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第17話 働き妖精

 レンが合流して、ボロ小屋はますます狭くなった。冬への備えもあるので、やはり建て直しは必要だろう。できれば大工仕事が捗るスキルが欲しいが、それを待っている時間はないかもしれない。


 そんなことを考えていると、隣で寝ていたレンががばりと起き上がり言った。


「やっぱり、スキルツリーがホームオブジェクトなんじゃないでしょうか?」

「なんだ、いきなり」

「昨日から考えてたんですよ。やっぱり“プレイヤー”として転移したのに、ホームオブジェクトがないのはおかしいんじゃないかって」


 そんなことを言うなら、こんな森の中に転移したこと自体がおかしいのではないかと思うが。レンによれば、この森は『死招きの大森林』と呼ばれているらしい。ゲームではどの勢力にも属さない無勢力地帯だったそうだ。兵を進めることで制圧はできるが、魔物軍が無限湧きするので維持コストがかさむ上、特にメリットがない。そんなわけで基本的には放置される土地らしい。


「いや、でも木だぞ。建築物じゃないだろ」

「そうなんですけど、勢力によっては巨大石碑がホームオブジェクトだったりするんです。だからもしかしたらって」


 ふむ、建物とは限らないのか。人工物と木ではまた違う気もするけど、試すだけなら簡単だ。確認するだけしてみるか。


「おうむ、おふせ、ふっとー……?」

「お、起きたか。おはよう、ピコ」

「はよー……」


 珍しく寝ぼけ眼のピコを伴い小屋を出て、スキルツリーのところに向かう。


「にゃー?」

「おはよう。ちょっとした実験だ。騒がしくして悪いな」

「にゃ!」


 スキルツリーの根本ではまだノアたちが丸くなっていた。一言謝ると、気にするなというのように鳴いて伸びをする。しかし、そのまま近くに居座った。実験に興味があるらしい。


「それで? どうあって確認すればいいんだ?」

「えへん。説明しましょう!」

「はいはい」


 レンがドヤ顔で胸を張る。それを適当に流すと、ノアも「にゃー」と急かすように鳴いた。レンが慌てて続ける。


「リーダーがオブジェクトに触れながら勢力コマンドを表示せよと念じればいいはずですよ」

「へぇ」


 言われた通り、スキルツリーに手を触れ、勢力コマンドをしろと念じる。すると、ホログラムのように透過するスクリーンが眼の前に現れた。


「おお、出た」

「出た? 何?」


 ピコがきょろきょろ周りを見ているが、スクリーンに視点が合わない。どうやら、俺にしか見えていないらしい。


「コマンドが出たってことは、やっぱりホームオブジェクトですね!」

「そうみたいだなぁ」


 自説が正しかったことに満足げなレンに同意を示す。まさか、スキルツリーが重要施設だったとは。そんなの、クロニクル・オブ・ロード未プレイの俺にわかるわけがない。これはまたフィクス許すまじ案件だな。心のメモにきっちり書き込んでおこう。


「ということは、スキルツリーのそばにいると回復が早まるのはホームオブジェクトとしての効果なのか」

「ですね。あと、魔物が近づかないかもって話でしたけど、それもホームオブジェクトの効果なのかもしれません」


 レンによれば、クロニクル・オブ・ロードには魔物によるランダムな襲撃イベントがあるらしい。支配地域で撃退に失敗すると、そのまま魔物にのっとられてしまう。例外的に各勢力の本拠地だけは襲撃イベントが起きない。たぶん、このイベントで勢力が壊滅することがないようにというゲーム的な配慮だ。その仕様を現実に落とし込んだ結果が、ホームオブジェクトの魔物避け効果なのではということだ。


「なるほどなぁ。思った以上に便利だな、スキルツリー」

「にゃー」

「べんり! すごい!」


 俺たちの中で、スキルツリーさんの評価が急上昇中だ。


「それで、コマンドのほうは使えますか?」

「おっと、そうだった」


 レンに促され、スクリーンに視線を戻す。UIは実にシンプルで、コマンド名らしき文字列が並んでいるのみ。しかも、ほとんどがグレーアウトされている。試しにスクリーンをタッチしてみるがやはり反応はない。


「駄目だ。ほとんど無効状態になってる」

「コマンド自体はあるんですか?」

「内政とか軍備とかはあるぞ」

「そうなんですね。ふむふむ」


 思案する素振りを見せたあと、レンが軽く頷く。


「たぶんですが、勢力レベルが不足しているんだと思います」


 勢力レベルとは何かと聞けば、ゲームにあった国力の指標らしい。生産力や経済力、軍事力などを総合的に評価したもので、コマンドによっては勢力レベルが解放条件になっているものもあるようだ。


 クロニクル・オブ・ロードの“勢力”というのは基本的に国だ。勢力レベル1でも弱小とはいえ国家。翻って、村落という規模ですらない俺たちはどうか。勢力レベルを無理やり当てはめたら、おそらくゼロかマイナスかってところだろう。


「あー……つまり、初期コマンドすら解放できていない状態ってことか」

「たぶん、そうなんじゃないかと」


 最低でも国家レベルにならなくては利用できないとなると、ハードルが高すぎて話にならない。


「じゃあ、ほとんどのコマンドはないものと思ったほうがいいな。ええと、そうなると使えるのは“支援ユニット召喚”ってやつだ」

「支援ユニットですか。ゲームだとあまり使われないですね」


 レンが渋い顔で説明する。それによると、補助ユニットは一部勢力で利用できるお手伝いキャラらしい。仕事を割り振っておけば、自動的にこなしてくれる反面、能力は高くない。維持コストに対するパフォーマンスが低いので、英雄キャラクターをスカウトできない特殊勢力か縛りプレイでしか使わないそうだ。


「維持コストって何だ?」

「普通は賃金ですね。支援ユニットならマナや食料の場合もあります」


 ほうほう。確認してみるか。


◆働き妖精◆

維持コスト:食料3

適性:採取、生産


 選べるのはこれだけか。維持コストは食料での支払いみたいだ。食料3がどの程度かわからないが、食べ物なら余裕があるので試しに召喚してみよう。


 スクリーンに手を滑らせ、召喚を選択。すると、スキルツリーのそばに青白い光の粒が集まって、人の形に姿を変えた。ただ、大きさはかなり小さい。手乗りサイズで、三角の帽子を被っている。妖精というよりは小人と言ったほうがイメージは近いな。


「うな? ケント、なんだこれ」


 ピコがちょんちょんと小人をつつく。小人もニコリと笑って、指に手を合わせた。波長があったのか、二人でキャッキャッと笑っている。


 ほほう。意外と愛嬌がある。お手伝いキャラというから無個性なモブキャラをイメージしていたんだけどな。そういうわけでもなさそうだ。


「妖精だってさ」

「よーせー?」

「お仕事を手伝ってくれるんだ」

「ピコも、手伝う! あわあわ、する!」


 ピコは本当に石鹸が好きだな。そして、いつも洗われてるノアとタイガが凄い表情になっている。こちらも相変わらずだ。


 まぁ、ピコの手伝いはともかく。働き妖精とやらは何ができるのか。少しでも生活の助けになるといいんだけどな。


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