第2話 あのポンコツ、やりやがったな!
ふと気がつけば、見慣れぬ場所にいた。右を見ても左を見ても、視界に入るのは鬱蒼と茂った木、木、木。こんな環境をなんと呼ぶか。森である。
「はぁ……本当に転移するのか。夢じゃないよな?」
古来より伝わる夢判定法を試みる。が、結果は頬が痛くなるばかり。誠に残念ながら、夢でも幻でもありません。紛うことなき現実です。なんてこった!
『さて、お待たせしたかな。これで“プレイヤー”が全員揃った。それでは始めようじゃないか! 楽しい楽しいウォーゲームを!』
嘆く俺の脳内にフィクスの声が響いた。反射的に周囲を見回すが、やはり木しかない。おそらく他の場所から遠隔で声を届けているんだろう。
いわゆる念話と言うやつかな。それともテレパシー? どういう原理か不明だけど、それは今更か。なにせ、俺は自室のベッドからこんな森まで一瞬で転移させられたのだから。超常現象が極まっている。
念話にしても転移にしても、現代科学では実現不可能な技術だ。それを簡単になす存在は神か悪魔か。いずれにせよ、やはりフィクスは凄まじい力を持つ存在のようだ。
超常の力を持つポンコツ。控えめに言って厄介過ぎる。あいつのせいで、結局俺は異世界送りだ。
まぁ、一応、最後には同意して転移を受け入れたんだけどな。だって仕方がないじゃないか。どんなに拒否したところで、とんでもパワーの前には無力なんだから。
「他の“プレイヤー”はどんな奴らなんだろうなぁ」
彼らは望んでこの世界に降り立ったのか。それとも俺と同じく、拉致同然に連れてこられたのか。それによって、この世界での行動が変わってきそうだ。フィクスに聞いておけば良かったな。
ただまぁ、確実に俺よりはうまくやるだろう。なぜなら、この世界に対する事前知識が違う。
フィクスが俺たちをこの世界に連れてきた理由。それはさっき語っていたように、俺たちをウォーゲームの“プレイヤー”とするためだ。要は戦略シミュレーションゲームのようなことをリアルでさせたいらしい。そのために一から世界を生み出したというのだからスケールが違う。そして、ウォーゲームの舞台となるこの世界、なんとクロニクル・オブ・ロードを模して作られているそうだ。
クロニクル・オブ・ロードは少し前に流行ったゲームだ。簡単に言えばファンタジー世界を舞台にした国盗り系のシミュレーションかな。プレイヤーは数ある勢力から一つを選んで、内政や戦争で国力を高めていく。
ゲームを盛り上げるため、“プレイヤー”はクロニクル・オブ・ロードの熟練者から選ばれたらしい。ただし、俺を除いて。残念ながら、俺は未プレイだ。名前くらいは知ってるけど、表層的な知識しかない。どう考えても人選ミスだ。まぁ、人違いだったわけだから、選ばれてすらいないんだけども。
「まぁ、愚痴っても仕方がないか。詫び代わりにもらった能力でうまく立ち回るしかないな」
クロニクル・オブ・ロードの知識がない俺はスタートラインから圧倒的に不利だ。なので、フィクスと交渉した。どうしても転移を強行するなら、俺の望む能力を一つよこしてくれって。他の“プレイヤー”は知識チートがあるんだから、それくらいないとゲームが盛り上がらないぞと言って納得させた。フィクスはフィクスでゲームの開催が遅れそうなことに焦っていたから、交渉はすんなり進んだ。
「早速、確認してみるか」
まだ脳内でフィクスがごちゃごちゃ言ってるが、あまり意味のある内容ではなさそうなので無視でいいだろう。
そもそも、俺はウォーゲームとやらにまともに参加するつもりはない。知識なしの俺が熟練者に勝てるわけがないんだ。変に目立つよりも大人しくして方が利口だろう。
それよりも自分の能力が気になる。別に異世界転移を望んでいたわけじゃないが、転移したなら能力確認は必要だ。
能力次第では、諦めていたスローライフだって可能かもしれない。
俺が望んだ能力はスキルツリー。ツリーと言っても木じゃないぞ。枝葉が広がるように連結するデータ構造のことだ。
スキルツリーはよくあるシステムなので、ゲーム好きには珍しくもないだろう。前提スキルを取得することで、より上位の強力なスキルが解放されていくシステムだ。取得するスキルによって成長の方向性が決まるのでカスタム性が高い。
この特徴こそが、俺がスキルツリーを望んだ理由だ。この形式なら一つの能力で複数のスキルを習得できるはず。咄嗟に思いついたにしては悪くないアイデアだったと思う。
ただ、問題はある。
「どうやって確認すればいいんだ?」
時間がなかったものだから、詳しい使い方は聞いていない。ステータスだのスキルツリーだの叫んでみても何の反応もなかった。フィクスに呼びかけてみても応答なし。十分間くらいあれこれ試してみたけど、能力については何もわからなかった。
脳裏に不安がよぎる。まさか……騙されたのか?
フィクスからすれば適当になだめすかして転移させてしまえばいいんだ。実際に能力を与える必要はない。いや、あのポンコツのことだ。能力を与えるつもりはあっても、うっかりミスで失敗したなんてこともありうるぞ。
知識もない。チートもない。そんな状態で一人異世界に放りだされてどうしろと。
「マジかよ。これからどうすれば――あいた!?」
途方に暮れて、近くの木に寄りかかったら、頭に何かが当たった。
「これは……木の実か」
桃色で拳よりも少し大きいくらいのサイズだ。形は楕円形でマンゴーに近い。仄かに甘い香りが漂ってくる。初めて見るけど、なかなかおいしそうだ。
しかし、その実を見て、食欲より不安が先立った。
「そうだよな。問題はスキルだけじゃない。食料だって必要だ」
むしろ、そちらの方が深刻かもしれない。食べ物がなければ、確実に死が待っている。餓死なんて冗談じゃないぞ。
ここは森の中だ。探せば食べられそうな物は見つかるだろう。目の前の果物がまさにそれだ。だけど、食べられそうに見えて毒がある物だってある。異世界に地球の知識が通用するとも限らない。食べる行為そのものが大きなリスクだ。
森を抜けられないか試してみるか? しかし、森の規模がわからない。さらに、無事に森から脱出できたとしても、人里にたどり着けるという保証がない。
「そもそも、村が見つかったとしても、金がないんだわ……」
考えれば考えるほど詰んでいる気がする。安全に食料を得る手段はなさそうだ。
「……よし。食べてみるか」
手の中の果物を見て決意を固める。元気なうちなら弱い毒があっても平気かもしれない。今のうち試してみよう。
手で剥くのは難しそうなので皮ごとかじる。リンゴみたいなシャッキとした歯ごたえのあと、甘い果汁が口の中に広がった。味は悪くない……というか、うまいぞ!
おっと、しまった。まだ安全かどうかわからないのに丸々一つ食べてしまった。遅効性の毒かもしれないのに、軽率だったな。
「今のところ体に異常は……ないよな?」
不安になりつつ、体の調子をチェックする。そのときだった。
“スキルの実によりスキル【毒耐性(弱)】を獲得しました”
突如、頭の中に声が響く。フィクスとは別の、抑揚のないシステム音声のような声だ。
おう……言ったそばから異常現象が。まぁ、異常は異常でも俺にとって悪いことではなさそうだけど。
毒耐性とか言っていたかな。今まさに俺が欲しい能力だ。名前に“弱”とついているから過信はできないけど、無防備でいるよりマシなはず。ありがたい。
だけど、どうして、このタイミングで? あの声はスキルの実がどうとか言っていた。実というくらいだから、さっき食べた木の実だと思うけど。
……なーるほど?
食べたらスキルが獲得できる実が“スキルの実”なら、その実をつける木はなーんだ? 答えはたぶん、スキルの木……スキルツリーだ。
「って、そっちの木!?」
データ構造ではありません。植物の方の木のほうでした。
ってマジ!?
あのポンコツ、やりやがったな!
はい。スキルツリーが木でした!(出オチ)
それでも物語は続きますよ!
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スキルツリーも出オチでは終わらない……はず




