいの? 学校の処分? それとも調査機関があなたのところへ来る日?」


 返信してから、彼をブロックした。続いて姑から電話が来た。出ると、最初から叫び声だった。恥知らず、よくも息子をこんな目に遭わせた、私はあなたを絶対に許さない。そう怒鳴り続けた。私はスマホを少し耳から離し、彼女が罵り終えるのを待ってから、静かに口を開いた。


「私を罵る時間があるなら、息子さんをどう助けるか考えたほうがいいですよ。学校の調査、離婚訴訟、財産隠し、補助金の不正受給疑惑。どれ一つ取っても、簡単には終わりませんから」


 姑は、息子は犯罪者ではない、あなたが陥れたのだと声を震わせた。私は、陥れたかどうかは裁判所と調査機関が判断します、と答えた。それから、あなたはずっと孫が欲しかったのでしょう、孫はいましたね。ただ残念なのは、その子がいずれ、自分の父親が妻を十年もだまし、家族全員を醜聞に巻き込んだ人間だと知ることです、と付け加えた。


 電話の向こうは一瞬静まり返り、すぐにさらに激しい罵声が返ってきた。私はもう聞かず、電話を切り、彼女もブロックした。


 家に戻った私は、楽な服に着替え、簡単に麺を作った。半分ほど食べたところで、玄関のドアが激しく叩かれた。瀬川静香の声が外から聞こえる。佐伯澪、開けなさい、修一さんをあんな目に遭わせて満足したのか。私は器を持ったまま玄関へ行き、のぞき穴から外を見た。


 彼女は髪を乱し、目を赤く腫らして立っていた。以前、音声メッセージで聞かせた弱々しい雰囲気はまったくなかった。私はドアを開けず、用があるなら警察へ行けばいい、私に何の用かと答えた。瀬川静香はさらに強くドアを叩き、外に出て話せ、修一さんに何かあったら絶対に許さないと叫んだ。


「あなたには子どもがいないんでしょう。どうして私たちを許してくれないの? あなたはもう八年も修一さんを独占したのに、まだ彼の人生を壊すつもりなの?」


 私は器をテーブルに置き、そのまま警察に通報した。十分後、警察が来たが、瀬川静香はまだドアの前で泣き叫んでいた。警察がここに住んでいるのかと尋ねると、彼女は口ごもり、ただ私が悪い、私が彼女の男を陥れたのだと言った。


 私はドアを開け、警察官に事情を説明した。


「彼女は夫の婚外相手です。二人には十歳の子どもがいます。夫は長年、その事実婚関係を私に隠していました。私は現在、離婚訴訟を進めています。彼女は今、私の自宅前で嫌がらせをしています。退去を求めます」


 警察官はすぐに状況を理解した。瀬川静香に、これ以上他人の生活を妨害するなら法的に対応することになると警告した。彼女はようやく怖くなったのか、帰り際に私をにらみつけた。


 ドアを閉めると、部屋の中はようやく静かになった。私は食卓に戻り、少し伸びてしまった麺を食べ続けた。それでもその夜の食事は、とてもおいしかった。八年ぶりに、この家が私だけのものになった気がした。



5



 公開授業の件から三日後、修一は学校から停職処分を受けた。学校は、高梨修一のすべての授業を停止し、内部調査を行うという通知を出した。ほどなく、保護者たちから学校に正式な処分を求める署名が集まり、SNSでの議論もさらに大きくなっていった。


 私の離婚訴訟も正式に受理された。白石弁護士は訴状とすべての証拠資料を裁判所に提出し、同時に瀬川静香の補助金不正受給疑惑に関する資料も、正式な手続きに沿って担当機関へ送った。修一は訴状を受け取ったあと、ようやく自分から私に連絡してきた。


 今度の彼は、驚くほど弱かった。電話口で、話し合おう、八年も夫婦だったのだから裁判まで行く必要はない、君が望むものは相談に乗る、自分は悪かった、どうかこれ以上追い詰めないでくれ、と言った。


 私は彼を弁護士事務所に呼んだ。現れた修一は、かつての体面をすっかり失っていた。数日見ないうちに髭は伸び、目は真っ赤で、スーツにも皺が寄っていた。席に座るなり、彼は低い声で謝った。


「澪、本当に悪かった。もう一度だけ機会をくれ。俺たちはやり直せる。静香とは切る。これからは二度と関わらない。金が欲しいなら払うし、誓約書を書けと言うなら書く。だから、もうこれ以上騒ぎを大きくしないでくれ」


 私は子どもはどうするのかと聞いた。修一は言葉に詰まり、悠斗には罪がない、これからは養育費だけ出して会う回数を減らす、それでいいだろうと言った。私は彼を見て、ひどく疲れた気持ちになった。


「修一、あなたは今でも私をだまそうとしている。あの子はあなたの実の息子よ。関係を切れるはずがない。あなたが言う『切る』は、今だけ私をなだめて、騒ぎが収まったらまた同じことを続けるという意味でしょう」


 彼の顔が険しくなった。ではどうすればいいのかと彼は言った。仕事はもうだめになりかけている、学校から処分される、ネットでは自分を罵る声ばかりだ。俺たちは夫婦だったのに、本当に俺が死ぬところを見たいのか。私は静かに彼を見た。十年私をだまし、隠し子を養い、財産を動かそうとしていたとき、あなたは私たちが夫婦だったことを思い出したのかと尋ねた。


 修一は何も言えなかった。私は立ち上がり、バッグを持った。話すことがないなら、法廷で会いましょう。そう告げると、彼は事務所の外まで追ってきて、訴えを取り下げられないか、いくらならいいのか、金なら払う、止まってくれるなら何でも相談すると言った。


「私はあなたに、ほとんどすべてを失ってほしい。だまし続けた代償を払ってほしい。二度と教壇に立って、生徒たちに責任や誠実を語れないようになってほしい」


 彼の顔から、完全に血の気が引いた。私はそれ以上相手にせず、タクシーに乗った。


 一週間後、瀬川静香が病院へ押しかけてきた。彼女はいきなりナースステーションへ入り、私の腕をつかんで、高梨修一を返してと泣き叫んだ。ナースステーションには患者の家族もいたため、その騒ぎで全員がこちらを見た。


 私は彼女の手を振りほどき、すぐに警備員を呼んだ。彼女は床に座り込み、激しく泣きながら周囲に訴えた。皆さん聞いてください、この人は自分に子どもがいないから、男に跡継ぎを持たせようとしないのです。修一さんはただ自分の息子を認めたかっただけなのに、この人は彼を追い詰めて殺そうとしている。看護師なのに、こんなに冷たい人なんです。


 数人の看護師が彼女を止め、病院業務の妨げになるから出ていくように言った。私は言い合うことなく、警察に通報した。警察が到着したときも、瀬川静香はまだ泣き叫んでいた。連れていかれるとき、彼女は振り返り、憎しみのこもった目で私をにらんだ。


「佐伯澪、私は絶対に許さない。修一さんが終わったら、あなたも必ず後悔させてやる」


 私は何も答えなかった。あとから聞いた話では、彼女は何度も嫌がらせをし、病院業務を妨害したため、数日間拘留されたらしい。修一の両親もおとなしくしていなかった。彼らは私の両親が営む小さな雑貨店の前に押しかけ、息子を壊したのは私だ、子どもも産めないくせに高梨家の妻の座に居座ったと罵った。


 父はほうきを持って二人を追い払った。その様子を近所の人が撮影し、ネットに上げた。これで世論は完全に爆発した。息子は妻をだまして不倫し、親は親で相手の実家へ嫌がらせに行くなんて、この一家は何なのか。十年もだまされたうえ、産めないと罵られる妻が気の毒すぎる。徹底的に訴えてほしい。そんな声が次々に上がった。


 高梨家が騒げば騒ぐほど、事態は収拾できなくなっていった。彼らは泣きわめけば私が引き下がると思っていたのだろう。けれど、彼らの行動は一つ残らず、新しい証拠になっていった。



6



 一か月後、裁判が開かれた。私は白石弁護士と一緒に原告席に座り、修一は被告席に座っていた。顔色は灰色に沈み、目の下は黒く、まるで一気に十歳老けたようだった。


 審理は順調に進んだ。私が提出した証拠は十分すぎるほどそろっていた。婚外関係を示す写真、送金記録、メッセージ履歴、地元の写真館が提供した祝宴写真、公開授業の動画、学校の調査資料、静香が私に嫌がらせをした際の通報記録。それらがすべて法廷に提出された。


 修一は反論できなかった。ただ、自分は一時の過ちだった、子どもには罪がない、本当に私を傷つけるつもりはなかったと繰り返すだけだった。裁判官は最後まで冷たい顔をしていた。


 判決は離婚を認めるものだった。夫婦共有財産については、家、車、預金、投資の一部が財産分与の対象になった。さらに、修一が婚姻中に静香へ流していた多額の金についても、夫婦財産を不当に減らしたものとして考慮された。結果として、通常の財産分与に加え、流出分の清算と慰謝料が認められ、最終的に私の手元には大半の財産が残ることになった。


 修一には、私への慰謝料の支払いも命じられた。静香の補助金不正受給疑惑と、修一が資金のやり取りを隠すことに協力していた件については、関連資料が担当機関へ引き継がれた。


 判決を聞いた修一は、椅子の上で力が抜けたように崩れた。閉廷後、彼は私を追いかけてきた。声には泣きそうな響きが混じっていた。


「澪、悪かった。本当に悪かった。夫婦だった情けで、もう調査を止めてもらえるように言ってくれないか。俺は完全に終わるわけにはいかない。これからも生きていかなければならないんだ」


 私は彼を見た。


「修一、あなたは自分がやっていたことの先に、今日があると考えたことがあった?」


 彼は、一時の迷いだったとつぶやいた。私は首を横に振った。


「あなたは十年も迷っていたのよ。三千日を超える時間、毎日私をだまし、別の女と暮らし、あなたたちの子どもを育て、私を追い出す計画を立てていた。それは一時の迷いではない。あなたは最初から、私を人間として扱っていなかった」


 修一は何も言えなかった。私は背を向けて裁判所を出た。その日の空はよく晴れていた。白石弁護士があとから来て、調査はこれからも続きますし、学校側の最終処分も近いうちに出るでしょうと言った。


 私は彼女に礼を言った。白石弁護士は、礼には及びません、佐伯さん、ああいう人間は代償を払うべきです、と静かに答えた。その瞬間、私の中に最後まで残っていた緊張が、ようやく少しほどけていった。


 家に戻ると、私は修一の荷物を片づけはじめた。服、靴、本、雑貨、すべてを箱に詰めた。宅配便を呼び、それらを彼の実家へ送った。何一つ残さなかった。部屋は急に広くなったが、それは寂しさではなかった。


 すがすがしさだった。


 私は家中を徹底的に掃除した。床を拭き、窓を拭き、シーツを替え、古いものを捨てた。彼が使っていたマグカップ、スリッパ、歯ブラシもすべてごみ袋へ入れた。夜までかけて掃除を終えると、家は見違えるほど明るくなっていた。修一の痕跡は、一つも残っていなかった。


 私は温かいお茶をいれ、ベランダで夜景を眺めた。スマホが鳴った。母からだった。判決はどうだったのかと聞かれたので、財産はかなり私に有利になったと答えた。電話の向こうは数秒静かになり、そのあと母の涙声が聞こえた。


「よかった。うちの娘は本当に苦労したね。今度帰っておいで。お母さん、おいしいものを作って待っているから。あんな男のことで、いつまでも傷つく必要はないよ。前を向こう」


 私は湯気の立つ湯飲みを見つめ、少し鼻の奥が痛くなった。しばらくは誰かを探すつもりはない、一人でいるのが楽なんだと母に伝えた。母は何も説得しなかった。ただ、あなたがそれでいいなら、それでいい、と静かに言ってくれた。



7



 三か月後、修一と静香の件にも結果が出た。静香は生活に困窮するひとり親として一部の補助を受けていたが、実際には修一から多額の援助を受け、共同生活に近い関係を続けていたことを隠していたため、不正に受け取った金額の返還を求められ、相応の処分を受けた。


 修一も、資金のやり取りを隠すことに協力していたこと、そして婚姻をめぐる醜聞で教師としての信用を大きく傷つけたことから、学校を正式に解雇された。教員免許まで直ちに失ったわけではなかった。けれど、保護者からの抗議、学校側の調査記録、そして大きく広まった騒動は、彼の経歴に深い傷を残した。


 教育の世界では、教師の信用と倫理は何より重い。修一が以前と同じように、名門校の教壇へ戻ることは、ほとんど不可能になった。


 結果が出たあと、静香と彼は激しく言い争ったらしい。彼女は、修一はもう金も仕事もない役立たずで、自分と息子まで巻き込んだと責めた。修一は、彼女が急かさなければ自分はここまで落ちなかったと怒鳴ったという。


 結局、静香は悠斗を連れて地元へ帰った。修一はついていかなかった。彼は東京で安い半地下の部屋を借り、昼は日雇いの仕事をし、夜は酒を飲むようになった。かつて壇上で責任と誠実を語っていた教師は、すっかり人々の笑い話になった。


 私が最後に彼を見たのは、スーパーだった。買い物に行ったとき、惣菜コーナーで彼を見かけた。汚れた作業着を着て、値引きされたおにぎりとパンを選んでいる。髪には白いものが増え、背中も丸くなっていた。修一も私に気づいた。彼は一瞬固まり、すぐにうつむいて足早に去っていった。


 私は呼び止めなかった。


 もう、その必要はなかった。


 離婚で受け取ったお金の一部を使い、私は宮沢里奈と一緒に地域型の保育施設を開いた。私は子どもが好きで、子どもを世話する経験もあった。施設は大きな住宅地の近くに構え、料金は無理のない範囲にし、サービスは丁寧に整えた。子どもの健康観察や一時預かりにも対応できるようにした。


 きちんと運営するために、資格を持った保育士とスタッフを雇った。私は主に運営、経理、保護者対応、医療安全の研修を担当した。開業の日には、両親と友人たちを呼んだ。母は私の手を握り、目を赤くして、うちの娘は本当に立派ね、これまで守ってあげられなくてごめんね、これからはあなたの好きなように生きなさい、と言った。父はその隣で笑いながら、澪は昔からしっかりしていた、これでようやく誰かの顔色を見て暮らさなくて済むな、と言った。


 保育施設は少しずつ軌道に乗った。対応が細やかだと保護者の間で評判になり、口コミで申し込みも増えていった。庭で子どもたちが走り回る姿を見るたびに、私は初めてはっきりと理解した。私は子どもが嫌いだったわけではない。ただ、だまされたまま、最低な男とその愛人の子を育てさせられることが耐えられなかっただけなのだ。


 日々は忙しく、穏やかだった。親切な人が相手を紹介してくれることもあったが、私はいつも丁寧に断った。相手はたいてい、まだ前の結婚から立ち直れていないのかと尋ねた。私は笑って首を横に振った。もう立ち直っています。立ち直ったからこそ、一人でいる心地よさがわかったんです。そう答えるようになった。


 誰かに尽くし続ける必要もない。誰かの顔色をうかがう必要もない。裏切りを恐れる必要もない。自分で稼いだお金を自分のために使い、欲しいものを買う。週末は自然に目が覚めるまで眠り、友人と買い物や食事に出かけ、休みには両親を旅行に連れていく。そんな日々を、私はいつまででも続けていたかった。


 一年後のある日、私は隣の市で業界研修に参加した。研修が終わったあと、両親への贈り物を買おうとショッピングモールへ寄った。そこで、一階の宝飾店の前に見覚えのある二人を見つけた。瀬川静香と、中年の男だった。


 男は少し薄くなった頭に大きな腹をしていて、指には太い金の指輪をはめていた。瀬川静香はその腕に自分の腕を絡め、また新しい寄る辺を見つけたように華やかに笑っていた。二人は宝飾店に入り、男は彼女に金のネックレスを買った。店から出てきた瀬川静香は私に気づき、一瞬笑顔をこわばらせた。


 けれど、すぐにあごを上げ、男の腕を引いて私の前を通り過ぎた。まるで誇り高い孔雀のようだった。私は気にしなかった。贈り物を買い終え、そのまま電車に乗って帰った。途中で宮沢里奈からメッセージが届いた。瀬川静香がまた次の男を見つけたらしい、相手は建設関係の男で、地元に妻がいるけれど東京で単身働いている、今はその男の借りた部屋に住んでいて、また離婚して自分を選ぶよう迫っているらしい。そう書かれていた。


 私は一文字だけ返した。


「そう」


 宮沢里奈はすぐに、腹が立たないのか、あんな女でもまた拾う男がいるなんて、と送ってきた。私は窓の外を流れていく田園風景を見ながら、ゆっくり返信した。腹を立てることなんてない。彼女は彼女の人生を生きればいい。私は私の人生を生きるだけ。


 送信してから、私はスマホを置いた。窓の外の空は青く、遠くの山影は光の中で淡く見えた。しばらくして、またスマホが鳴った。保育施設のスタッフから送られてきた写真だった。子どもたちが庭で遊んでいて、一人ひとりの笑顔がまぶしかった。


 私は写真を一枚ずつ見ながら、自然に口元がゆるんでいくのを感じた。家に帰ると、餃子を茹で、ビールを一本開けた。テレビでは夜のニュースが流れていたが、私はあまり聞いていなかった。ただ、自分のためだけに用意した夕食を、ゆっくり食べた。


 食事を片づけたあと、私は机に向かい、保育施設の収支表を開いた。今月も黒字で、先月より十五パーセント増えている。来年には二号店を開くつもりだった。夜十一時まで仕事をしてから、私はシャワーを浴び、ベッドに入った。


 横になったとき、ふと、修一と結婚したばかりのころを思い出した。あのころの私は、結婚とは二人で生活を重ね、支え合い、白髪になるまで寄り添うものだと思っていた。


 今はわかる。結婚にはいろいろな形がある。幸せなものもあれば、不幸なものもある。長く続くものもあれば、短く終わるものもある。


 けれど、どんな形であっても、自分自身を失ってはいけない。


 私の人生は、まだ始まったばかりだ。



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― 新着の感想 ―
本人は誇り高い孔雀のように勝ち誇っているかもしれないけど事情を知っている人間からすれば気持ちが悪い汚物にしかみえないもんなぁ… 離婚を迫っていることが他の人にバレるくらいだし年齢的にも後もないんだろう…
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