第13話 調味料調査隊、出動!
勢力変化の通知が来て、しばらくは落ち込んだものの、数日も経てば持ち直した。結局のところ、なるようにしかならないのだ。それに、俺にとっては他人事にしか思えない。
だって、俺は国どころか村にすら所属してないんだぞ。この状態で戦争と言われてもな。
こんな人のいない森まで攻めてくる物好きはいないはずだ。そう考えると少し気が楽になった。
戦争なんてやりたい者同士でやればいい。俺はいつもと変わらない生活スタイルを貫く所存だ。
というわけで、今日も生活の質を高める取り組みをやっていきたい。やるべきことはたくさんあるが、今日のところは――
「調味料が欲しいな」
「ほーみよー?」
俺の呟きを拾ったらしいピコが首を傾げている。
「いや、調味料な。塩とか砂糖とか。知らないか?」
「しお、あちょー?」
「……知らないみたいだな」
「あちょー」
あちょーじゃなくて砂糖だぞ。しかし、調味料がわからないのか。いつから森にいるか知らないけど不憫だな。
「いいか、ピコ。調味料は食べ物をうまくするとても素敵なものだ」
「うまく……する!?」
まるで電流が走ったかのように、ピコの体がピクンと跳ねた。その目はキラキラと輝き、耳がピンと立っている。実にわかりやすいやつだ。
「ちょーみろー、欲しい!」
「ははは。そうだろ。俺も欲しい」
ノアたちのおかげで肉が食べられるようになったのはありがたいが、味付けなしだといまいちなんだよなぁ。せっかくの肉を美味しくいただくなら、やはり調味料は不可欠だ。せめて、塩くらいは欲しい。
「探しに行きたいんだが、当てがない。ノアたちは何か知らないか?」
猫に聞くのもおかしな話だが、俺よりは森での生活は長いので心当たりくらいはあるかもしれない。活動範囲も結構広いみたいだしな。
「にゃー?」
「うな〜」
相談のためか、ノアたちが集まって話をはじめた。その輪には何故かピコまで加わっている。俺だけ仲間はずれだ。ちょっとした疎外感を覚えるが、それよりも微笑ましさが勝った。スマホがあれば激写しているところだ。
少しして、チャトルが前に出てきた。
「ニャ」
「どうした。何か知ってるのか?」
「チャトル、しお、知ってる。あと、草もわかる!」
すかさずピコから補足が入った。ってちょっと待て。
「ピコは、チャトルがなんて言ってるのかわかるのか?」
「わかる!」
「マジかよ。教えてくれればよかったのに……」
俺がそう言うと、ピコはキョトンとした顔で首を傾げた。
「ケントも、わかる」
は? あ、いや。たしかに、なんとなくわかることもあるけどな。でも、流れ的になんとなくと言った程度だ。
「ピコほど詳しくはわからないから、困ったときは教えてくれな」
「わかった! 食べ物の話、ピコに任せる!」
ははは、食べ物の話限定か。まぁ、それでも十分助かるけどな。
「ええと、じゃあ、早速頼もうかな。チャトルに塩のことを聞いてくれ」
「わかった!」
うなうなと話し合ったあと、ピコが結果を報告してくれる。それによると、チャトルはしょっぱい石が転がっている場所を知っているらしい。おそらくは岩塩だろう。場所も把握しているらしいので、このあと案内してもらうことになった。意外とあっさり目標を達成できそうだな。
続けて、草についても聞いてみる。どうやらハーブのことのようで、この辺りにも食用に適したものが自生しているらしい。
「それは助かる。というか、よく知っていたな」
「ニャニャ」
「実、食べたら、わかる、なったって!」
スキルの実か! 植物鑑定みたいなスキルを習得したみたいだな。できれば俺が欲しかったが……いや、チャトルで良かったのかもな。俺の場合、鑑定できるようになっても、どこに生えているかなんてわからない。その点チャトルなら知識を活かせるわけだ。
「よし、それでは調味料調査隊、出動!」
「ちょーみろー、しゅーどー!」
というわけで、早速、岩塩をゲットすべく探索に出発だ。一人だけ置いておくわけにはいかないので、ピコも連れて行く。まぁ、心配はいらない。森暮らしが長いので、ピコは森を歩き慣れているのだ。実を言えば一番の足手まといは俺である。【肉体強化(微)】くらいでは越えられない壁があるのだ。
フォーメーションは前後をノアとタイガが守る形。中央に俺とピコ。その脇をチャトルとフランが固める。危険な獣と遭遇した場合は、ノアとタイガが戦う。チャトルとフランは護衛だ。この二匹はあまり好戦的じゃないが、それでも身を守るくらいはできるらしい。例の衝撃波も強化前のバージョンなら出せるそうなので、十分頼もしい。
「ニャ」
「この草! ちょーみろー!」
「ほう。どれどれ」
途中、ハーブを見つけるとチャトルが教えてくれる。今回は青々と茂った草がそれだ。たしかに香りは悪くないな。とりあえず、ごっそり採取して枯れ草を編んで作った籠に入れておく。加工法は知らないが問題はないはずだ。ハーブなんて雑草みたいなもんだし、【雑草加工術+】がいいようにしてくれるだろう。
幸い、道中で戦いになることはなかった。何度かデカいネズミと出くわしたが、猫は天敵なのか、こちらを見るとすぐに逃げ出していく。そのたびにタイガが飛び出していきそうになったが、ノアが何か言ってそれを引き止めていた。
流石はノア副隊長、頼りになるぜ。隊長? それはもちろん俺ですが、何か。
「ニャ」
「もうすぐ!」
「おお、ついにか」
目的地の岩塩エリアは意外と近かった。体感だと二時間かかっていない。森の切れ間になっていて、ほんの少しだけ開けている。そんな場所に、ポツポツと白い柱が立っていた。
「これは……岩塩、なのか?」
「ニャ?」
違うのかとチャトルが見上げてくる。だが、俺は答えを持ち合わせていなかった。岩塩について詳しく知っているわけではないのだ。
ただ、なんとなくイメージとは違う。岩塩が採れるのは、かつて海の底だった場所なのではなかったか。それが地殻変動で干上がって、残された塩が結晶化したのが岩塩だったはずだ。だとすると、こんなふうに柱になるのは変じゃないか?
とはいえ、ここは地球じゃない。違った形で岩塩が作られたとしても不思議ではない……か?
まぁ、塩かどうかは確かめてみればわかるだろう。柱のそばに落ちていた欠片を舐めてみると、確かに塩味がした。うん、間違いなく塩だな。この白さ、結構純度が高いのかもしれない。
「ケント、うまうまか?」
「うまうま……まぁ、塩だな」
「おお!」
興味津々といったピコの顔が、俺の言葉でより一層輝く。いやな予感がしてピコを止めようとしたが一足遅かった。驚くべき速さで、ピコが塩の塊を拾って口に放り込む。
「にぎゃ!?」
「あ、馬鹿! 吐き出せ!」
「うな〜! ぺっ、ぺっ!」
「ほら、水だ。飲むんだ」
慌てて飲み水魔法を使い、指先から水を出す。ピコがちゅうちゅう指に吸い付いた。いや、吸っても勢いは変わらないからな。
「うう……口の中、あぎあぎ」
「それはしょっぱいって言うんだ」
「しょっぱい……塩、うまくない!」
「一気に口に入れるからだ。塩はほんの少しでいいんだ。それにそのまま食べるんじゃなくて、他の食べ物にかけるんだよ」
「うな……」
説明してやっても、ピコはしょんぼりだ。トラウマになってなきゃいいが。まぁ、ちゃんと料理した物を食べれば考えも改まるだろう。
流石に柱ごと持って帰ることはできないので、塊をいくつか拾って籠に入れる。これくらいの量があればしばらく保つはずだ。
これにて目的達成である。では、帰るかというとき――
「にゃ」
「ニャア!」
ノアとタイガが警戒を促すような鋭い声を上げた。何事と思うも間もなく、ノアが爪を振るう。凄まじい衝撃波が木々をなぎ倒すと、その向こうから「ひぇ」と悲鳴が聞こえた。まるで、人の声のような悲鳴が。




