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第11話 スキルチートはコツコツと

「泡、泡! ぶくぶく〜!」

「あ、こら! 大人しくしてろって。また目に入って泣くことになるぞ!」

「う〜。目、痛いは、や!」

「だろう。ほら、今、流してやるからな」


 ピコたちがやってきて、一ヶ月くらいが経った。地面に“正”の字を書く日課は続けているが、たぶん若干のずれはある。うっかり消してしまったり、ピコの世話で書き忘れることもあるからな。まぁ、正確な日数を知ることにそれほど大きな意味はない。ざっくりと把握しておけば問題ないだろう。


「うな〜、さっぱり!」

「ははは、そうだろう」


 この一ヶ月で森での生活もかなり安定している。こうして風呂に入るくらいの余裕があるくらいには。


 まぁ、風呂と言っても、屋外に作った浴槽にせっせと水をためて、焼いた石をぶち込んだような代物だ。用意するのが大変なので、毎日入るのは厳しい。せめて二、三日に一度は入りたいが……それも難しいだろうなぁ。


「ほら、体を洗ったら湯に浸かるんだ。そのままじゃ風邪引くぞ」


 俺が転移してきた頃と比べると、気温が下がっているように思う。おそらく冬が近づいている。この森は比較的温暖な地域だと思うが、それでも冬の寒さは厳しいだろうな。なにせ、地球にあったような便利な暖房器具はないのだから。今から覚悟と準備をしておいたほうが良さそうだ。


「ケント、泡、出す! 泡!」

「泡? いや、湯に浸かってろって」

「うな! みんな、洗う!」

「ニャア!?」


 ピコは猫たちも泡仲間に引き込みたいようだ。タイミング悪く近くを歩いていたタイガが不穏な気配を察して逃げようとしたが、ピコはそれを許さない。素早い動きでタイガを確保した。


「逃げる、ダメ」

「ニャ、ニャ……?」

「泡、楽しい!」

「ニャ〜……」


 ニコニコ笑顔のピコを見て、タイガは観念したように大人しくなった。流石はピコさんだ。


 やはり猫なのか、タイガだけじゃなくて、他の奴らも風呂嫌いだ。俺が洗ってやろうとすると容赦なく引っ掻いてくる。ただ、ピコには遠慮があるのかそこまで激しく抵抗しないみたいだ。たしかに、これは良い機会かもしれない。


「ほら、石鹸だ」

「泡、作る!」

「ニャ……」


 ピコが石鹸のついた手でわしわし撫でる。ぶくぶく泡まみれになりながら。タイガは大人しくそれに耐えているようだ。これならピコに任せても大丈夫そうだな。この間に俺も自分の体を洗おう。


 ふふふ。この日のために、ちゃんと道具を用意しておいたのさ。このへちまスポンジをな!


 ちなみにへちまと呼んでいるが、地球のそれと同じものかはよく分からない。なんとなくの知識でへちまだと判別したので、ひょっとしたら全然別物かもしれない。まぁ、同じように使えるならそれで十分だ。


 へちまスポンジに石鹸をつけて擦ると、たちまち泡が溢れ出る。泡立ちは悪くない。思いっきり擦るとちょっと痛いが、この程度なら問題ない。十分にスポンジの代用品として利用できる出来だ。


「タイガ、きれい、きれいなったね!」

「ニャ……」

「次、ノア!」

「にゃあ……?」


 タイガを洗い終えたピコが、次はノアを指名する。そのノアはぐったりするタイガを見て嫌そうに鳴くが、ピコは容赦なく鷲掴み。それでノアも観念したのか、渋々ピコの前に座り込む。


 あのノアすら指示に従わせるとは。凄いなピコ。優秀なトリマーになれそうだ。


 さて、手強い二匹をピコが担当してくれるなら俺にも手伝える。


「フラン、チャトル。今なら俺がささっと洗ってやるぞ」

「にぃ」

「ニャ」


 呼びかけると、大人しい組の二匹はすぐに寄ってきた。素直でよろしい。まぁ、ピコに強めに洗われるよりはマシだと思ったんだろうけど。この二匹は結構要領がいいんだ。


 体を洗い終えたあとは、湯船にどぼん。猫たちは逃げたのでピコと二人だ。猫洗いに時間をとられたので、少し冷めているな。焼いた石を余分に用意しておくべきだったか。


「水、ちゃぷちゃぷ! あったかい」

「お湯な。あったかい水はお湯」

「うな、お湯!」

「そうそう。だいぶ喋れるようになってきたなぁ」

「ピコ、喋る、うまい?」

「ああ、うまいぞ」


 頭を撫でると、目を閉じて嬉しそうに耳をピコピコさせる。湯の中では尻尾もゆらゆら揺れていた。本当に見ていて飽きないな。


 まぁ、実際、ピコはかなり喋れるようになった。まだカタコトではあるけど、簡単な内容なら意思疎通できるほどだ。ほとんど喋れないところから一ヶ月でここまでになった。たぶん元々ある程度言葉を理解していたからできたことだろう。


 十分に風呂を堪能したら、今度は洗濯だ。残り湯も無駄にはできない。さっきまで着ていた服を放り込んでじゃぶじゃぶ洗う。


 と、勢いよく洗濯をはじめたのはいいが、まさかの事態だ。横で作業を見ていたピコが俺を見上げて無情な事実を告げる。


「ケント、服、破れた」

「ああ……そうだな。まぁ仕方がない。また作るから大丈夫だ」


 うん。洗濯は意味がないかもしれない。洗ってるうちに解けて使い物にならなくなってしまう。服を作るまではうまくいったんだが、クオリティはまだまだのようだな。


 そう。実を言えば、いま着てる服も洗濯している服も俺が作ったんだ。俺のサバイバル能力もなかなかのものだろう? まぁ、当然ながらスキルのおかげなんだが。


 服作りに大活躍したのは【雑草加工術+】というスキルだ。突っ込みどころは多い。雑草を加工してどうなるとか、これまで“微”とか“弱”だったのに今度は“+”なのかとか。習得したときはまたハズレスキルかと思ったものだが、意外や意外、わりと重宝している。


 このスキルを使えば普通なら時間がかかる加工も一瞬で可能だ。雑草の区分も広いみたいで、さっきのへちまスポンジもどきもこのスキルで加工した。他にも、雑草の束から繊維を取り出して糸にすることができる。しかも、元が雑草だからか、この繊維糸に対しても加工が適用できるんだ。一足飛びに処理することは出来ないが、糸から布、布から服という過程を経ればこの通り。まぁ、今洗っている物に関してはボロくずになりつつあるが。


 うーん、おかしいな。麻布だって麻の繊維だろ。洗濯一回でここまでボロボロにならないと思うんだが。加工のイメージがよくないのかねぇ。それとも素材の問題か? その辺りは要検証だ。


 幸い、【雑草加工術+】さえあれば服作りは難しくない。使用にあたってマナを消費するが、消耗は【飲み水魔法】と同じくらいなので負担は軽い。なので、最悪、服は使い捨てにしてもいいかと思っている。


 問題は家だな。


 今の住まいは急拵えのボロ小屋。資材は土と木板、枯れ草を使っている。木板はノアさんに丸太をスパッと切って用意してもらった。壁は板を地面に立て、それを土で固めて補強してある。三角状にして組んだ骨組みに束ねた枯れ草をのせて屋根にした。大雨が降ったら雨漏り必至だが、幸い、この辺りはあまり雨が降らないようだ。雪も降らないといいんだが。大雪になったら、こんな掘っ立て小屋はぺちゃんこだ。


 これから冬が来るなら、しっかりとした家を建てたい。だが、素人がこれ以上の物を作るのは難しいだろう。なので、そこはスキルの実に期待したい。


「よーし、飯だ、飯!」

「飯、飯!」


 というわけで、早速、食事タイム。最近ではノアたちが肉を狩ってくれるが、それでも主食はスキルの実だ。パワーアップも兼ねているのでこれは譲れない。俺だけじゃなく、ピコや猫たちも毎日最低ひとつは食べている。ハズレスキルも多いが、【雑草加工術+】のような例もあるのでコツコツ集めておくのは重要だ。いつか役立つこともあるだろう。


「いだきます」

「だーます!」

「「「にゃ」」」


 運試しの時だ。とはいえ、あまり期待していないのでドキドキ感はない。もう作業のようなものだ。


“スキルの実によりスキル【鑑定(木の実)】を獲得しました”


 鑑定ねぇ。これまた用途が限定的な……ん!?


 いや、待て。これ、超重要スキルなのでは!?

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