スノーボールアースな世界
氷河期というものを知っているだろうか?
やれマンモスだの、やれ寒いだの、大したイメージは持っていないだろう。では、こんな話は知っているだろうか。
現代に至るまでこの地球には氷期と間氷期が約10万年周期で繰り返されていること、そして現在が第四間氷期であることを。
今から始まるのはそんな永くて長いような間氷期が終わったあとの氷の世界のお話である────
* * *
私、東町マヤは冷えた風に吹かれている空港の外を一瞥した。
現在、外気温は3℃。これでもまだマシな方である。酷い時には氷点下10℃になることすらあるらしい。
私はふーっとため息をついて両手を擦った後、背伸びをする。
「あーもう、疲れた〜」
当然である。ここヨーロッパから日本までは飛行機で少なく見積っても片道12時間はかかる。おまけに時差ボケもある訳で、これで疲れない奴は人間ではないと思う。
「よっ!」
「ひゃっ!!」
「お疲れさん。これ飲むか?そこの売店で売ってるやつ。あったまるぞ〜。」
「父さん、びっくりするから止めてっていつも言ってるでしょ!」
「アハハ。ごめん、ごめん。」
「まったく、もう⋯⋯」
私は呆れつつ、手渡されたスープを一口飲む。
「っ、美味しい。」
「だろ。ここに来る時、いつも飲んでんだ。味に関しては折り紙付きだ。⋯⋯というか俺の仕事に着いて来たいなんて無茶言うもんだから大変だったんだぞ。」
「だって今回、ひっさしぶりに母さんに会えるかもなのに来ない訳には行かないでしょ。あと1回来てみたかったし。」
「あのなぁ⋯日本に一人残されたアスミの気持ちにもなってみろってんだ。」
「私が正当にじゃんけんで勝った結果だからね。お姉ちゃんなら今頃高いびきでもかいて寝てるでしょ。」
「まぁ、かもな。」
「というか、寒い。」
「しゃーない、石油が不足してんだから。日本だって同じようなもんだろ。そのためにも俺が来たわけだ。これでも高待遇な方。俺は一応、外交官なんだから。」
「それは分かってるんだけどさ⋯」
私はスープを一気に飲み干した。
そう、私、というか父さんの本当の目的は石油の分配とレスリオ鉱石の確保である。
はるか昔から石油を掘り続けた人類は最近、といっても半世紀程前だが今が氷期で石油の消費量が増えたことも相まって、とうとう掘り尽くしてしまったらしい。
だから今はギリギリ残っている石油の貯蓄と地中から何とか掘り出した絞りカスのようなもので賄っている。
そこでレスリオ鉱石である。私も詳しい事は知らないが、この鉱石は今からちょうど100年前に都合良く見つかった。
何でも、高密度なエネルギー分子結晶?なるものが詰まっていて石油の代替になるのはもちろん兵器開発にも転用されてるってのが専らの噂だ。
あまりにも鉱石が素晴らしいので学者達の中ではレスリオ鉱石が見つかった年から現代までをニューオリエンタルと呼んで特別視しているやつもいるらしい。
「そろそろ出るぞ〜」
「あ、うん。今行く。」
そんなこんなで私は空港の外、寒空の下に歩を進めて行くのであった。
* * *
あれから空港の外を歩いて30分、私たちは他愛もない話をしつつ、市街地を抜けてずいぶんと開けた場所に来ていた。
この寒さからなのかやはり外に出る人は少ないようだった。ただ、空いているなら移動は楽だ。逆に好都合である。
対談相手の外交官の人との待ち合わせ場所まではあと5分といったところだろうか。
しかし、それにしても寒い。そう思って手元にある温度計を確認すると気温は既に氷点下となっていた。
(そりゃ寒い訳だ)
とうとう手袋でも寒さをカバーできなくなってきた私は上着のポケットに両手を突っ込んだ。
────無い。
無い、無い、無い。ポケットに入れてあったはずの財布が無いのだ。
盗まれた?いや、そもそもここまでの道のりで他人と財布が盗める距離ですれ違ってない。
「どっかで落としたかぁ⋯」
「どうした?なんか失くしたのか?」
「財布、どっかに落としたっぽい。私、ちょっと取ってくる!先、行ってて!後から追いつくから!!」
「ちょ待っ⋯」
父さんが何か言う間もなく私は今まで歩いてきた道を全速力で駆け出していった。
そしてここから、私は想像もできないような数奇な運命に巻き込まれていく⋯⋯⋯
とあると血界戦線って良いよね




