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第3話 属性魔法にあらず

 いや待て。落ち着くんだ。ちょっと思ってたのと違うけど、悪くはないんじゃないか。むしろ、俺が想定していた通りのスキルツリーだと食料が確保できずに詰んでいた可能性がある。この状況を見通しての対応なら、フィクスは意外と有能なのかもしれない。


「いや、それはないな」


 うっかり候補者を間違うような奴が有能であるはずない。ポンコツが偶然良い方向に作用しただけだろう。絶対に感謝なんかしないぞ、俺は。


 まぁ、フィクスのことなんてどうでもいいか。今、考えるべきはスキルのことだ。推定スキルツリーには、まだ実がなっている。あれを食べれば、さらにスキルが得られるんだろうか。試してみよう。


 幸い、この木はあまり高くない。手を届く範囲にも実がなっているので、それをもいで食べる。


「うま」


 やっぱりうまいぞ、これ。スキルのことがなくても食べたくなる味だ。シャキシャキ食感としつこくない甘み。これならいくらでも食べられそうだ。


 と、勢いよく食べはじめたものは良いものの――


「……流石にもう無理だ」


 当然ながら無限に食べられるわけはなかった。結構頑張ったんだけど、最初に食べた物を含めて五つでギブアップだ。無理をすればもう少し食べられなくもないけど、五つ食べれば検証としては十分だしな。


 結論から言おう。いずれも丸々一個食べ終えた時点で脳内にスキルの獲得を知らせる声が響いた。スキルツリーの実を食べればスキルが得られると考えて間違いないと思う。


 新しく得られたのは全て魔法スキルだ。異世界といえばやはり魔法。それが早々に得られたのは望外の出来事と言ってもいい。


 にもかかわらず、俺の心は今ひとつ浮き立たなかった。


「なんか違うんだよなぁ……」


 得られた四種の魔法スキルは【飲み水魔法】【着火魔法】【整地魔法】【痛風魔法】だ。


 水魔法、火魔法、地魔法、風魔法。そこだけ切り取ると属性を司る魔法っぽい。しかし、どれも余計な文字がついている。わかるのはスキル名だけなので効果は推測になるが……やけに用途が限定すぎやしないか?


 あと、【痛風魔法】よ。お前、他に紛れていかにも属性魔法でございって顔してるけど、絶対別物だろ。痛風と言えばプリン体がどうのこうのってやつだよな。指の節なんかが腫れて風が吹くだけで激痛が走るんだったか。その魔法ってどういうことだよ。意味がわからない。


「ま、使えるようになっただけありがたいか。痛風魔法以外は便利そうだし」


 これが血の滲むような修行の結果なら膝から崩れ落ちるところだ。だけど、俺は木の実を食べただけ。何の労力もなく習得できたことを思えば不満をこぼすなんてとんでもない。それに地味でも実用性がありそうな魔法だ。これからの生活に役立つ気がする。


「しかし、魔法ね。どうやって使えばいいんだ?」


 ゲームなら魔法コマンドひとつで発動するんだろうけど、生憎とそれらしきものは発見できていない。せめてステータス画面みたいなものがあれば現状把握がしやすくなるんだけどなぁ。


 まぁ、ないものねだりをしても仕方がないか。ともかく、魔法の使い方を調べなくては。持ってるだけで使えない、では宝の持ち腐れだ。


「飲み水魔法、飲み水魔法……おっ」


 試しに水よ出ろと念じながらスキル名を唱えると、謎の言葉が頭に浮かび上がってきた。意味はわからないけど、読めはする。文字自体は特殊でも何でもなく、ただのカタカナ表記だった。アレペンナッテリ……と始まる五十字くらいの文字列だ。まるで呪文みたいだな。


「あ、いや、呪文なのか?」


 魔法といえば呪文はつきもの。頭に浮かんだこれがそうなのかもしれない。ものは試しだ。間違えないように慎重に読み上げてみると……指先からチョロチョロと水が流れ出した。


「おお、出た! 飲み水って言うからには、飲めるんだよな?」


 ええと、どうやって飲もうか。まぁ、直接でいいか。


 指をくわえると、冷たい水が喉を潤した。味は……まぁ水だな。変な味はしないので問題ないはず。


 それはともかく絵面が良くない。いい年した大人が指をしゃぶってるんだから。切実にコップが欲しい。


 口から指を離してもしばらくは水が流れ続ける。止まったのは二十秒くらいしてからだった。それでも水の勢いが弱いので量は大したことがないだろう。コップ二、三杯ってところかな。


「まさに飲み水用って感じだなぁ」


 サバイバル生活では役に立ちそうな魔法だが、できればもっと便利に使いたい。例えば、攻撃に転用したりとか。水量を増やしたり、勢いを強めたりできないだろうか。


「うーん……駄目か」


 気合を入れたり、大きな声で呪文を唱えてみたり。条件を変えて何度か試しても、水の勢いは変わらなかった。指先以外から出せないかと試したけど、そちらも駄目。かなり自由度が低い。俺の意思でどうにかできるのは途中で水を止めることくらいだ。効果の延長もできない。まぁ、それは呪文を唱えなおせばいいんだけど。


 基本的に魔法の効果を変更することはできないと思ったほうが良さそうだ。残念だけどそれが仕様なら仕方ない。


「まぁ、いいか。次だ、次」


 今度は着火魔法を試そう。魔法を使いたいと念じると、またもや意味不明なカタカナの羅列が思い浮かんだ。魔法ごとに決まった呪文があるようだ。


「ハッペンフレニク――」


 慎重に読み上げていく。途中で噛んだら魔法が発動しないので結構神経を使うんだよな。毎回頭に思い浮かぶので暗記の必要はないけど、素早く発動させたければ覚えるしかなさそうだ。


「おお、点いた!」


 呪文を唱え終わると、右手の人差し指の先に火が灯った。火の大きさは誕生日ケーキのキャンドルくらいで、本当に小さい指先から少し離れたところに火が出るので、熱くはない。これなら火傷の心配はなさそうだ。


 そのまま眺めていると、十秒くらいで火が消えた。


「なるほど。こっちもアレンジの余地はなし、と」


 何度か試してみたが、飲み水魔法と同じだ。着火魔法も火を大きくしたりはできない。十秒前に火を消すことはできるけど、効果時間の延長は無理。こちらも共通している。


 うーん、残念。火の玉でも出せたら攻撃に使えたのに。まぁ、自力で火おこしする手間を考えれば十分有用だけど。


 次が整地魔法か。名前通りなら整地するための魔法だな。飲み水確保と火おこしに比べると、使いどころは限られそうだ。


 そんなことを思いながら、整地魔法の検証に入る。使うための条件は前の二つと同じだ。謎呪文を唱えれば効果が現れる。ただし、整地魔法は地面に手をつけておく必要があるみたいだ。


「おお! こうなるのか!」


 結果を見て少しテンションが上がった。


 地面を均すという効果は予想通り。しかし、一緒に雑草や石まで処理してくれるとは思わなかった。どうやら土以外のものを取り除いたうえで地面を均らす魔法みたいだ。ちなみにこのとき抜けた草や石は平らになった地面の上に残る。


 効果範囲は縦横に両手を伸ばしたくらいの正方形のエリアだ。それが一瞬で平らになるので見ていて面白い。


「これって、木が生えてる範囲を巻き込んだらどうなるんだ?」


 早速実験。結論、木も抜ける。魔法を唱えた途端に蹴りつけた程度じゃびくともしない立派な木が、横倒しになってその場に転がった。


「面白いな。これぞ、魔法って感じだ」


 飲み水魔法や着火魔法に比べると変化が派手だ。魔法を使っているという実感が大きい。だけど、効果範囲には気をつけないと。うっかりスキルツリーを巻き込んだら大変だ。


「うっ……なんだ?」


 調子に乗って周辺一帯を均していたら、目眩と頭痛に襲われた。おまけに体が妙に重く感じられる。


「ひょっとして、魔法の使いすぎか?」


 マナとか魔力とか。作品によって呼び名は違えど、魔法を使うには何らかのエネルギーが必要なのはファンタジー世界の定番の設定だ。この世界でもそれは同じってことだろう。


 結構何度も使ったからなぁ。マナ切れを起こしても不思議ではない。これ以上は魔法を使わないほうが良さそうだ。まだ痛風魔法は試せていないが……まぁ、あれはいいか。自分に使うには何か怖いし。


 ともかく、今は休もう。立っていられないほどではないが結構きつい。


 俺はスキルツリーに背中を預けて座り込むと、しばらく休むことにした。

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