第15話 家族と子分
さて、概ね事情はわかった。そうなると気になるのは瀬渡の身の振り方だ。
「お前、これからどうするんだ?」
「もちろん、先輩についていきます!」
間髪を入れず返事があった。まぁ、知り合いもろくにいない世界で偶然にも出会ったのだ。縋りたくなる気持ちはよくわかる。俺もノアやピコがいなければ、同じような心境だっただろう。だが――
「そうか。うーん……」
「なんです、その反応。え? ちょっと、置き去りになんてしないですよね?」
少し考える素振りを見せたら、途端に瀬渡は不安げな表情になった。失敗だったな。
「あ、いや。もちろん俺は反対じゃない。ただ、拠点は俺だけのものじゃないからな」
地球での後輩で、ある程度人柄も分かっている。しかも俺にはないクロニクル・オブ・ロードの知識を持っているのだ。ちょっと情緒不安定なのが気になるが、同情とかなしにしても、仲間に引き込んで損はないと思う。
しかし、それはあくまで俺の評価。ピコやノアがどう思うかは別の話だ。彼らの意見を差し置いて、勝手に決めることはできない。
「どうだ、ピコ。こいつを連れて帰っても大丈夫か?」
「うな〜?」
話を向けるとピコは瀬渡の周りをぐるぐる回りはじめた。いろいろな角度から瀬渡を眺めてはふむふむと呟いている。そうしているうちにノアたちも寄ってきた。こちらは、じっと瀬渡を見つめている。
探るような視線を向けられ、普通なら萎縮してしまいそうなものだが、瀬渡は呑気に笑っている。どうやら、ピコの仕草がツボだったようだ。
「ふへぇ。ピコちゃんって言うんですか。可愛いですねぇ」
瀬渡の顔がだらしなく緩む。こいつ、もしや……!
「おい、瀬渡。お前、ピコを狙ってるんじゃないだろうな!」
「ちょっ、誤解ですって! 可愛いとは思いますけど、そんなんじゃないですよ」
「本当だろうな……?」
「本当です! 僕、どちらかと言うと、守ってくれる年上が好みですし!」
瀬渡は勢いよく何度も頷く。瀬渡の好みなど興味はないが、その言葉が事実ならピコを不埒な目で見ているわけではなさそうだ。
「ノア、どう思う?」
「にゃー」
アホらしいと言うようにノアはプイと顔を背けた。興味なさげな反応だが、反対なら明確にその意思を示すはず。ひとまず連れて行っても問題ないという判断らしい。タイガ、フラン、チャトルも似たような反応だ。
「うな〜。ケント、こいつ、名前、何?」
ぐるぐる回っていたピコがようやく止まった。こてんと首をかしげて名前を尋ねてくる。そういえばちゃんと紹介してなかったか。
「こいつの名前は瀬渡だぞ」
「あ、僕のことはレンでお願いします。世界観的に瀬渡はちょっと。それにこっちだとリーレンと呼ばれているので」
ああ。そういえば名前はレンだったか。カタカナの名前なので、少し珍しいなって話をした覚えがある。まぁ、確かにエルフの姿で瀬渡っていうのも違和感があるんだよな。提案通り、そう呼ぶか。
「レンだってさ」
「レン! レンはかぞく?」
「いや、後輩……子分みたいなものだな」
「ひどい!?」
まぁ、子分はちょっと語弊があるか。でも後輩の説明はちょっと難しい。舎弟……とか? 子分とあまり変わらない気がするな。
そうこうしている間にピコは自分なりに納得できる落とし所を見つけたみたいだ。子分、子分と呟いてニコリと笑う。
「うな! レン、子分、いいよ!」
「おお。良かったな。今日からお前は俺たちの子分だ」
「ちっとも良くないですけど!?」
瀬渡……いや、レンが大げさに嘆く。が、ひとまずは俺たちに同行できるならそれでよしと判断したらしい。ぐちぐち言いつつも、その立場を受け入れた。
まぁ、新入りになるわけだし、変に威張るよりは子分みたいな気持ちで接するくらいがいいんじゃないかな。ノアなんかは特に気難しいし。慣れれば、そのうち子分からの格上げもあるだろう。たぶん。
目的であった岩塩は確保済みなので、もうここに用はない。来たときよりも一人増えた布陣で、拠点へと戻る。途中でデカトカゲに遭遇したが、それはノアが問題なく撃退した。衝撃波で真っ二つだ。実に頼もしいが、自身も真っ二つにされかかったレンは顔色がよくない。
「ひぇ。本当に凄いですね。猫なのに」
レンから見ても、ノアは猫なのか。確かに見た目は猫そのものなんだけど。
「ゲームにはノアみたいな猫はいなかったのか?」
「いなかったはずですけど、何とも言えません。クロニクル・オブ・ロードに登場する魔物は英雄キャラクター以外は“魔物軍”という形で十把一絡ですから」
ふむ。いろいろ魔物はいるはずだが、個別での言及はないってことか。そのせいで、猫系の魔物がいたともいないとも断言できないようだ。
なるほどな。こういった話を聞けるのは助かる。
ただ、ノアを魔物扱いするのは失敗だったな。
「にゃ?」
「わぁ!? な、なんですか!」
「ノアは魔物じゃないんだってさ」
「そ、そうなんですね。それはすみません」
不機嫌になったノアに詰められて、へこへこと頭を下げるレン。その姿は子分という立場がぴったりに見えた。やはり、丁度良い位置づけだったんじゃないだろうか。
「魔物じゃないとすると、聖獣でしょうかね」
「そんなのもあるのか」
「それっぽいキャラクターがいるんですよ。ゲーム内で正式に言及されたわけじゃないので、ユーザーが勝手に言ってるだけですけど」
人差し指を立ててレンが説明する。やはり、クロニクル・オブ・ロードが好きなんだろうな。こうして説明している時のレンはいきいきとしている。
一方、ノアさんは聖獣と呼ばれても無反応だ。まぁ、正式名でないらしいし、当然かもしれない。結局、正体はわからずじまいだな。
「よし、到着。ここが俺たちの拠点だ」
行きと同じくらいの時間をかけてようやく戻ってきた。スキルツリーとオンボロ小屋しかないような場所だが、それでも戻ってくるとホッとする。ノアたちも心なしかリラックスした様子で、散っていった。
しかし、レンにはこの感覚がわかないらしい。
「え? ここが拠点……?」
小屋を見つめて呆然と佇んでいる。
たしかに、拠点と聞いて想像するような代物じゃないか。だが、それはそれとして、苦労して建てた小屋に対してそういう反応をされると少しイラッとするぞ。
「おう、なんだ。俺が建てた小屋に文句あるのか?」
「ち、違いますよ! 何もない森のなかに転移したんです。一から建物を用意する必要があることくらいわかってますから!」
意地悪く聞いてみると、レンは大げさに手を振って言い訳する。腹芸ができるようなやつではないので、その言葉は本心のように思えるが……
「じゃあ、何に驚いてたんだよ?」
「ホームオブジェクトですよ。ここには、それっぽいものが見当たらなかったので」
何だ、それは。知らない単語が飛び出してきたぞ。




