第19話 何か見つけた!
妖精への依頼はある意味失敗で、ある意味順調だ。
「王様! 素材を見つけたよ!」
今日もまた、素材探索に出た妖精が戻ってきた。この子は新しく召喚した三人目の子だな。
何も指示しないと、俺への呼びかけが“王様”になるっぽい。よその勢力ならあながち間違いじゃないんだろうけど、うちの規模で王様と言われても滑稽なだけだ。
「俺のことはケントって呼んでくれ」
「はーい!」
こうやって言えば、次回以降は名前で呼んでくれる。なのでまぁ、些細な問題だ。
「どんな素材を見つけてきたんだ」
「この石だよ!」
妖精がそういうと、何もない空間からポロリと黒い石が落ちてきた。どうも妖精はゲームで言うところのインベントリみたいものが使えるようだ。採取した素材はその異次元の格納庫に入れて持ち帰ってくる。ただ、収納量は小さく、大量には持ち運べないようだ。
「石か。何が作れるのかな?」
転がった黒い石を拾ってみると、ずっしり重い。何だ、この石。
「これはね。鉄をね。作れるんだよ」
鉄鉱石か! どこから拾ってきたのか知らないけど鉄を作れるなら大きな進歩だ。だが――
「君に鉄は作れるの?」
「うん! でも、道具がないと、できないよ!」
とまぁ、一事が万事、この調子なのだ。道具作りのための道具がない。ゲームなら開始直後に解放されているはずの前提技術が未解放なので、その先に進めないみたいな感じか。何事も一足飛びには進まないというわけだ。
ただ進歩がないわけじゃない。いくつか原始的な道具の製作には成功している。例えば、石のナイフだ。割って鋭くした石の欠片を磨いて刃状にしただけの代物だけど、木を削るくらいのことはできる。これにより、ある程度の木工が可能になった。流石に建材の加工は難しいようだが。
鉄が手に入れば道具作りは一気に進むと思うんだが、問題はどうやってこの石を鉄にするか、だ。溶鉱炉ってどうやって作るんだ。その辺りの知識はないので妖精に任せるしかない。
「じゃあ、鉄を作るための道具を作ってくれないかな」
「わかった!」
元気よく飛んでいったが、本当にわかっているのかどうか。よく働いてくれるんだけど、彼らの言葉は額面通り受け取ってはいけない。あくまで、お手伝いと思って接するくらいがちょうど良さそうだ。生産作業を指揮できる人材がいれば活躍できると思うんだが、俺たちにはその手の知識がない。正直、彼らの能力を持て余している気はする。
今のところ、召喚した妖精は三人。増やそうと思えば一気に増やせるが、今は様子を見ている段階だ。
一食三個におやつで一個。合計十個が彼らが一日に食べるスキルの実だ。スキルの実は気づけば増えているのでそうそう枯渇することはないと思っているが、食事のたびにごっそり減るので少し不安がある。というわけで、本当に大丈夫なのか見極めるため、少しずつ増員することにしたのだ。
「ケント、今日はなに、手伝い、する?」
入れ替わりにピコがやってきた。前から俺についてまわることが多かったが、最近は俺の手伝いをやりたがる。妖精に触発されているのだろう。
「そうだなぁ。今日は整地をするか。ピコは地面に残った草を集めてくれ」
「わかった!」
整地と言うが、目的は木材確保だ。家を建てるのに木材は必要だが、それだけじゃない。最悪、家が建たなくとも、暖を取るための薪になるのだ。確保しておいて損はない。さらに言えば、建材にするにも薪にするにも、乾燥させないと駄目らしい。乾燥にはかなりの期間を要するので、今のうちから動く必要があるのだ。
「じゃあ、いくぞー」
スキルツリー周辺の外縁部で整地魔法を唱える。呪文ひとつで即完了なので、作業自体は簡単だ。
「ピコ、拾う!」
「ありがとうな。拾ったら小屋の辺りにまとめておこう」
「わかった!」
ピコに指示しながら、俺も雑草を拾う。これらも雑草加工術に使う大事な資源だ。今はもっぱら布にしているが、うまくすれば紙を作ったりもできるんじゃないかと思っている。まぁ、今の環境じゃ、紙を作ったところで利用手段がないんだけどな。
「あ、ノア。時間があったら、木を切っておいてくれ。タイガ、フラン、チャトルは枝を頼むな」
「にゃー」
雑草を拾い終えたら、ノアたちの出番だ。倒れた木はそのままでは乾燥に時間がかかる。形を整えるのは彼らの役割とした。ノアが大きく切り裂いて、他の猫たちがその補助だ。縦に真っ二つにするのはノアにしかできないが、枝くらいなら他の猫たちもできる。
「先輩、僕は何をしましょう!」
今度はレンがやってきた。やる気があるのはいいことだが。
「特にやれることはないだろ。お前も俺たちと一緒に雑草拾いだ」
「ピコが、教える!」
「あはは……それじゃあ、お願いしようかな」
人間組は無力なのだ。いや、猫と妖精が優秀すぎるだけだよなぁ。
「せめて弓があればお役に立てるんですけどね」
レンがぼやく。
「弓? お前、弓なんか使えるのか?」
「もちろん、以前は無理でしたよ。ただ、こっちに転移したときに、リーレン……この体と同化したので」
「へぇ」
憑依する形で転移しているので、元の体の技術を受け継いているらしい。
「エルフの国の女王だったんだろ? 他にもできることがあるんじゃないのか?」
「よくぞ聞いてくれました! 実は回復魔法が使えます!」
レンがドヤ顔で胸を張る。だが、回復魔法は便利そうだ。その態度も大げさではない。
「お前、マジか」
スキルの実に頼らず魔法が使えるとか、チートじゃないか。俺なんて、元のスペックのままなのに。
「しかも、広範囲魔法ですよ! まぁ、先輩の魔法ほどお手軽には使えないんですけどね」
聞けば、ゲームでは負傷した兵を復帰させる必殺技のような位置づけだったようだ。強力な反面、一度の戦闘で使用できるのは一度のみ。その設定を反映してか、この世界では消耗の激しい大技となっているらしい。
「でも、それは大規模に発動するからだろ。個人を回復する程度に力を絞れば、何度も使えるんじゃないか?」
「たしかに! 試してみる価値はありそうですね」
レンが嬉しそうに体の前で拳を固めた。大規模魔法では使い所が限られるから、試みがうまくいって欲しいものだ。俺の魔法のように、かっちり効果が固定されている可能性もあるが、それこそ試してみなければわからない。レンには頑張ってほしい。
話しながらも作業は続く。一面の処理が終わったので、次のエリアを整地しようとしたところで、「ケント、ケント!」と甲高い声が聞こえてきた。また妖精が何か見つけてきたらしい。
「ケント、見つけた! 何か見つけたんだよ!」
俺の前に飛んできた妖精は普段よりも慌てた様子だ。いつもなら、見つけた素材を見せてくれるんだが、それもない。
「何を見つけたんだ?」
「えっとね。えっと、素材じゃないの!」
素材じゃない?
「もしかして、魔物か?」
「違うの! えっとね、そう! 人だよ、人を見つけたんだよ! それもたくさん!」
妖精が両手を広げて数の多さを表現する。
大勢の人か。となると、レンのような迷い人ではない可能性が高いな。危険な森の中に集団で立ち入るなんて、いったいどんな目的があるのやら。厄介事じゃないといいんだが。




